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【2-1】異世界で初めての夜を迎えました

 森の中は、思っていたよりも静かだった。

 昼間の草原とは違い、木々が陽を遮って空気がひんやりしている。

 遠くで鳥の鳴き声が響き、地面には落ち葉がふかふかと積もっていた。


「……お、おい、本当にこっちで大丈夫なのか?」

 薄暗くなってきた木々の間を見回しながら、思わず声が震える。


「知らないわよそんなの」

 前を歩くコハルが、呆れたように振り返る。

「とりあえず“森に入れば何かあるかも”って話だったでしょ? 適当に歩いてるだけだし」


「適当っておまえ!」

「だって、他に道らしい道もないじゃない」

 コハルが肩をすくめる。


 その隣で、うららが少し困ったように笑った。

「でも、だんだん暗くなってきましたね。

 このまま歩くのは……危ないかもです」


 見上げれば、木々の隙間から差し込む光が、もう夕暮れ色に染まっていた。

 風も冷たくなり、森の奥からはどこか不気味な鳴き声が聞こえてくる。


「う、うわ……なんか聞こえた……今の何の声?」

「たぶん、ただの鳥よ。……たぶん」

「“たぶん”って言うな! 確定してから言え!」


 情けない声を上げる俺を見て、チャチャがくすりと笑った。

「ご主人、怖がりですね〜。でも大丈夫ですよ。

 もし魔物が来ても、わたしたちが守りますから」

「そ、そうだけど……お前ら、ほんと頼もしくなったな……」


 うららが小さく頷く。

「ご主人がいるから、私たちも頑張れます」

「……うらら……」

 心が少しだけ温かくなる。


「はいはい、感動してる場合じゃないわよ」

 コハルが腰に手を当てて言った。

「もう暗くなるし、今日はここでキャンプするわよ」


「えっ、ここで? ……こんな、森の真ん中で?」

 思わずあたりを見回す。

 高い木々、茂み、そして聞き慣れない虫の声。

 どう見ても“寝る場所”には向いてない。


「だ、大丈夫なのか……?」

 不安を隠せずにつぶやくと、三人がほぼ同時に笑った。


「大丈夫ですよ、ご主人」

「うん、火を焚けば魔物は近づかないよ」

「それに……アンタを溶かすようなスライムも、ここにはいないわ」


「ぐっ……言い返せねぇ……」

 思わず肩を落とす。


「まったく、心配性なんだから」

 コハルが木の根元に腰を下ろし、炎のような魔力を指先に灯す。

 小さな火花が舞い、瞬く間に焚き火の火が広がった。


「うわ……すげぇ」

 火が燃え上がり、周囲の木々が橙色に染まる。

 ほんの少し前まで、暗闇に押しつぶされそうだった森が――

 今はあたたかく包まれて見えた。


「はい、ご主人。こっち、座ってください」

 うららがローブの裾を広げてくれる。

 柔らかな布の上に腰を下ろすと、ほっと息が漏れた。


「なんか、修学旅行みたいだな」

「修学……? なにそれ?」

「え? あー……まぁ、キャンプみたいなもんだ」

「へぇ、面白そう。じゃあ今日は“異世界キャンプ”ね」

 コハルが焚き火の向こうで小さく笑った。


「……っていうか、お前、なんで“異世界”とか“キャンプ”とか知ってんだ?」

「アンタがいつもテレビで見てたじゃない」

 コハルが当然のように言う。

「“異世界アニメ”も“キャンプ特集”も、毎晩流してたでしょ?」

「あ、そっか……」

 猫たちはいつも、俺の生活のすぐそばにいた。

 俺が寝落ちした夜も、リモコンを放り出してた時も――

 この子たちは、ずっと見て覚えていたんだ。


 夜の帳が降りてくる。

 風が静まり、火の粉が星のように舞う。

 不安もあるけれど――

 こうして三匹と並んで座っているだけで、少しだけ心が落ち着いた。


「……なんか、不思議だな」

「なにが?」

「いつの間にか“ご主人”より“下僕”の方がしっくり来る気がしてきた」

「はぁ!? なに言ってんのよアンタ!」

「ふふっ……下僕さん、もう寝る時間ですよ〜」

「チャチャまで……!」


 笑い声が、夜の森にゆるやかに溶けていった。


 ――こうして、異世界での“最初の夜”が始まった。

近いうちに各話タイトル(サブタイトル)を付けていきます!

もうちょっと“話の中身が分かる”ようにしたいなと!

気長にお待ちください〜!

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