第43話 捕縛3
現国王には色々と問題があった。庶子だった皇太子は早々に一抜けたはずがそうは簡単にはいかなかったのだ。
毒殺や謀殺、次々と継承権を持つ上位の皇子達が巻き込まれていくのを彼は見ているしかなかった。
王位継承権を棄てた皇太子を無理やり王位に就けたのは側近と貴族の決定だった。
イバネマは大国だった。それ故に各地方を統べる領主の力が強いのだ。
いくつもの派閥が控える国内には常に一触即発の気配があった。そんな中での現国王の即位は物議をかもし、均衡は危うくなっていた。いつクーデターが起こってもおかしくない状態にあり、おまけにコリルから曰くつきの王女を押し付けられた国王に近づいたのはハオラだった。最初は吟遊詩人の群れに混ざり、王宮に上がった一介の魔術師はあっと言う間に国王の信頼を勝ち取りその側に侍るようになったのだ。国政になど興味のない王妃はどこぞの騎士や見目の良い貴族を追いかけるのに夢中であり、リヒャルトはまだ幼少だった。そして国王は望まなかった玉座に座らされた恨みを忘れてはいなかった。
楽に扱えるという理由で担ぎ出されたお飾り国王は当時の側近や宰相、貴族を絶対に許すことはなかったのだ。
誰も知らないうちに最終権力者はハオラ宰相に取って変わられていたのだった。
そして心ある者は遠ざけられ、真綿で包むように国王はハオラに毒され傀儡となるのに時間はかからなかった。
しかし、ある意味ハオラは有能な宰相だった。隙あらばと狙っている地方貴族を押さえつけ黙らせる事に成功していた。今の所は。
隣の大国コリルとは平和協定を結んではいたが、所詮、紙切れ一枚の事だった。
王女を王妃に迎えたが人質どころか厄介払いをされただけで見返りは何もない。一番不幸なのは国王だったのか。
イバネマ国の産業は海外との貿易で成り立っている。イシュタールの治外法権はそれを認めざるを得なかった貴族の訴えで国王がしぶしぶ認めたと言う経過があったのだった。コリルもモントールもイバネマの貿易取引とは切っては切れない関係にあり、中立国といった立場よりイバネマ国自体、不可触な領域だったに過ぎない。イシュタールが大いに貢献した貿易の軸は国を安定させ、その一方で危機感を失った上層部は腐っていったのだ。今では王宮を護るのは三軍を擁する王宮騎士団ではなく私設部隊に近い性質を持ったハオラが率いる魔術師達だった。ハオラは名実供に影の支配者としてイバネマ国に君臨していた。
王妃の住まう一角にスバルはバースに引きずられて行った。「ねぇアンタ何を考えてるのかな。俺にあの王妃様と寝ろってことだよね?俺まだ18歳なんだけど。そりゃあ童貞とは言わないけどさアンタはそれでいい訳?」
「…命令だ。」スバルを掴む手に思い切り力が入り、スバルは腹の中でほくそ笑んだ。
「それは誰の命令?王妃様?それともハオラ宰相?」「…お前に答える必要はない。」
「ふーん、じゃあ俺が王妃様のお気に入りになっても構わないってことだ。一杯我儘言えるだろうなぁ~」
ぎろりとバースはスバルを見返した。どうやらスバルは何某かの目的を持ってここに来たのだと思いついたらしい。
「何が目的だ。」
「男娼扱いされるんだ、それなりの見返りは欲しいだろ?例えば1軍の隊長になるとかさ?」
「…っ!貴様の思い通りなどにはならん。王妃様には国政に関しての決定権はない。」
「じゃあ寝ない。」
バースは1軍の隊長である。にやにやと笑うスバルをバースは小突いた。
「脅しのつもりだろうがそうはいかん。」
王妃の部屋には嫌がる男をその気にさせるために意識が無くても勃つような強力な媚薬まで揃えてあったのだ。
無理矢理に連れ込んだ男が役にたたず怒りを買うのはバースだったからだ。
「やってみなよ。俺の身体にそういう薬は耐性ついてるからさ。」ありえるかもしれない、とバースは思った。
この小僧はあの得体の知れないイシュタールの子飼いだった。魔術を使えるらしいとの噂も聞いている。
それに今まで再三の王妃の誘いにも乗らず、上手く交わしてきたのだ。この少年が今更素直に腰を振るとは考えにくい。
40近い年齢の王妃に自分ですらもそういった薬の世話になることもあったのだ。
「試してみる価値はあるだろう。」バースは嫌な予感と供にそう言うしかなかった。
後戻りは出来ないがこの余裕はどうだ?
18歳とは思えない落ち着きと動じない態度。王妃と絶対に二人きりにしてはいけないと心に強く念じた。
扉をノックすると王妃自ら出てきたのだった。「よく来たな。スバル。」
満面の笑みで迎えた王妃はすぐにでもバースに退室するように言う。
「ですが、王妃様!この者は大罪を犯したイシュタールですぞ。他の者は地下牢に繋がれていますし、本当なら国王陛下のお許しがないとどうなることか…」
「出て行け。去ねと言っている。」
王妃はもうスバルしか目に入っていないのだ。
「王妃様、バース様もご一緒に楽しむのなら悪くないと思いませんか?」
「ほぅ、そんな趣向が好みか。」露出過多な胸元を見せ付けるように見下ろす王妃は妖艶に笑った。
「ご、ご遠慮申し上げますっ!」バースは即座に礼を取るとその場を逃げ出したのだった。
「残念。バース隊長と3pって面白そうだったのに。」スバルはそう言うと王妃の白い首筋に顔を埋め甘えるように舌を這わせた。
「スバル、お前の望みは何でもかなえてやろうぞ。」
すっかり気を良くした王妃はスバルを別室に迎える。
目を細め口角をきゅっと上げた少年はぺろりと舌を出した。
「王妃様お願いがあるんだけど聞いてくれる?」
スバルは寝室に入る前に王妃をソファーに座らせ、足元に縋りつく。
「小さい頃からの夢があるんです。俺、1軍の隊長になりたい。」
そう囁く間にもスバルは長いドレスの裾から手を入れ腿の上に頭を乗せていた。
「名前だけでいいんです。俺は騎士にはなれないから。あ、でも式典の一番先頭に馬で行進できたらいいなって。」
顔を上げ、小首を傾げてスバルは王妃を見上げた。
「王妃さまからハオラ様にお願いできませんか?」
膝辺りを彷徨う手はその先へと進んでいる。息を荒くした王妃はじれったい動きにそれを約束してしまう。
「お前の望みは何でも叶えてやると約束した。その言葉に二言はない。」
「王妃様、すっごく嬉しいです…」
にっこり笑ったスバルは王妃の手を取ると指を口に含み音を立ててしゃぶった。
「くっそおおぉっ!!!」叫んだその声はバースだった。自室の壁を思い切り拳で叩いていた。
部屋を逃げ出したはずのバースの頭の中に先ほどの二人のやり取りがすべてリアルタイムで聞こえている。
ドレスの衣擦れの音や粘着質の聞きたくもない、なにやら隠微な物音も全て。
黒スバル君、少々下品で恐れ入ります。