表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

リターン・メモリー

 家に入ると真っ先に扉を閉めた。雨戸もカーテンも。ある意味僕だけの小さな世界。なんでこうなったのかわからない。勉強にも手がつかなかった。実は、言うのは嫌だから言わなかったが他にも嫌なことがあった。思い出すと、ほおの後ろがすこし冷たくなり、顔を隠したくなる出来事が。生まれつき足が不自由だと知らず、全校生徒の前で

「どうして、足が悪くなったんですか?」

なんて言った事。もう忘れたかったから、あえて言わなかったが。僕が変わって3日目のことであった。テストで自分じゃないのに返事をしてしまった事。ああ、人と会う、喋るすべての行動に恐怖を感じてしまった。

――――「それを、君が望んだんだよ。」

 この声。僕の記憶が溢れるように思い出した。暗い僕。それを解き放った一言。


        「消してあげようか。」


 愚かだ。消したって、人はまた繰り返す。動物だって、群れで移動する生き物は仲間の犠牲が経験となり、危険回避をする。つまり、経験を感情をとおして見るといくつかのカテゴリに分かれる。もちろん動物にだってあるかも知れない。そのカテゴリに嫌な記憶(自分の失敗によりできた)、恥ずかしい記憶などが集まったフォルダもある。このフォルダを’黒歴史’と名付ける人もいる。それは、嫌な情報(データ)であるが決してゴミではない。それは、経験という大きなフォルダの一部なのだから。それに、カレが気づかせてくれた。もしかして、カレは……もう1人の……。

――――「気づいたようだね。」

「じゃあ、やっぱり君は……。」

――――「そう、当たっているよ。」

「じゃ……。」

――――「ごめんね。話せる時間が少ないんだ。僕が話せる時間は君が自分自身を見つめる時間。」

――――「それも、後ろ向きな気持ちの時しか姿を現せないんだ。」

「……。」

――――「大丈夫。いつも君の近くにいるんだから。」

 カレのチェーンは切れて落ちた。フードがめくれて顔があらわになった。僕が1番嫌いだった顔をしていた。

「ありがとう。」

 そう言って、笑った。


「N、N君。」

 女性の声、聞こえるが返事ができない。

「目、開けてよ。」

 体にひどい痛みを感じた。目の前は……。包帯に巻かれた足が毛布から出ていた。

「N!」

 Hさんか。

「Hさん……。なんで泣いているの。」

「だって、だって……。」

 その一言が、さらに泣かしてしまった。看護婦の話によると歩道橋の上から飛び降りたらしい。記憶には全くないが……。じゃあ、あの出来事は……。

 空いた窓から、柔らかな風が僕を包んだ。窓からは、温かく見つめられる気がした。しかし、誰もいない。ゴミ箱には、何枚かの日めくりカレンダーのちぎった紙が捨てられていた。



 君達の中には、いろんなことに悩んでいる人がいるだろう。しかし、失っていい物といけない物、それはしっかり見分けなければいけない。そんな人には、気づいていないかもしれないが、近くにある窓やガラスには映っているかもしれない、カレがね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ