理想の行先は
「まぁ、妥当と言えば妥当だと思いました」
タイムマシンの開発者はそう言って笑う。
たった今、インタビュー中に出された質問に彼は答え始める。
「遥か未来の栄えた……もしくは滅びた世界を見たいと言う人は多いです。反対に忘れ去られたほど昔の世界を見たいと言う人も多いです」
タイムマシンを人類が手に入れたならどこへ向かうか。
そんな単純な質問の答え。
「ですが、実際に人々が向かうのは自分が最も愛した時代なんですよね」
開発者は言う。
どこか寂しげに。
「青春時代を愛した者もいる。最愛の人との新婚時代を愛した者もいる。あるいはもっと単純に幼く無知であった時代を愛した者もいる。そして、そんな時代に行った人々はそこでの永住を願う。その時代の自分や自分に関わった人々を陰ながら見守ることを選ぶ」
不思議で理解できない現象だ。
開発者はそう言い切ることはなかった。
本来ならばそう言い切らないといけなかったのに。
「人間は結局、自らが経験した最大の幸せを求めるものなんでしょうね」
開発者の結びの言葉。
この時代から多くの『失踪者』が出て大きな問題となるのは僅か数年後のことだった。




