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携帯電話

作者: 朔狩 宝黎

「誰かを遊びに誘おう。」


それがきっかけだった。



俺は友達に電話をかけた。


チャラリラ〜…


軽快なリズムが相手の耳に届く。


『もしもし?』

「あ、俺。なぁ今日遊ばねぇ?」

『あ、今日?全然いいよ……え?何だよ。お前そこにいたのか。』

「は?何言ってんだよ。ここは俺ん家だぜ?いてあたりま・・・。」

『来るな!な、話し合おう。俺が何したんだ。』

「お、おい。どうしたんだよ…?」

『どうしたんだ、だって?こんな状況でよくそんなことが…ひいぃっ!!!』

「…なぁ、どうしたんだ!おい!」

『うわあああああああああ!!』


プツ、ツーツーツー…。


今、何があった?

今、この携帯電話から聞こえてきたものはなんだ?

向こうでは一体…。

と、とりあえず警察だ!!


いや、ちょっと待て?

もしかしたら俺を脅かすためのものかもしれない。

別の奴に連絡を取ってみよう。



トゥルル…

『はい。』

「あ、俺。なんかさっき早本に電話したら…。」

『え、何だよお前。そこにいたのにいちいち電話したのか?』

「…はぁ…?」

『で、どしたんだよ。え…何だお前、その…ナイフは!』

「ナ、ナイフ?」

『待てって、おい。俺がお前に恨まれるようなことしたか?』

「お前、誰に話してるんだよ。」

『誰ってお前…ああああああああ!!!!!!!!!!』


プツ、ツーツーツー…



ちょっと待て、これはさっきとほとんど一緒じゃないか…。

やっぱり警察に…



トゥルルルル…



『はい、こちら…』

「すいません!友達が何だか様子がおかしくて電話口で叫ぶんです!」

『電話口で…。って、もしかして君?』

「何がですか!」

『いや、別に携帯電話を通して話さなくても…。』

「…は?」

『ひっ、君!何を持ってるんだ!その右手に持っているものは!』

「持って、って…。俺は自分の家にいるんですが…?!」

『おい、誰か…誰か助けてくれぇ!!ぐあああああぁぁぁぁあぁああ!!!!!!!』


プツ、ツーツーツー…


何だ、何が起きてる?

悲痛なまでの悲鳴は何だ?

右手に持っているもの…

俺は何を持っていた?

恐る恐る、自分の右手を、見る。


ゆっくり、ゆっくり…


なるべく頭の位置をずらさずに、目だけを動かして…









右手に、血のついたナイフ









「うわあああああ!!!!!」

血のついたナイフをなるべく遠くへ放り投げる。


何だ?何が起こってる?

俺は、俺は家にいたはずだ。

今も、いる。

じゃあ何で知らないうちにナイフなんか持ってる?

何で血なんかがついている?

何が起こってるんだ、一体、何が…。





ピンポーン、ピンポーン!!!


ガチャガチャガチャガチャ!!!!


インターホンの音

ドアを開けようとする音



すべてが恐怖に…思えて…



























チュン、チュン…



「ん、朝…か。」


あれは夢だったのか…。

でも何だか胸騒ぎがする。

電話してみて確かめてみよう。



チャラリラ〜…


軽快なリズムが…誰かの耳に届いただろうか。


ガチャ…

「もしも…」

『この電話番号は現在使われておりません。』


…嘘だ…。



トゥルル…


『この電話番号は…。』




トゥルルルル…


『はい、こちら…。』

「あの!すいません、昨日ここで…その…死んだか何かした人って…。」

『今川の知り合いの方ですか?今川は昨日不審者にナイフで刺され、今病院の方にいます。』

「そ、そうですか…。」



ナイフで…

俺がやったのだろうか…?

いや、違う。俺は何もしていない。

俺がいつ人を殺したっていうんだ?

俺がいつこの家を出たって言うんだ?

誰が、一体誰が…。



ちょっと待て?俺が電話をする先々にそいつは出てくる。

じゃあ…いや、その前に隣の部屋の人に電話をかけてみよう。


トゥルルルル…


「はい、青崎ですが…。」

「あ、えっと…その…。」

「何でしょう…か?え?宮崎さん?何ですかいきなり部屋に入ってきて…。」

「その…。」

「あ、ナ、ナイフ?ちょっと待ってください私が何をしたっていうんですか?!」


俺は片方の耳に携帯をくっつけ、もう片方の耳で壁の向こうの音を聞いた。


「ひっ、い…いやあああああああああああああああ!!!!!!!!!」



ザクッ、ザクッ…


プツ、ツーツーツー…


携帯の向こうの音は聞こえなくなった。

壁の向こうの音も聞こえなくなった。



気になる。



俺はすぐに部屋を出て、隣の部屋へと入っていった。

そこで見たのは、ベッドにうつ伏せに倒れこむ背中を真っ赤にさせたお隣さんだった。


「う…。」

俺は吐きそうになってすぐその部屋を立ち去った。



隣の部屋には誰もいなかった。

何故いなかった?壁の向こうの音さえも聞いたのに。


次は俺だ。

俺に電話をかけてみよう。


俺は自分の家の電話番号を押した。



トゥルルルルルル…


すぐに自分からの電話を取る。


「もしもし?」

『…………。』


出るはずはない。

だって自分でかけたのだから。


切ろうと思った。

その時だった。


『やっと気づいたね。』

ビビッた。

自分の声が電話口から聞こえてくる。

恐る恐る受話器を耳に近づける。


「あんたは、誰?」

『俺はあんたさ。何で今まで気づかなかったの。』

「気づかなかった、って…。」

『じゃあ鏡を見てみなよ。』


俺は、恐る恐る…


鏡に近づいて…


『どう?そこには誰がいる?』


息を、呑んだ。


 どう?そこには誰がいる?


そう言ったのは、真っ直ぐに俺を睨む



「俺」だった。




「そんなこと、あるわけないだろ。」



俺の唇は思った通りに動く。



『あるから俺はここにいるんだけど?』



もう一人の俺によって俺の唇は動く。



何だ、これは?


夢?そうだ、夢だ。


きっと俺はまた変な夢をみて…。





『夢なんかじゃないんだ、お前は存在してる。

でもそれ故に俺も存在してる。』




鏡の向こうの俺は右手の受話器を落とし、

その代わりに地面に落ちていた

「あるはずのないもの」を俺の胸に当てる。


「止めろ…お前は、俺なんかじゃ…。」



鏡の向こうの俺はにたりと笑い、唇だけ動かして言った。




『ばいばい。』





























「一昨日、連続して刺された3人のうち2人は死亡、1人は意識不明の重体。

目撃者などの証言により容疑者、宮崎聡宅を家宅捜索をした所、

容疑者の大量の血がリビングに残されていました。

ですが、その遺体は未だ見つからず…。」

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