第39話 再会6
がっくりと弛緩した身体をもう一度コウヤはしっかりと確かめる。大丈夫、彼女はまだ壊れたわけじゃない。
オレを認識しているんだ。くそ!オレが投げやりになってどうすんだよ・・
一応の落ち着きを見せたリョウの額に己のそれを合わせる。無意識の行動は誰に教えられた訳でもない必然だった。
しかし、大きく開かれたリョウの瞳はどこも見てはいない。
頭を垂れたコウヤの身体がぽうと淡く光る。
弛緩したリョウの身体を横抱きにするときつくその身体を抱き込んでいた。
明らかに人外と分かる人型が靄の中から現れる。
少しずつ顕現したものは彼らを守るように立って居る。それは精霊と思しき3体の姿があった。
清冽な気を放つ男達は二人の脳内に直接響く声で話しかける。
―古の契約により我々は参上した。コウヤ殿、我々は貴方の身体からその魂が離れるまで仕えることを誓約する。
そして貴方が選んだ伴侶もその対象となる。貴方が望む限り我々はコウヤ殿の命に従おう。
遥か古から守られてきたその誓約はコウヤの覚醒と共に息を吹き返す。
身体に流れ込むその静謐な気と癒しの力。リョウの傷は癒えている。大いなる大地のエネルギーは治癒を促す。
そして生命の源である心地よい水の流れに身を委ねる。周りを照らす慈愛の光は身体の中から漲る火の波動だった。
3人はそれぞれを火、水、大地の精霊と名乗った。彼らはコウヤとリョウの前に膝を折り頭を垂れる。
―貴方とその伴侶に忠誠を誓おう。
明らかに顔色が良くなったリョウを寝台に戻し布団で包む。彼女の呼吸は落ち着いている。
「名前はないのか。」―コウヤ殿が名付けて下さればよろしい。
暫し考えたコウヤは慎重にその名を与える。
「焔の精霊に蘇芳」「東の紅の意とは悪くない。」燃える髪の色をした気の強そうな精霊はくっと笑い顔を上げた。
「真名を頂戴する。」
「水を司る貴方にはシュリと。」「古代語で蒼、私の瞳の色だ。確かにその名の元に忠誠を誓う。」
「大地の精霊にはウィーダ。」「その名を受け取った。古の約束により契約は為された。我々はコウヤ殿の忠実な僕となろう。」
「この中で一番防御に優れているのは誰だ。」水の精霊シュリが顔を上げる。「ではシュリがリョウを守れ。オレが居ない時に絶対に死なせるな。ハオラや彼女に害を為す全ての人間からリョウを守ってくれ。」「御意。」
「なぁ、リョウのこの状態をどうしたらいい。このままでは彼女の心は壊れてしまう。」
この者達の方が禁術や魔術に詳しいかもしれない。藁をも縋る思いでコウヤは尋ねた。
「貴方なら姫様の精神に触れる事ができるはずです。」「精神に触れる・・?」
黒髪のウィーダがコウヤを見る。
「コウヤ殿は姫様の過去を見たはずです。姫様は今、意識の奥底に隠れてしまっている。コウヤ殿に会う前の絶望に心を囚われ抜け出せないでおられます。」
「でもどうやって!あの時はただ寝ただけなんだぞ。魔術なんて使ってない。」
漆黒のマントに身を包んだ長身の精霊は無表情だった。
「そう願えば宜しいのです。貴方と姫様は欠片で繋がっている。本来なら喋る必要もないのですから。」
欠片とは何なのだ?聞きたい事は沢山あったが今はそれどころではない。リョウを連れて帰ってこなければ。
「意識を同調させて寝ればいいんだな。行って来るからこの間オレとリョウの身体を外敵から守ってくれ。」
それぞれの眼を見ると3人の精霊は即座に屋敷全体に結界を施していた。
「イシュタールの者とカイ以外は屋敷に入れるなよ。」
「「「御意」」」
コウヤは精神を集中させるとリョウの小さな手を握り、隣に横になった。
「行ってくる。」「お気をつけて。」
少々短めでした。