ぼっち舞踏会
「……きてたんだ?」
「ええ、そうよ。実はね」
煌びやかなダンスホール。
踊りながらふと目をやった先に見覚えのある姿が見えたから、近づいた。見慣れないドレスに身を包んだ幼馴染を前にして、俺は顔を顰めて見下ろしていた。
「なんできたんだ?」
「駄目なの?」
「いいや、招待を受けてるんだ。悪いことはないが」
招待状を欲しがる人間も多い、流行りの舞踏会だ。
そう——ここは、ダンスを嗜みながら交流を広げる場所。
「だったらいいじゃない」
「……お前、ダンス下手だったろう」
「………………その節は、本当にすみませんでした」
誰の足を踏みまくったのか思い出したのだろう。途端に目が泳ぐ。
けれど別に謝ってほしいわけでも、気まずそうな顔を見たかったわけでもなくて。
「いや、いいんだ……それで、どうして」
「私も踊れるようになったのよ、と言いたいところだけど、そう言えないからここにいるの」
ちょんと下を指差した彼女は、はにかんだ。
「……壁の花?」
「ふふ、そうそう、それよ。貴方と違ってね。あーあ、踊れる人はいいわねえ」
「いや、だからなんできたんだよ」
いくら壁の花とはいえ、ここは社交の場。
いつ何時、どこぞの誰かに話しかけられてもおかしくない。
「きてみたかったのよ。みーんな、舞踏会の話をするんだもの」
「じゃあ踊れば? せっかくめかし込んできてんのに」
「ダンス上達してないって言ったでしょう。また踏んじゃうかも」
「舞踏会だぞ。ダンスもしなけりゃ、話もしない。ただ壁にいるだけって……浮いてんだよお前」
「まあ、私の心配をしてくれるの? やさしー」
「くっそ、本気で嫌なら別にいいんだぞ。どうだ、俺と一曲」
「まさか、とっても嬉しいわ。ぜひ喜んで。ダンスが上手と人気なの、聞いてるわよ。踏んだらごめんね」
壁から引っこ抜いた花を、そっと手繰り寄せながらホールの中央へと誘い出して。
始まりのお辞儀と共ににやりと笑った。
「お前に踏まれる可哀想な犠牲者が出るよりマシだろ」
「あら、他の犠牲者なんて出ないわよ、貴方だけ」
あー睫毛が見える。細い。軽い。なんかいい匂いもするような。
腕の中にいる幼馴染の記憶を最新版に塗り替えながらも、睨みつけた。
まさか嫌がらせで踏んでたんじゃないだろうな。
目の合った彼女は、昔と変わらず悪戯っぽく笑った。
「だからね、私が一人で参加してたら、貴方がきてくれるってわかってたのよ」
マジか。
ぎゅむっと踏みつけられた足も全然痛くなかった。
お読みいただきありがとうございます。
ただただ甘い話でしたー。王道!かつ平和!
これくらいの温度感が好きでして。




