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召喚された先で飼い猫が最強でした 〜社畜の俺、猫耳美少女たちと聖獣を救う旅へ〜  作者: マロン
第三章:召喚された先でネズミの神様を救いました
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【3-2】子ノ神の祠にたどり着きました

 町を抜け、北の丘を登るにつれて、空気が少しずつ重くなっていった。

 風が冷たく、木々がざわめく。

 遠くに見えた祭壇は、苔むした石でできた古びた神殿のようだった。


「……ここが、“子ノ神様”の祭壇、か」

 俺が呟くと、三人がそれぞれの耳をぴくりと動かした。


 鳥の声も、虫の音もない。

 まるで、この場所だけが“死んでいる”みたいに静まり返っている。


「うわ……なんか、空気がぬるい」

 チャチャが眉をひそめ、ふわふわの尻尾を小さく揺らした。

「これ、普通じゃないです。風が……腐ってる感じです」


「たしかに。なんか、焦げたような匂いがする」

 俺も思わず鼻を押さえる。

 近づけば近づくほど、胸の奥に鈍い圧迫感が広がっていった。


 うららが一歩前へ出る。

 手を胸の前で組み、静かに目を閉じた。

「《聖光癒(セイクリッド・ヒール)》」


 淡い光が彼女の周囲に広がる。

 同時に、透明な波紋のようなものが地面を這い、祭壇の周囲を照らした。


「……うらら?」

「ご主人。やっぱり……あります。“黒い穢れ”です」

 その声はいつになく硬かった。

「この穢れ、普通の魔物のものじゃありません。まるで……“呪い”です」


「呪い、ねぇ……」

 コハルが炎のような瞳で祭壇を睨みつける。

「だったら燃やして浄化すればいいだけでしょ」


「コハルちゃん、待って――」

 うららが止めるより早く、コハルの指先に火花が走った。


「《紅炎爪(クリムゾン・クロウ)》」


 赤い炎が一閃。

 祭壇の苔を焼き払い、石の表面を照らす。

 だが、同時に――地面の下が、ぼこりと膨れ上がった。


「……っ!? な、なんだ!?」

 俺が後ずさる。


 次の瞬間、焼けた石の隙間から――黒紫の靄がぶわっと噴き出した。

 冷たい風が逆流するように吹き荒れ、視界が一気に霞む。


「うわっ、な、なんだこれ……!」

 靄が肌を刺すように痛い。

 まるで、生きてるみたいに絡みついてくる。


「まずい! 下がって!」

 チャチャが一瞬で影の中に溶けた。

 気づけば、俺の背後に立っている。

 影移し――《影移(シャドウ・ステップ)》だ。


「な、なんなんだよ、これ……!」

「ご主人、離れて!」

 うららが光を強め、俺の前に立つ。

 その光が、黒い靄をわずかに押し返した。


 だが――

 靄の中心から、何かが動いた。


 重い音とともに、地面がひび割れる。

 崩れた石の中から、巨大な影が姿を現した。


 丸い耳。

 鋭い牙。

 そして、全身を覆う漆黒の毛並み。


 それは、ネズミ――

 ……いや、“守り神”と呼ぶにふさわしいほどの巨大な獣だった。


「なっ……でけぇ……!」

 俺の声が裏返る。

 家ほどの大きさがある。

 しかしその目は、濁った赤に染まり、理性の光はどこにもなかった。


「これが……“子ノ神様”?」

 うららが悲しそうに呟く。

 その瞬間、獣が耳をつんざくような咆哮をあげた。


「グルァァァァァァァッ!!!」


 風圧で地面がえぐれ、黒い瘴気が爆発する。

 木々がなぎ倒され、空気が震える。


「来るわよ!」

 コハルが前に出て、炎を纏う。

 チャチャは影をまとい、うららが光の陣を展開する。


 俺だけが、ただ見上げていた。

 燃え上がるような光と闇の中――

 猫たち三人の瞳が、戦士のように輝いていた。


(……これが、本気の“猫の狩り”か……)


 黒い守り神の咆哮が、再び森を震わせる。


 ――戦いが、始まった。

 

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