【1-4】飼い猫たちと再会しました
森の方から、草を踏む軽やかな音が近づいてきた。
やがて木漏れ日の中から、二つの影が現れる。
「もう、コハルちゃん、急に一人でどこかに行くなんて危ないよ!」
声の主は、柔らかな銀色の髪を揺らす猫耳の少女だった。
白を基調としたローブに水色のリボン。
その瞳は澄んだアクアブルーで、どこか見慣れた優しい光を宿している。
「う、うらら……!」
「ご主人っ!」
うららがぱあっと笑って駆け寄ってきた。
勢いよく胸元に飛び込んでくるその感触に、思わず体が固まる。
「よかった……本当に、無事で……」
胸の奥がくすぐったくなる。
いつも膝の上に乗ってきた、あの甘えん坊のうららが――今は俺の胸に顔を埋めている。
「ちょ、ちょっと、うらら! 落ち着きなさいよ!」
コハルが顔を真っ赤にして引きはがそうとする。
「だってぇ……ご主人に会えて嬉しかったんだもん」
うららが頬をすり寄せながら言う。
その尻尾が嬉しそうにふりふり揺れている。
そこに、もう一つの柔らかな声が加わった。
「あ、ご主人、起きてる〜」
のんびりした声。
振り向くと、ミルクティー色の髪に長い尻尾を持つ少女――チャチャが立っていた。
紺のマントをひるがえしながら、ふわふわした動きで近づいてくる。
「チャチャ……お前も……!」
「えへへ、ちゃんとみんな一緒だよ」
にっこり笑いながら、尻尾をゆらゆらと揺らす。
そのふわふわが目に入って――つい、手が伸びた。
「うわ、すげぇ……めっちゃ柔らかい……!」
指の間をくすぐるような、極上の感触。
「きゃっ……ちょっ、ご主人、そこ、ダメっ……!」
チャチャが顔を赤くして身をよじる。
その様子に見惚れていたら――
「な、なにやってんのアンタぁぁぁっ!?」
コハルの怒声が飛んできた。
炎がポニーテールの先でパチッと弾ける。
「え、いや、ちょっと気になって……」
「気になって触るな! まったくもう……っ!」
コハルがプルプル震えている。
そんな中、うららがふわりと手を上げた。
「ご主人、触るなら……わたしのを触ってください」
「え? いいのか?」
思わず聞き返すと、うららは真っ赤になりながらこくりと頷いた。
「ちょ、ちょっと待って!? うらら!? あんた何言ってんのよ!!」
コハルが叫ぶ。
「だって……ご主人、嬉しそうだから……」
「嬉しそうじゃなくて変態そうなの!!」
わちゃわちゃしている二人の横で、チャチャはまだ尻尾を押さえながら、
「ご主人……ほどほどにね……?」と小声で呟いた。
そんな光景がなんだか懐かしくて、思わず笑ってしまう。
あの部屋で過ごした穏やかな日々が――
形は違えど、今もちゃんとここにあった。
「……アンタ、なに笑ってんのよ」
コハルがむすっと顔を背ける。
「いや、なんか……またお前らに会えてよかったなって」
「……べ、別にアンタがいなくても困らないけどっ」
コハルがそっぽを向きながら、尻尾の先をくるくる弄る。
小さくなった声が、風にかき消された。
「ん? なんか言ったか?」
「な、なーんでもないっ!!」
頬を真っ赤にして叫ぶコハル。
うららとチャチャがくすくす笑い、
草原の風が三人の耳と尻尾をやさしく揺らした。
――こうして、異世界での“もふもふ生活”が、静かに再び動き出した。