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海の蒼  作者: 森野優
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第25話 イバネマ国6

「コウヤ様が人間兵器…!?」

「ああそうだ。モントール軍部の要人を狙った事件を覚えているか。全ての事件にハオラ教団の実験場から保護された子供達が関わっている。しかし、子供と被害者の接点は全く無い。あれはあの男がこれから起こすであろう災厄への前哨戦だ。

成功していたのはリョウだけではなかったのだ。彼らもハオラに禁術を施され、何年後かに発動するように暗示を掛けられた。

我々はその術を゛時限式゛と呼んでいる。その標的を探し出し目的を果たすまで彼らは止まらない。どんなに時間が経とうが忘れる事は絶対にない。彼らが消えるまでその呪いは動き続ける。これを施された人間は術者に操られる殺人人形となる。」

リオンは椅子に座り込んでいた。考えたくなかった。我が主がそんなおぞましい術にかけられているとは。


「大丈夫だ、リオン。この8年間オレ達もただ指を咥えて見ていたわけじゃない。」

リジアもジルも複雑な呪術を解く専門家だった。この何年かはこの二人は頻繁にモンオトールを訪れ、オリビエと対策を立ててきたのだ。大元は外せないにしても外堀から埋め、地道に術を解いていった。その中でジルはリョウからコウヤに発信するなにかがあるに違いないと確信していたのだ。そしてそれを…見つけた時、リョウは迷わずにそれを自分の中から排除する決心をした。


「それは…貴方が決めたのですか?リョウさん、その頃貴方はコウヤ様とは会っていなかったですね?なぜそんな…」

リオンは絶句していた。主に施された禁術にも大変なショックを受けたが主の側に侍るその小さな少女が選択した方法はあまりにも悲しく、辛いものだった。ましてやこの子は女性だというのに。

片手で額を覆った姿のリオンにリョウがそっと近寄って来る。「私が・決めた・から・いい。」「そこまでして貴方はなぜ!」


「リョウはコウヤに会いたかったんだよ。何がきっかけで発動するのか確定できるまでリョウはコウヤから隔離されたんだから。」


はっと顔を上げるとリオンを見詰めるリョウがいた。「そんなにまでしてコウヤ様に会いたかったのですか…」

こくりと少女は頷いた。「コウヤは・名前・をくれた。ぎゅっ・てしてくれたから。ずっと・会いたかった。」


「リョウは番号で呼ばれていたらしいぜ。」

「人から意図的に隔離されていたリョウが無条件にコウヤに懐くのはあいつらの狙いだったかもしれない。でもリョウはその身を削っても彼に会うことを選んだ。」

コウヤを生で見たいとアオイに何度も強請り、ついにはオリビエを説得して学院に入学まで果たした。

「でも恋愛感情とは違うんだよねぇ。」「体が成長しないのに精神が大人になれるか。」「いや、コウヤ様もそうではないかと。」


じっと聞いていたカルロスが口を開いた。

「だがな、術が動き出せば何が起こってもおかしくないと思った方がいい。なぜ、禁術なのか。なぜ禁忌とされるのか。

それなりの理由があるんだからな。もしかするとハオラもどうなるのか知らないかもしれない。この子達はその身に災厄を抱えて生きている。それを絶対に忘れてはいけない。ったく面倒な事になって商売してる暇がねぇよ…。」


「それから、アライアには注意してくれ。彼女に詳しい事情は知らせていないんだ。」

彼女だけ別の家に住んでいるのはどうしてかと思っていた。男性ばかりのこの家には住みにくいのかもしれないが別に理由があるようだった。「未来視の力が衰えてきて苛立っているからな。八つ当たりに構わないでくれ。」


力が衰える。そんなことがあるのだろうか。詳しく聞いてみたい気もしたがそれより我が主の状況の方に比重は傾いていた。

とにかくその王宮三つ巴、三竦みの対峙は理解した。しかし、あの衛兵は将軍の息子と明言していた。

「コウヤ様とリョウさんの素性がバレてているのならこの場所も安全とはいえない。」

「さっき聞いただろう。コウヤもリョウもイシュタールの客人だ。そう簡単に手出しは出来ない。イシュタールはこの国の交易に多大な影響力を持ってるんだよ。」カルロスの右腕を自負するルイスはそうリオンに告げる。


「たっだいまぁ!!」部屋の真ん中に魔方陣で転移してきたスバルは泥だらけだった。「床を汚すなよ?」リジアの冷ややかな眼差しにもこの元気な術師は臆した様子も無い。「はいっ!後で掃除します。」

リオンはこの転移魔法も初めて目の当たりにしたのだった。「凄い…」眼を見張る彼にスバルはにこりともしない。

「俺はこれしかできないハンパ者だから。裏側をこそこそと嗅ぎまわる間諜が俺の得意技。」

その言葉にリオンはぐっと詰まった。「っ!すまない。」辱めるつもりはなかった。「スバル。」リジアは静かに諭した。

「分かってるよ、リジア兄。すこーし自虐したくなっただけだから。気にしないでよリオン。」


「すまない、リオン。アンタは何も悪いことは言ってないから。このチビも色々とワケありでな。ま、ここにはそういうのしかいないけどこいつも相当にひねた育ち方してるんでさ。」


いつもの人懐っこい子犬の表情に戻ったスバルは報告を始めた。

「変装衛兵はやっぱり皇女付きの騎士団の団長。妥当な線でしょ。ただこの男ハオラにも通じてるよ。国王派に筒抜けなのはどう判断するのかって感じ。で、王妃様の愛人の一人でした!」


「ふん、ハオラに宛がわれた男の一人ってワケか。夫に顧みられない女は間違いなく暴走するという、いい例だな。」

プライドの高い王妃は国王に蔑にされるのが我慢できなかったらしい。愛人はその男一人ではなかった。

気まぐれに男を閨に引き込み、憂さを晴らす王妃も悲しい運命のひとりなのだろう。コリルという大国から嫁いできた皇女は自分という存在がイバネマにとってただの人質でしかないことに激怒した。そして国王が擁するハオラを嫌い、その計画を邪魔しようと動き始めていたのだった。

「どう考えてもハオラの手の上で踊らされて、それに王妃派は全く気付いていないんだろうな。」

嫉妬とプライドに凝り固まった女性の姿は悲しい。征服欲と利権に踊る国王の王妃となったことがこの女性の悲劇だったのだろうか。

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