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海の蒼  作者: 森野優
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第23話 イバネマ国4

リオンはカルロスについて店の外へ出た。不安げに後ろを振り返り、店の位置を確認するリオンにルイスが笑う。

「そうだよな、イシュタールは商店の構えどころか名前も書いてないですから。」「…ええ…早く町にも慣れないと。」

肩をぽんぽんと叩きながらカルロスが言う。

「まぁそんなに固くなるなって。お前もコウヤもひとりじゃない。俺達が付いてるから心配しなくていい。」

はっと顔を上げ、眼の前の男をリオンは凝視した。

「身に付いた習性は中々変わりません。コウヤ様はずっと一人で生きてきました。お父上は軍の施設に泊まる事も多く、学院に入学してからは話をすることも稀でしたし。実際はあの誘拐よりもその後の事件の方が彼に大きな傷跡を残しました。」


「何それは。聞いてない。」ルイスだった。リオンはセシリアの実家が起こしたスキャンダルを簡単に説明した。

顔を顰めて聞いていたカルロスは呆れたように言う。「ひっでぇ話だな。金目当てで甥にでっち上げの証言をさせようと監禁?」

「あの頃からコウヤ様は変わりました。大人に怯え、医者に怯え、私すら遠ざけて…あのまま死んでしまうかと思いました。」


商店の多い町並を3人は歩いていく。彼らを付ける黒い影がひとつ。


「その間もお父上は屋敷には戻りにはなりませんでした。その所為でコウヤ様は完全に父親という存在を見限ったんです。

もちろん将軍という立場に敬意は払っておりますがそれだけです。

同年代の友人と付き合いも止め、数年間本だけで勉強を続けました。最終的には学院に入学なさいましたがその頃にはもう現在のコウヤ様は出来上がっていました。他人を頼らず、全て自分で取り仕切る。自分以外は皆敵。学院は特殊な環境です。格上だと認識すれば媚、諂います。しかし、格下と見られた日には引きずり降ろされ排除の対象に成り下がる。弱肉強食の世界です。その中で我が主は一人で今の位置を作り上げた。父上の威光もさることながらあの方は講師陣にも一目置かれている。でもそれは品行方正な優等生ではなく相当な問題児、です。成績でも舌戦でも喧嘩でも誰にも負けません。」


「あーそれは嬢さんとのやりとりでよく判った。コウヤは商人向きだな。」


「まぁ要するにコウヤとリオンはその所為でおいそれと人に頼れる環境にないと、言うわけなんだな。」


「なんか悲惨だなー。まだ16歳だろ?学校行って仲間と遊ぶのが楽しくて仕方ない年代だろうが。」

「でも状況はそれを許しません。大体ここに居る事がもう非日常です。」「はは、違いねーや。ところでお客様には気づいた?」

「首の辺りがちりちりします。」「へぇ…気が付いてたか。でも振り返るわけでもないし、リオンも慣れてるっつーか。」


カルロスの合図で3人は細い路地に二手に分かれた。

カルロスとリオンは敢えて暗い道を選んでいた。奥へ奥へと走ると当然のように影も付いてくる。どうやら敵は一人のようだった。

「あ…ここは…」


その先は行き止まりだった。カルロスはリオンを後に押し込めるとその前に立った。


「どこのモンだ。」この体格と身長で凄まれるとかなりの威圧感だった。

「その男が将軍の息子か。隠し立てすると碌なことにならんぞ。」リオンはその男を睨み付けた。

町を巡回する衛兵の姿だがその横柄な口調は高い地位にいる人間だろう。

「はっ!舐めんなよ。名乗りもせずに随分偉そうじゃないか。将軍の息子?こいつは昨日着いたイシュタールの者だ。」


「貴様、楯突くつもりなら切り捨てるが覚悟はいいか。」尊大に男は剣を抜いた。

「何の覚悟ですかダンナ?私をイシュタールのカルロスと知っての狼藉でしたら覚悟をするのはダンナですぜ?」


カルロスはその男を試したのだ。だだの小者かそれともそれなりに地位のある人間か。

イシュタールが魔道具の取引を王宮と始めた時に国王に誓約を取り付けた書面があった。


イシュタールとその家族、働く人間全ての安全を護ること。自然死ではなくその者が毒殺、その他の陰謀によると判明した場合イシュタールは全ての取引を中止し、イバネマ国外に拠点を移すものとする。


「どうですダンナ。二人共切り捨ててもいいんですよ。そのお姿、見てるのもいますしね。」


はっと後を振り返ると屋根の上にルイスが座って手を振っている。「ちっ!」盛大に舌打ちした男は剣を納めると二人を睨めつける。

「イシュタールめ…成り上がりの商人風情が思い上がるなよ。今日はこれで勘弁してやるが次はないと思え!」

捨てセリフを吐いて男は背を向け立ち去った。


「誰が成り上がりだ、王宮の狗が…邪魔も入ったことだし今日は酒でも買って帰るか!」

帰り道リオンは考えていた。昨日イバネマに入ってからまだ一日しか経っていない。しかしあの兵隊は将軍の息子とはっきり言っていた。顔までは知らなかったようだが、情報が早過ぎる。もしかしたらイシュタールに内通者がいたとしたらどうだろうか。


「余計な気を回すなよ。夕飯の時にでも説明してやるから心配するな。全くコウヤとリョウは人気者だ。強奪戦にも参加か?」

いつの間にかルイスがうしろを歩いている。気配を全く感じさせない不気味さにリオンは心の中で嘆息した。


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