第五話
勝人side
転校してきて数日後の昼休み、俺は現在購買で買ったパンを片手に廊下を歩いている
「はぁ」
俺がため息をついてる理由、それはほかでもないリトルバスターズだ。ここ二、三日やたらと絡んできて気の休む暇がない。おかげで教室だとろくに昼飯も食えないため現在落ち着いて昼食をとれる場所を探している最中なのだ
「まったく、何なんだあいつらは」
いくら跳ね除けてもまた声をかけてくる。何がしたいのかさっぱりわからない。確かに俺は理樹と幼馴染で昔はよく一緒に遊んでいたが、だからと言ってあいつらが俺にかかわろうとする理由にはならないはずだ
(これ以上考えても無駄か)
はあ、とため息をつき俺は再び飯を食う場所を探し始めた
「どこで食うかな、昼飯」
学食は理樹たちがいるからダメ、裏庭と中庭もリトルバスターズのメンバーがいることが多いし何より人目につきやすい。どこか静かに飯を食える場所はないのだろうか
「・・・屋上にでも行くかな」
この学校は屋上は立ち入り禁止らしいが逆にいえばそこなら安心して飯が食えるということでもある。教師に見つかったら・・・その時はその時だ。屋上に向けて歩を進める。四階の階段を更に上り屋上のドアに手をかける。だが案の定屋上のドアにはかぎが掛かっていた
「ま、当然と言っちゃ当然か」
諦めて他の場所を探しに行こうとした時あることに気がついた。屋上に通じる窓が一つ空いているのだ。ご丁寧に足場になりそうな椅子まである。そして気になったのは窓の桟にある手のひらサイズのドライバーと木ねじ
(他に誰かいるのか?)
まさか自分以外に立ち入り禁止の屋上に出ようとする人物がいると思っていなかったのでその事実は少なからず俺を驚かせた
(とりあえず出てみるか)
そう思い俺は空いていた窓から屋上に出た。屋上のコンクリートに足をつけた瞬間上履きがすたっ、という乾いた音を上げる。と、同時に
バサバサ ズゴンッ
何やらにぎやかな音がした
「・・・なんだ?」
音のした方に向かう、するとそこには給水タンクに潜り込もうとして失敗し頭しか隠せていないという何とも間抜けな格好をした女子が一人いた。っていうか確かこいつ
(神北・・・だっけか)
そう。その人物は最近の俺の悩みの種であるリトルバスターズのメンバーの一人神北小毬だった。っていうかこんなところで何をしているのだろう。新しい遊びかなんかか
「えーと、神北?」
とりあえず呼んでみると
「わあああああっ!?ごごご、ごめんなさいっ!」
頭を抱えたまま全力で謝りだした。俺を先生かなにかと間違えているようだ
「おい、俺は別に先生じゃ・・・」
「べべべ、別にいつも出てるわけじゃなくて、今日はたまたまで・・・あっ、そう!気がつくとここにいたんですっ!」
いつも出てるのか。っていうかその言い訳はかなり無理があるぞ。そう突っ込もうかと思ったが面白そうなので少し放置
「あああの、世の中には不思議のことがいっぱいありまして、きっとこれもそうなんですっ!お菓子とか空から降ってきましたーっ!」
俺にはお前の頭の中の方がよっぽど不思議だよ、と頭の中で突っ込みながら地面を見渡すとそこには散乱した大量のお菓子があった。とりあえずこのまま放置しておくとどんどん神北がおかしくなっていきそうだったのでとりあえず話かけることに
「で、なにやってんの?お前」
相変わらず意味不明な言い訳をしている神北の声を遮ってそう声をかけた
「は、はい?あれ・・・高宮君?」
「そうだよ」
ようやく気付いたようだ。ていうか遅すぎだろ。大丈夫かこいつ。微妙に心配になってくる
「実は生活指導の先生で高宮君の声真似してるとかじゃなくて?」
・・・本当に心配になってきたな
「そんなハイスペックな先生がこの学校にいるならぜひ会ってみたいよ」
「な、なぁんだ」
「て、ていうか早く出てきてくれないか」
「ふぇ?どうかしたの?」
「いや、だからその、見えてるんだよ」
さっきも言った通り今の神北は頭だけを給水タンクの下に突っ込んでいる状態だ。つまり当然・・・スカートの中は丸見えなわけで。っていうかアリクイってどんなセンスしてるんだ?
「見えてるって何が・・・」
どうやら神北も気づいたらしい
「ほわあああああっ!」
ゴスンッ
慌てて出ようとして頭を打つ
「う、うわああーん。に、二回目」
さっきの音はそれだったのか
「えーと、とりあえず後ろ向いててやるから落ち着いて出ろよ」
「う、うん」
今度は慌てずに出てくる。っていうかこれだけの作業にどれだけかかってんだよ
「で、出られた」
「ようやくな」
俺がそう言うと神北はハッ、と顔をあげて俺の顔を見る。・・・そのまま、数秒
「ああああっ、どどどうしようっ、もうお嫁もらえないーっ!」
いや、お嫁はどっちにしろもらえないだろ。そう思うもいちいち突っ込んでたらきりがないのでとりあえず落ち着かせることを優先する
「いや、別にそんな気にすることないんじゃないか?」
俺が言うのもなんだが
「え・・・あ、うん、だいじょうぶ、かなぁ?」
「多分」
何が大丈夫なのかは全く分からないがあえてそこには突っ込まない
「じゃあ・・・見なかったことにしよう」
ピッ、と俺を指さしながら言う
「おっけー?」
「あ、ああ、おっけー」
「見られなかったことにしよう」
今度は自分を指さしながら
「これで万事解決だね」
「ああ、うん。そうだな・・・」
最早突っ込むのも面倒だった
「あ、でも・・・高宮君、だよね」
「他のだれかに見えるか?」
「何してるのこんなとこで?」
至極真っ当な疑問だった
さすがにお前らがやたらからんでくるからだれもいなさそうな場所を探してたんだよ、っというのは気が引けたので
「・・・なんとなく?」
とこたえていた
(っていうかなんとなく立ち入り禁止の場所に来るってどんな奴だよ)
思わず自分に突っ込みを入れてしまう。これではただの変人だ
「ふぇ?なんとなくでこんなとこに?高宮君って、思ったより変ったことする人なんだね」
(もう、どうでもいいや・・・)
これ以上何か言っても墓穴を掘るだけだと思いあきらめることに。こうして俺は晴れて変な人のレッテルを貼られることとなった
・・・理不尽だ