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海の蒼  作者: 森野優
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第42話 捕縛2

冷たい牢の中でジルは考えを巡らせていた。ハオラの最終目的が計れない。それがイシュタールが此処に居る理由だった。

国家転覆を狙っているのであれば王族を死なせるわけにはいかない。コリルとの繋がりも気になる。

そしてコウヤとリョウへの対応はどうなるのか。

ハオラに振り回され翻弄されるあの二人を何とかあの呪縛から解き放ってやりたい。

ジルはそう思っていた。

オリビエがリョウとアオイを引き取ると決めた時、一族は反対した。裏での仕事が本業の彼らには犯罪に関わった子供などは足を引っ張るだけだと懸念されたのだ。

目立ってはならない、人に溶け込み間諜を生業とするタオ一族。


ぶるりと頭を振るとジルは思考を切り替える。ハオラも此方の動きを牽制しているはずだった。

こんな子供だましの結界でイシュタールを拘束出来るはずがない。

そうであるなら何時脱獄するのか待っているということか。

どちらにしてもこの国とは縁切りとなる。商業は発達し、独占の必要もないだろう。

イバネマでの役割はもう無い。


「事が終るまで此処に居るのも一興。」そしてこの戦いでコウヤがどう化けるか。リョウは生きられるのか。

ちり、と首の辺りが熱くなる。後ろをゆっくり振りかえると火の精霊が顕現していた。

脳に直接語りかける方法で彼らは言葉を交わす。


--我が主は目的を果たした。姫君は闇からお戻りになられた。我が主が状況を知りたいと言っている。我を利用せよ。 間をおかずにコウヤの声が飛び込んでくる。


--ジル、今どこにいるんですか?リョウは今はまだ動かせません。その場所は安全ですか?


ーー王宮の地下牢だ。私達は簡単に殺されたりしないから心配するな。しかし、その屋敷が見つかるのは時間の問題だろう。リョウが回復するまでそのまま異界に留まっていればいい。必要とあれば国外に出てもかまわない。


ーーではイシュタールは理由があってそこに囚われていると考えていいのですね。


ーーそうだ。


ーー承知しました。あ、リオンをお願いします。怪我させないで下さい!


ーー了解した。自分より護衛の心配か。 ジルはくすりと笑った。


ーーリオンは家族です。たった一人の…いや、ここにもいますけど。


ーーそうだな。大切な者を護れ、コウヤ。リョウはお前にとって僥倖でもあり、毒になる存在でもある。隙を見せるなよ。


ーー分かってます。帰ったら正式にオリビエ殿から貰い受けます。良くも悪くもオレはもう彼女を離せない。


ーーハオラは手強いぞ。心して戦え、そして躊躇うな。


スオウが離れたのが分かった。そして彼は去り際にジルの額に印を残す。

「全くコウヤの魔力は底なしだな。」

3体の上級精霊を難なく使いこなすそのカリスマ性と資質。いずれは我々の王となろう存在。

しかしそれは決して表に出る事のない事実だった。モントールは隠れ術者を鴉と呼ぶ。その名前は近い所を突いている。

我らは漆黒を纏う鴉。その王に相応しい風貌の少年はこの時期に現れたのだ。そして王を支える薄幸の少女。

これも運命ならハオラも必要悪と言うべきなのか。ふっと気を取り直しジルは念を飛ばす。一方通行だが此方の意思は伝えられる。


ーー尋問には逆らうな。いや、逆にかく乱するのもありだな。 ジルには皆の噴き出す顔が見えるようだった。


どこかの牢でガチャリと鍵の開けられる音がした。可能性として考えられるのは…


「じゃあ一番若い燕が行きますよぉ~。」「おぉ、頑張れ!バースに取って替わって爵位でも貰ってこいよ。」

能天気なスバルの声とそれを更に煽るルイスの激励に看守が怒りだす。

「黙れ囚人共っ!侮辱は許さんぞ!」


「今更何言ってんだよ。バース様は王妃様の愛人でやりたい放題なんだろ?王宮はともかく市井は皆知ってるぜ。」

「ほう、それは興味深い話だな。」ルイスの独房の前に立ったのはバース団長本人だった。


「詳しく聞かせて貰おうか。」どす黒い顔を怒りに歪ませてバースはルイスを引き出した。

「何もかも吐かせてやる。」


「団長様、お気を付け下さい。スバルは血の匂いに敏感な性質です。子供ですからね、仲間が痛い目に合うと暴走しますよ?団長様の大切な方を傷つけてしまうかもしれません。」「どういう意味だそれは。」「そのままの意味ですよ。」リジアの脅しにバースは怯んだ。拘束されたまま引き出されたルイスはへらへらと笑っている。「どうぞご自由に。あっちも勝手にやるでしょうし。」


そして王宮ではすでに問題が勃発していた。湾岸は無法地帯となり、高価な商品を扱う商人は撤退を始めている。

海賊船に囲まれた商船が港に入れずに引き返すといった事態も起こっているらしい。


「ハオラ宰相!!イシュタールをどうなさるつもりですかな。港にはならず者達が集まってきているそうではないか。商船が襲われるようになったらどこで警備するのかお聞かせ願いたい。」


元宰相の貴族がハオラを憎々しげに睨みつける。


「自らイシュタールに関わったのは皇太子殿下ではありませんか。聖剣まで奪われてどうされるおつもりですか。今後の始末を私の方がお伺いしたいくらいです。」

ハオラは言葉を切ると、さぁどうするといった眼付きでその貴族を正面から静かに見ている。


言い返せずにうっと詰まった男にハオラはにこやかに畳みかける。


「殿下に湾岸警備を任せるとの陛下の仰せでございます。」


!!! 次期国王にあの場所と海賊を何とかしろと言うのか!!


宮殿に衝撃が走った。王は、国王陛下は何を考えておいでだ。元側近達は危惧していた事態が来た事を感じていた。

ハオラを重用するようになってから王に換言した者はいつのまにか失脚させられた。

謂れのない罪に問われた者や地方に飛ばされ秘密裏に暗殺された元側近もいた。

それらは巧妙に隠されハオラの周到さと魔術師の存在を大きく知らしめていた。ハオラと敵対すれば消される。


そして国王陛下は明らかに変わってしまった。


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