王子と侍女と庭師の話
(異世界からの旅人シリーズ)
渋い顔をしたまま、中庭を歩くこの国の第一王子のすぐ後ろを今年、この世界にやって来た侍女はどうしたら、良いのかと思案顔で王子の背中を見つめている。更にその後ろを王子の近衛騎士が少し、楽しそうな表情で着いて来る。その三人の姿を通りかかった人は不思議そうに通り過ぎるのを見つめた。
王子は数か月前に隣国の第一王女を妃に迎えたのだったが、あまり、会話らしい会話が出来ないで居る。何かきっかけが欲しくて、今日も仕事の合間に中庭を散歩していた。侍女は去年の暮れに地球からこの世界に渡って来た日本人だ。世界を渡って来る異世界人は国に豊穣を与えてくれると言われており、今年の収穫の時期はまだ先なので、こうして、王城で目の届くところに置かれている。騎士は王子のお目付け役の青年で王子に色々と良い事も悪い事も教えた。楽しい事が大好きで、王子の渋い顔も侍女の思案顔も見ていて楽しい。
ふと、王子が足を止めると視線の先に、庭先の低木の剪定作業をしていた青年と目が合った。青年が王子に気付いて、作業の手を止めて頭を下げた。この庭師の青年も異世界からの客人だ。来たのは三年ほど前になるが未だに帰ることは出来ないでいる。帰れるか帰れないかは分かっていないようで、突然、帰っていく人もいるそうだ。
「相変わらず見事だな」
「お爺の教育の賜物ですよ」
「爺も後継者が出来て喜んでいるだろう」
「ああ、そうなんですけど…」
「帰りたいか?」
「出来ればね、店そのままだし、どうなってるんだろうか心配ではあります」
「そうか、何も出来ないのが心苦しいな」
「王子が気に病む必要はありません。俺も楽しんでいますから」
「そうか、それを聞いて安心した。ところで、相談に乗って欲しいことがある」
「俺にですか…?」
不思議そうに王子の表情を窺って庭師は、王子の悩みを聞くことにしたようだ。侍女の顔がぱっと明るいものに変わる。
「幾つか花を分けて欲しいと思ってな」
「王子のお部屋にですか?」
「いや、僕にではなく、…妃にだな…」
言いにくそうに王子が顔を赤くしながら口篭もる。ああ、と理解したように庭師は嬉しそうに王子の頼みを引き受けることにした。
「それでな、仕事に戻らないといけないので、これから朝に侍女に花を受け取りに行かせるので、妃の部屋に届けて欲しい」
庭師と侍女の顔を交互に見やると王子がそう言って頼み込む。はい、と嬉しそうな笑みを浮かべて侍女は頷いた。庭師も断ることはしない。王子は騎士を伴って仕事に戻って行った。
「宜しくお願いします!」
「ああ、君とは話をしたいと思っていた」
「ナンパですか?」
「ナン…違う! 違う、君が日本人だと聞いていて話をしてみたかっただけだ。やましいことなんてない」
「ふふ、冗談です。貴方も日本人なんですか?」
「ああ、歩きながら話そうか。庭園に花を取りに行くのだろう?」
「はい、そうでした。何の花が良いんでしょうかね」
「王女はどんな人だい?」
「金髪に緑の瞳という典型的なお姫様!」
「そうか、なら、まずは無難に薔薇かな」
「そうだね、お姫様ならそんな感じ」
「無難に可愛い色のピンクなんかいいんじゃないか?」
「それがいいと思う。それ、持って行くね」
「ああ、長持ちするコツを教えておこう」
「それなら大丈夫。花屋でバイトしてたから知ってる」
何気ない一言に、庭師は目を瞬かせた。それなら、棘だけを処理しただけで後はこの侍女に任せてしまっても良いだろう。それから、三日置きに侍女は花を取りにやって来る。
どうやら、妃は花を気に入ってくれたようで、王子との仲も良好なようだ。そして、花屋の店主と店は違うが花屋のバイトの二人の距離も縮んだようだ。まだ、二人とも、元の世界には帰れないが、それはそれで楽しい毎日を送っている。満開の花が綺麗に咲く様子は、豊穣の証と言っても良いかもしれない。
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