表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海の蒼  作者: 森野優
28/57

第29話 イバネマ国9

その嫌な予感は見事に的中していた。アライアが言葉巧みに取り込まれていたのはあのハオラ教団の残党だった。

その根城はハオラが国外から集めている魔導師や呪術師くずれの連中のたまり場になっていたのだ。

怪しげな連中が徘徊する場所にアライアは嬉々として通っている。

物陰から様子を伺うアオイの眼には自分が監禁されていた時に見知った顔を思い出していた。

「とても気分が悪いけどジルは殺さないで捕まえろって言うし。」

ぼそりとアオイは誰に言うともなく呟いた。「ったく面倒くさい。私は面倒な女は大嫌いなの知っていますか?」


その男と出てきたアライアは木の陰に寄りかかるアオイを迷惑そうに見遣り、大げさに嘆息をついている。。

「お嬢様、お兄様からお連れするように言われて参りました。」慇懃無礼に挨拶をすると彼女はさも嫌そうに顔を背けた。

「行かないわ。私には使命があるの。お兄様にはそう伝えてちょうだい。」


洗脳されたかこのバカ女は。アンタに何の使命があるって?この忙しいのに仕事を増やすのは勘弁してほしいよな。

アオイは心の中で強く罵った。「ジルはとても心配していますよ。もちろん私達も。」紡ぐ言葉は裏腹だった。


アライアは勝ち誇ったように笑った。「私を必要とする者の為に働くのはいけない事かしら?」


だめだな。そうアオイは呟いた。必要じゃなくてそれは利用されてるって言うんだが。

その教団幹部は幸いアオイの事は覚えていないようだった。

「巫女様、この男は何者でございますか?不逞の輩でしたら排除いたしますが。」

アライアはうっとりとその言葉を聞いている。「いいの。放っておいて。」

アオイに向き直ると彼女は胸を張って宣言する。「よく聞いてちょうだい。私はこの方達の活動に感銘を受けました。」


呆れて物も言えなくなりそうだった。全く一枚岩ではいられないのはどんな組織でも同じなのか。

「その活動が幼児拉致誘拐の集団でもか。そいつらはリョウをあんな目に合わせたハオラ教団の外道だ。」


男の顔が少し引き攣った。若いアオイがモントールでの事件を知っているとは思わなかったらしい。

「巫女様、あの時は不可抗力でした。私達も騙されていたのです。何も知らされずに利用されていただけでした。」


アオイはそれ以上何も云わず様子を窺っていた。さて、どちらに転ぶか・・

「もう過ぎた事だわ。あの組織はもう無くなっのたのだし、今は違うのよ。」


ああ、面倒だ。この女の好きにさせておけばいいのになぁ・・心の底からアオイはそう思った。しかし彼の演技は1級品だった。

「アライア、君は騙されているんだ。行かないでくれ!」 精神衛生上非常によくないぞこの茶番は。


頭上に眼を向けると旋回していた黒いカラスが一声鳴き、飛び去って行った。「残念だわ、アオイ。貴方には分かって欲しかったのに」「どうしても行ってしまうのか・・」アオイは精一杯の悲しい表情をその顔に張り付ける。


「巫女様。」嬉しそうに悲劇のヒロインを気取るアライアを促し、男は建物の中に引き返していく。

馬鹿にしたような嫌らしい笑みを浮かべている。「巫女様はご自分の意志で此方に留まられるのです。貴方は邪魔だ。」

殺気を感じたアオイはその場を飛びのいた。


ざしゅっ!! 鋭い風がアオイの居た場所を切り裂いた。「ふん、魔導師か。」

戦う気はなかった。あちら様も様子見って所だろう。アオイは黙ってそれを見送った。「さ、帰るか。」

ジルの使い魔が近くにいないのを確認してからアオイはきびすを返した。


悪い女じゃないんだけどなぁ。アオイはアライアのことを考えていた。

昔はあんなではなかった。年相応の可愛い少女だった。何がどう悪かったのかあの性格はどうして出来上がったのかが疑問だ。

何不自由の無い生活だったはずのお嬢様。現状に満足出来ずに常に無いものを欲しがる。彼女はすでに沢山のものを手にしているのにこれ以上何が不足なのだろうか。コウヤも自分の居場所を探して葛藤している。しかし彼は現状を見極める賢さを持っている。そして自身を振り返る謙虚さも。コウヤは他を羨む事はないのだ。彼を取り巻く環境は厳しいが決して劣悪な訳ではないのを知っているからだ。可哀想な女だな、とアオイは思った。男に走る事も出来ず、その力からも見放されようとしている悲しい女。

彼女の求める幸せはとは一体何なのだろうか。イシュタールという特殊な環境では普通の生活は出来ないのかもしれない。

でもアライアは欲張りすぎだろう。もう子供じゃないんだから。そう結論するとアオイは帰途についた。


「リオンに会いたいな。」彼は唐突にそれを口に出していた。ここに来てからあまり話をする暇がなかったから。

自分と出自を同じくする長身の男の姿が浮んだ。寡黙で端正な容貌を持つ彼の主に忠誠を誓う従者。


任務遂行とは言えない気分でアオイはイシュタールのドアを開けていた。


その頃コウヤとリョウ、ルイスの三人は店から少し離れた港町に来ていた。

「潮の香りがすごい!」コウヤはリョウの手を取ると駆け出していた。「二人共子供に返っちゃって。」

しかし、放っておくわけにもいかず、ルイスはその後を追いかけた。外へ出るって事はそれだけお客様を集めるって意味だしなぁ。

走りながらルイスは自身の探査機能を四方に張り巡らせた。「あれ?もう?」


出張と言う名の旅に出ておりました・・ぺこり。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ