【2-3】ステータスを確認しました②
焚き火の火がぱちりと弾ける。
沈黙が少しだけ続いたあと、俺は重い溜息を吐いた。
「……で、コハルとチャチャはどうなんだよ」
項垂れたまま、情けない声が漏れる。
「ふふん、聞きたい?」
コハルが腕を組み、ドヤ顔で一歩前に出た。
尻尾が得意げにゆらりと揺れる。
「まぁ、見せてあげてもいいわよ。驚いて腰抜かすんじゃないわよ?」
「もう抜けてるようなもんだよ……」
「じゃあ――ステータス・オープン!」
コハルの前に赤い魔力が花のように咲いた。
火の粉が弾け、文字が浮かび上がる。
まるで炎そのものが情報を描き出しているみたいだった。
⸻
名前:コハル
種族:猫人族
レベル:85
属性:火
HP:2300
MP:1800
筋力:420
敏捷:380
耐久:310
精神力:380
スキル:《紅炎爪》《|焔王の咆哮(覚醒)《フレア・オブ・イフリート》》
加護:《焔王の加護》
──炎の精霊王イフリートに認められた存在。
炎を創造・操・消滅させ、敵の魔力を焼き切る。
特性:
・【激情の焔】感情が高ぶるほど炎威力上昇。
・【猫族の反射】初撃を一定確率で回避。
⸻
「………………」
言葉が出なかった。
数字の意味が、わからないレベルでぶっ壊れてる。
「ど、どう? すごいでしょ!」
コハルが胸を張る。
焚き火の光を反射して、ポニーテールが炎のように揺れた。
「すごいなんてもんじゃねぇ……レベル85って、お前、ボスキャラかよ……」
「当たり前でしょ。あたし、下僕を守る立場なんだから」
得意満面に言うコハル。
炎の加護を受けた猫耳美少女――正直、威圧感すらある。
「……なんか、だんだん俺だけ別ゲームやってる気がしてきた」
思わず小声でぼやく。
「まぁ、アンタは“観賞用”だからね」
「誰が観賞用だ!」
俺の抗議を無視して、コハルは火のパネルを閉じる。
「さて、次はチャチャね」
俺は深く息を吸った。
……もう覚悟を決めるしかない。
(頼む、せめて平均くらいであってくれ……)
チャチャが一歩、焚き火の光の中へ進み出た。
夜風がふわりと金色の焔を揺らし、彼女のミルクティー色の髪を照らす。
「じゃあ……次は、わたしの番ですね〜」
にこっと微笑みながら、ゆっくりと両手を前に出す。
「ステータス・オープン」
――静かな風が流れた。
うららやコハルの時と違い、チャチャの周りには音がない。
焚き火のはぜる音さえ、一瞬だけ消えた気がした。
黒と碧の魔力が淡く渦を巻き、宙に透明なパネルが浮かび上がる。
⸻
名前:チャチャ
種族:猫人族
レベル:80
属性:影+風
HP:1900
MP:2500
筋力:160
敏捷:410
耐久:240
精神力:400
スキル:《影移》《虚空障壁》《風紋刃》
加護:《虚空の抱擁》
──風と影の王から授かった加護。
空間操作・魔法無効化・絶影化(気配・音・視覚完全消失)が可能。
特性:
・【静寂の足音】移動時、感知不可。
・【空間共鳴】敵魔法を一定確率で跳ね返す。
⸻
パネルを見た瞬間――俺の心が、完全に折れた。
「…………」
もはや驚く気力もない。
うららは女神の加護持ち、コハルは炎王の祝福持ち、
そしてチャチャは“影と風の王”の加護だ。
(なんでだよ……俺だけ神様スルーってどういう仕打ちだ……)
項垂れたまま、焚き火を見つめる。
火の揺らめきが、どこか俺をあざ笑っているように見えた。
そのとき、チャチャがそっと近づいてきた。
ふわふわの髪が肩に触れる。
彼女の声は、いつものようにやわらかく穏やかだった。
「……ご主人」
「……ん?」
「わたしたちが強くなるの、いや?」
顔を上げると、チャチャが小首をかしげていた。
紫色の瞳が、揺れる焚き火の光を映している。
「いやじゃねぇよ。むしろ、めちゃくちゃ頼もしいよ」
思わず苦笑しながら答える。
「ただ……なんか、俺だけ置いてかれた気がしてな」
「ふふっ」
チャチャが小さく笑った。
尻尾がふわりと揺れて、俺の腕に触れる。
「大丈夫。ご主人は、ご主人のままでいいです」
「……は?」
「だって、わたしたちがここまで強くなれたのは――ご主人のおかげだから」
その声に、少しだけ胸の奥があたたかくなった。
けれど隣で、コハルがすかさず茶々を入れる。
「なに言ってんのよチャチャ、あいつ何もしてないじゃない」
「うふふ〜。でも、なんか安心するんですよね、ご主人がいると」
「……癒し枠かよ、俺」
思わず頭を抱えた俺を見て、三人がくすくすと笑った。
焚き火の明かりが彼女たちの耳と尻尾をやさしく照らす。
(まぁ……悪くねぇか)
チート級の猫耳美少女たちと過ごす異世界の夜。
絶望と幸福が入り混じる――そんな複雑な時間が、ゆっくりと流れていった。