表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海の蒼  作者: 森野優
48/57

第48話 再び王宮3

固唾を飲んで見つめるリシャールはその法外な魔力を畏怖するどころか魅せられていたのだ。


魔法陣の中心で詠唱を続けるコウヤの足元に蹲るリョウ。彼女はうっとりと眼を閉じていた。

魔法陣からゆらゆらと薄闇が立ちこめる。


纏め上げられた不逞の術師崩れ達はゆっくりと立ち上がり、まるで死人の様にふらふらと同じ方向に歩きだす。

「何をしたんだこれは。」「簡単な幻術です。しかしこの人数を動かすには大きな陣が必要でしたから。」


腕を縛られたままぞろぞろと魔法陣に入って行った人間は。「…っ!消えたっ??」リシャールは自身の目を疑った。

「転移陣です。あの者達は今頃コリルとの国境辺りに放り出されています。一度国境を出てしまえばもう再入国は無理でしょう。」

「そんな事が出来ると言うのか?ミカミ・コウヤは魔術師だったというのか?タオ・リョウもそうか…」


「一人でこれだけの術が使えるのはモントールでもそうはいません。ああ、ハオラがいましたか。あの男は色々な意味で人外です。」

「人外とは何ゆえに。」「あの男は王族でありながら数々の禁忌と術師の理を犯した禁術使い。」


リシャールはその禁術や理などについては知識がなかった。今更ながら魔術の有効性のみを過信し、術者の取り込みに自分も肯定派に与していた彼はひやりとしたのだった。上手く立ち回るハオラに施政を丸投げした国王陛下を放置する側近たちや貴族と自分は何ら変わらない位置に居る。陛下に絶対の忠誠を誓う国軍の上層部にも同じことが言えたのだった。


「ハオラはイバネマを裏切るか…」カルロスは眼差しをきつくした。「あの男がイバネマに忠誠心などある訳がない。」

「では、ハオラは何を望む。」「私には判りません…が、地位や名誉や金でないことは確かです。」


耳に手を当てたコウヤが戻って来た。「国境では約束が違うとコリル軍とさっきの輩が小競り合いを始めたそうです。」

「では向こうはリジアに任せて大丈夫だな。」「はい、海賊はバース団長が抑えるでしょう。」「後は王宮か。」


「リシャール殿下。ハオラ宰相はイシュタールが王宮に足止めしております。コリルとの開戦を望まないのであればどうかお戻り下さい。傀儡となった陛下はもう国政に携わることは不可能と思われます。殿下のご決断を。」


「その前になぜ、お前達は私の側に付くのだ。その理由を聞きたい。」「簡単です。我々は戦争を回避したい、それだけです。」

カルロスの言葉にコウヤは頷いた。

「イバネマがコリルに屈すれば次はモントールでしょう。ハオラと手を組んだコリルは間違いなく侵略してくる。」


「判った。私も国を荒らすような戦は本意ではない。コリルに蹂躙されるのもな。私が即位するまでお前達を配下に置く。目的が同じであればそこまでは信用できると考えていいのだな。」「結構です。殿下の命があれば我々も動きやすい。イシュタールはハオラの陰謀を阻止するために剣を取る。そして我々はイバネマにもコリルにも与しない者と考えて頂きたい。」


お互いの立ち位置は確認できた。この広大な国をハオラの好きにさせるわけにはいかない。そしてリョウを甚振った事を後悔させてやる。あいつは母上の失踪にも関わっているのは確かだ。必ず白状させてやる。コウヤは無表情に空を見上げるリョウを引き寄せる。


何もかも白日の下に晒してやる。たとえそれが自分にとって嬉しくない結果であっても。自分には知る権利がある。

コウヤはそう思った。リョウの事、母上の事、そして今まで片鱗さえも見せなかったこの膨大な魔力。魔法の核とは何ぞや。


「ミカミ・コウヤ。」「はい、殿下。」それなりの教育は受けてきている。今まではどうあれカルロスはリシャールに協力すると言っている。彼の判断はイシュタールの総意でもある。だから自分はそれに従うまでだ。


父親に押さえつけられて居た時とは全く反対の感情がコウヤを動かしていた。ジル達と行動を供にしたいと思うのだ。

彼らの意思をも尊重したいと身体は無意識に動く。彼らは打算的で小気味良かった。


「…全てが終わったら、お前と話がしたい。タオ・リョウもだ。」「承知しました。」「…御意。」


リョウが喋った。


コウヤもリシャールも目を瞠り彼女を振り返る。そんな二人ににぃと貼り付けたような笑いを浮かべるとリョウはぱたぱたとカルロスの下へ走り去る。

「…恥ずかしかったようです。」「そう、のようだな。」動揺したコウヤはそう代弁した。

ーー最近は特に可愛くなったよな。色々な表情をみせてくれるし、いつもオレの側にいる。

独占欲を満たされた気がしたモントール将軍の息子は表情を引き締め、前を向いた。


「海賊船が引いていく。」どうやらバースはきちんと自分の仕事を果たしたらしい。

「我々も王宮に行きましょう。早急にハオラをあの場所から蹴落とす必要があります。それに仲間も心配です。」


頷いたリシャールは衛兵に馬の用意をさせるとすぐさま撤収の命が下る。「速やかに帰還する。」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ