第40話 再会7
こつこつとノックの後、ドアはそっと開かれた。
そこにはひとつのベットに横たわるリョウとその手を握るコウヤの姿があった。
「コウヤ様!」思わず走り寄るリオンに動ぜずに周りに立つ3体の精霊。
「心配ない。主は姫様を連れに行かれた。我々が傍に付いている。」「あ、貴方方は一体…?」
「驚いた…高位精霊か。」アオイの声にリオンはまじまじと彼らを見遣った。
そういえば人間離れした風貌だ。
「久しいな、アオイ。この者もフェブリエの末裔か。懐かしい気が流れている。」
蒼を纏う精霊は目を細めてリオンを眺めている。「我は長い間フェブリエの守護であった。」
「それで、コウヤはアンタ方を配下に置いたんだな。」無言で3体は頷いた。「とにかく今二人を守る者が増えるのは歓迎だし。」
開いたドアから次に顔を出したのはルイスだった。
「なんてことだ高位5人のうちの3人がここに居る。」
感極まった様子でルイスは3体の前に立った。「ほう、我々に興味を持つ人間がいるのか。」
迷惑そうに顔を顰める深紅の髪を持つスオウがルイスを覗き込んでいる。「貴方は焔の精霊ですか…」
「なんだ、ルイスは精霊フェチか。」アオイの言葉にルイスは嫌そうな表情だった。
「フェチって…他に言い方は無いのかよ。俺はリジアの里で月の精霊と話をしたことがあるんだ。あの方も壮絶に美しかったが皆綺麗だな…こうして顕現した姿を見れるのも僥倖だな。」うっとりとルイスは目を細めている。
アオイとリオンは普段理性的な行動を取るルイスの意外な一面を知ることになった。
「あの、それよりコウヤ様とリョウさんの状態を教えて下さい。」リオンの縋るような声に大地のヴィーダは頷いた。
「姫様は精神の奥深く沈んでしまわれた。このままの状態が続けば欠片が動き始める。そうなれば長い期間生命を維持するのは難しいと思われる。それ故我が主が姫様を探しに行かれたのだ。他の人間には出来ないのを主はご存じだ。」
「なぁ、欠片って魔法の核のことなんだろ。それって一体何なんだ?」その質問に3体がいきなり消えた。「おいっ!」
完全な黙秘だった。傍にはいるのだろうがもう彼らの姿はもう誰にも見えなかった。
リオンはベットの端に座り、リョウに布団を掛け直しコウヤの乱れた前髪を撫でつける。
少し前とは違いコウヤとリオンの前には色々な人が増えた。リョウの存在やイシュタールの精鋭達の存在。
そして新たに初めて目にする上位精霊達。自分の存在はコウヤに必要なのであろうか。リヨンは考えてしまう。
ーー自分に頼り切っていたあの頃のコウヤ様とは違うーー重い溜息をついたリオンは立ちあがった。
これ以上自分が此処にいる意味はそう沢山は無いのかもしれない。計り知れない脱力感は重く身体に圧し掛かる。
お前はリシャールに似ている。頭に直接響いた声にリオンは飛びあがった。「どうしたリオン。」
アオイが傍に来ていた。「…リシャールとは誰なんだ。いや、お前は似ている、と頭に響いてきた。」
きょろきょろと周りを見回すリオンにアオイは少し笑った。「それは蒼の精霊だよ。水の精霊は長年フェブリエの守護だったからな。」「リシャールは最後の当主なのか。」アオイはこくりと首を振った。「そーかリオンは似ているのか。」
その事実に素直に嬉しいと思った自分にリオンは驚いていた。コウヤの傍でしか自身の存在理由が見つけられらなかった自分にも眷属がいたのだ。
もうこの世にいない上級貴族の最後の当主。彼の面影があるとその歴史を見届けた精霊が言ったのだ。
自分の起源などには全く興味は無いと思っていた。しかし。リオンはほっと安堵の溜息をつくとアオイを見た。
アオイは優しい瞳で一瞥すると背中を思い切り叩いて笑った。「…痛い。」
水の精霊が何を思ってそう言ったのかは分からないが少し胸の辺りが暖かくなり、リオンは状況を改めて認識した。
「悪くないな。」
「おい、戻るぞ。イシュタールが厄介な事になってるらしい。」二人は顔を見合わせた。
「こちらは心配ない。ここで不安ならば異界にお連れするが。」「そうして下さいますか。」
リオンは迷いもなく言い切った。無防備な状態でこの屋敷に取り残されるよりも人間の居ない所の方が安全だ。
「ん、いい判断だと思う。」アオイは冷たいリオンの手をきゅっと握った。「彼らに任せて戻ろう。」