第56話 消滅
カルロスは即座に聖剣を拾うとコウヤとスバル目掛けて放った。
「いい加減に終わらせろっ!でないと死ぬぞ。」不吉な御神託を吐いた男は猛然と戦いに参加する。
「っせーよ..お前の冗談は笑え、ねーんだよっ!!」
無理を承知でスバルは宙を舞う聖剣に飛び付いた。「なめんじゃねーぞっ!!」
聖剣はスバルの頭上でピタリと止まり、ざん、とその足元に刺さった。
「へぇ..どうも見た事あると思ったら。ウチの紋章かよ。」「戦え、我が末裔よ。」
コウヤの中の誰かがそう言った。
「はっ!言われなくても暴れさせてもらいますよ。これでも末の皇子様だったって言ったろ。」
「アレはどこにある。」ゆらりとハオラが近寄って来た。
「お前達が持っているのはわかっている。渡せば逃がしてやろう。」
スバルの纏う気が変わった。風が鳴る。蒼い焔がその身を包みこむ。
ぶつぶつと呪を詠唱するスバルを焔が護るように渦を巻いていた。「俺がそれだよ。」
にやりと笑ったスバルはもう別人の様だ。「てめぇに渡す物なんてもうひとつもない。」
「俺達には何ひとつ残っちゃいねーんだよっ!」スバルは一気にハオラの前に飛び込んだのだ。
聖剣を辛くも避けたハオラは結界を切られた事を知る。
その上渦巻く蒼い焔が邪魔でハオラは攻撃に出られない。
スバルは確実に急所を狙っている。右に払われた剣をかわしたハオラはちっと舌打ちすると姿を隠す。
「子供だましは通用しない。」コウヤが血濡れの微笑を壮絶に張り付け、立ち上がる。
「スバル、カルロス、着いて来い。」二人は無言で前後に飛んだ。
空間が歪む。正面に向かうコウヤはもう少年のそれではなかった。
得体の知れない魔術師集団の長の顔。
しかし彼にはコウヤ・ミカミとしての自我は無い。その中に眠っていたのは一体誰なのか。
「裏切り者に粛清を。」
大音響と共に宮殿の壁が崩れ落ちる。捩れた空間の中で拘束されたハオラは絶叫した。
「バカ共がっ!私は死なない。姿を変えて戻って来る。世界樹を手に入れるまで何度でもな....」
「言ってろよっ!!」袈裟がけに切りつけるスバルと横殴りに剣を振るうカルロスの姿。
そしてその歪に短剣を刺し込むカイには悲壮な決意が見えた。「....お前だけは絶対に許さないっ!!」
歪んだ拘束を法外な力で振りほどいたハオラはもう満身創痍だった。
身体中から血を流し、ふらふらと後退した先には三精霊を従えたコウヤとやっと立っているリョウがいた。
「我が名において命ずる。スバル、カルロス、貴様らの宿敵を始末せよ。」「「御意」」
即座にふたりは飛びのき、剣を抱え直し突っ込んでいった。
その先には身体が崩れ始めたハオラの姿があった。
「長っ!!」カイの叫びにリョウが答える。「始末せよ。国を滅ばしたのは確かにその個体であった。滅すればアレにも多大な影響があろう。精霊どもよ、後は頼んだぞ。」
ハオラは傀儡であったのか。しかし、もう誰にも邪魔はさせない。
同胞の無念とハオラの姦計によって滅んだ我が王国。
「いい加減に!キリをつけさせてもらうっ!!!」
スバルは心臓を狙い、正面から。そしてカルロスは後ろから首を薙ぎ払った。
どくどくと流れる血潮の中で、ハオラはもがき、痙攣している。
そして、動かなくなったのだ。それを見計らったように三精霊達が動き始めた。
燃えさかる紅蓮の焔はその身体を難なく焼きつくす。消し炭となった個体に水が纏わりつき、凍った。
そしてハオラであったその黒い物体はふわりと浮き上がると、ぱきーーーんと言う鋭い音と共に.........
弾け飛び、
消滅した。