第50話 再び王宮5
ピクリと眉を動かしたハオラはその声に振り向いた。そこにはカルロスとスバルとカイが立っている。
「お久しぶりです。人外魔境の呪術師様。あの雪の日以来でしたかな。」
普段とは全く違う言葉使いにコウヤも耳を澄ましている。
「…ほう、ファラの者ですか。そういえばあの国の結界は欲しかった覚えがあります……」
目を細めハオラは眼の前の3人を値踏みしている。「また、お会いできて…僥倖。」
一瞬の間にハオラが飛びのいた。身軽な動きにカイはちっ、と舌打ちした。
その場所は氷の剣が何本も刺さっており、しゅううしゅうと煙を上げている。「…オレも覚えてて欲しかったなぁ?この外道っ!!」詠唱を終えたスバルが嬉々として襲い掛かる。
「何度戦っても敗者は雑魚にすぎない。」にこやかに笑うハオラにスバルが怒りを爆発させる。
「ってめぇ!ゆるさねぇっ!!」渾身の力を持って立ち向かうスバル。
そしてそれを援護する様に回り込むカルロスとカイ。
リシャールはただ見つめていた。
どんな経過があったのか判らないがハオラの仕業で小国が滅ぼされたらしい。
あの3人は王族かそれに連なる者たちなのだろう。
国が無くなる。国を追われるというのはどんなに辛い選択だろうか。
屈辱の中で生き続けなければいけないという重圧。
年若いこの青年が過ごしてきた年月が忍ばれる。そして彼につき従う二人の男達の心情はいかばかりのものか。
戦乱は復讐を呼ぶ。その負の連鎖はどちらかが倒れるまで終わる事はない。
だからこそイシュタールは戦争を起こさせないと心を砕くのだろうか。
ハオラの精霊が動き始めた。二人の影が動いた。それはコウヤとリョウの姿だった。
「折角の対決に水をさすんじゃねぇよ。」
「ヴィーダ、行け。格の違いを見せつけてやれ。」ハオラの使役する水の精霊は上位ではない。
「御意。アレも主様の配下に加えて見せましょう。」
にやりと笑った上位水の精霊は蒼い膜で一角を囲んでいた。
「ここで暴れると被害が甚大と言う事か。」改めてハオラとコウヤの術者としての力の強さを思い知らされる。
精霊界の理は人間には理解し難い世界だ。それでもこの人外の能力を持つ二人は難なく精霊達を配下として扱うのだった。
鈍い爆発音は囲われた膜のなかで激しさを増している。
「精霊はあっちで遊んでるからさ、俺とやろうぜ!!」
スバルは自身の魔法陣を展開する。「笑止。亡国の悲劇の皇子よ。お前を逃がす為に犠牲を払った者達の元に送ってやろう。お前の生きる場所はもうこの世ではない。禁忌の術で生きながらえた命、恥ずかしいとは思わぬか?」
「うるせぇ!!」激高したスバルは今度こそ攻撃を始めた。」「愚かな子供よ、地に帰れ。」
ハオラは珍しく表情を歪める。
「んな事は聞いてねぇ……その元凶を作りだしたのがモントール国王族の貴様なんだよっ!」
イバネマとそれに連なる者達は戦慄を覚えていた。
大小の差こそあれ一国を滅ぼしたと思われる魔術師が自国の宰相であるという事実に。
「スバル、引け。こいつはお前の敵う相手ではない。この化け物は俺とリョウでしか潰せない。」
コウヤはハオラの力に共鳴する何かを感じていた。もしかするとこの男もあの欠片とやらをその身に取り込んでいるのだろうか。
「リョウ、行くぞ。」華奢な少女はこくりと頷いた。ひゅんひゅんと暗器を扱い始めたリョウにハオラは目を見張る。
「それはそれで美しい。私の傀儡姫…タオで傭兵でもしていたのか?お前のその容貌なら密偵が相応しいか。」
「お父様は私に・そんな事は・させ・なかったっ!!」重しの付いたしなやかな紐は音もなくリョウの後ろに消える。
「ぐわぁぁぁっ!」隙をついた黒マントの男がもんどりうって転がった。
激痛に身を捩る男はがぼりと鮮血を吐いたのだ。
「ナナを手放したのは惜しかったか。しかし、その声は頂けない。私の術で元の声に戻す事にしよう。」
勝手に呪文を宙に描き始めたハオラにリョウは容赦なく攻撃を仕掛ける。陣構築を邪魔されたハオラは大きく溜息を付いた。
「人形が自我を持つというのは許し難い罪悪。」表情の抜け落ちたハオラは誰にともなく呟く。
「リョウはお前の操り人形じゃねぇっ。」トンファーを構えたコウヤがハオラの懐に飛び込んだ。
どこから出したのか長剣で2本の武器を受け止めたハオラは残忍な笑いを浮かべていた。「遅い。」「…くそっ!!」
カンカンと音を響かせてコウヤがハオラの懐に飛び込んだ。
「主様、その剣には魔道具の匂いがする。触れてはいけない!」スオウが叫んだ。
いや、また更新が遅くなって。