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海の蒼  作者: 森野優
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第22話 イバネマ国3

「もういい加減にしなさい。お前のしているのはただの八つ当たりだ。」

コウヤは黙ってアライアを見ていた。なんとなく判ってきた。リョウの声がああなったのは事故なんかじゃない。

全くあずかり知らぬ事だが、自分が関わっているらしいと。そしてその理由をリョウは明らかにするつもりがないことも。

「しかし、コウヤは品行方正ないい子かと思ったら全然違うんだなぁ」スバルは嬉しそうだった。

弟が出来たような気がするらしい。


「それだけ場数を踏んでいるんだろう。違うか?」「一日中監視されてるような学院に行ってますから。隙あらば食い付いてくるハイエナみたいな連中ばっかりです。足元を掬われないように頭、廻してます。」

「16歳の子供のいうセリフじゃないね。」リジアががっくりと肩を落としている。

「何も知らない子供でいられたのはわずかな時間でしたよ。」明るい笑顔でコウヤは答えた。


「聞いていたか、アライア。年の違いでも性別の違いでもない。お前のその子供っぽい正義感が身を滅ぼすんだ。大体喧嘩は頭でするものだ。相手の優位に立ちたいと思うのだったら口を慎め。少し身の程を知るんだな。」


黙り込んだアリシアはもう口を利く元気も無いらしい。下を向いてすっかり大人しくなってしまった。


「ミカミ将軍は厳しいのか。」カルロスの問いだった。「まぁそれなりに。オリビエ殿から招待状が来た時は、理由も聞かずにぶっ飛ばされました。」「そーか…」ルイスがくつくつと笑っている。


その時勢いよくリョウが部屋に入ってきた。「おは・よう・ございます」掠れた声で挨拶をすると早速コウヤの側に来る。

「はよ、リョウその服、似合うな。」「アライア・の・服。」「そうか。」「コウヤ、リョウに飯、宜しく。」

アオイの声に皆コウヤを振り返った。「………あの、まさかあの例の、あ~んって…やつをコウヤが。」「許せん!」


詰め寄るイシュタール4人組をアオイが押さえ、二人は食堂に移動する。どうしてもそれが見たいスバルは後ろをいそいそと付いていく。


「昨夜はコウヤと寝ていたぞ。」「はっ?」今度はリオンが仰天している。「信じられません。コウヤ様、一体どうしたらそんな。」

「12、3歳の精神年齢のリョウに手を出す程鬼畜じゃないんだろ。」リオンが強く首を振った。

「どちらかと言うと潔癖過ぎるくらいです。貴族ではもう16歳なら婚約者がいて普通ですが、コウヤ様は一切そういったお話はお受けになりませんでした。ですからモントール学院では相当に嫌な思いもされていたようです。」


「ふん、零落貴族のバカ娘達が媚を売ったわけだ。」「その中でリョウさんはとてもお綺麗でした。少し母君に似ている。」

「リョウが学院に行っていたの?」アライアが立ち上がった。「あ、はい。少しの間でしたがとても優秀な方だとコウヤ様が。」

アライアは悔しそうな顔だ。リオンはコウヤの何がこの女性を苛立たせるのか不思議だった。


「あの子が望んで学校に行ったですって…信じられない。」

あの頃のリョウは一人では何も出来なかった。食べる事も寝ることも他人任せで自己の意志という物がまるで欠落していたのだ。

人形のように外を眺める少女にアライアはどう接して良いのか随分と気を使った。

彼女がリョウを世話をしたのは少しの間だったが、その悲惨な生い立ちと普通とは言い難い人格に心を痛めたのだった。

酷い仕打ちを受けたことすら理解していない可哀想な子供だと思った。でもあの頃のリョウの声は潰れてなどいなかった。

当時、人の言葉にあまり反応しなかった彼女が時々歌を唄っていたのを何度か聞いた。鈴のような綺麗な声色だった。


「あれもそれもあの子供の為だって言うの。」とにかく彼女はコウヤが気に入らなかったのだ。

あの、可哀想なリョウを・人形だったリョウを・懐かせた子供。そして彼女の声が瞑れる原因となった将軍の息子。

考えるだけでふつふつと怒りが込み上げてくる。


「コウヤとリオンはイシュタールで働く。お前もこの家の一員ならそのくだらない競争心で足を引っ張るような真似はするなよ。」

ジルは納得していないアリシアに釘を刺していた。どうやらこの妹は兄二人とは意識の違いがあるようだった。

「はい、ジル兄様。」悔しそうにアライアはその言葉に従い、席を立った。


ジルはリオンを見て言った。「性格的に問題はあるがアライアは星読みの能力を使える。」「未来視、ですか。」

その能力はミカミの血筋にも時折発現する力らしい。「将軍にまさか…その。」「ないと仰っていました。先代が記憶した限りではもう見たことも聞いたこともないと。」「そうか、残念だ。」「そうでしょうか。ご当主は必要ないと仰いました。その力があったら今の立場は無かったでしょう。現在のモントール人は強すぎる力を持つ魔術師を嫌う風潮があります。」

「それでいいと私は思うが。モントールのやり方は間違っていない。破壊を生む強い力は迫害の対象となる。軍はその能力を治癒と建設的な方向に転換させ、人々の恐怖の対象とならないように社会に溶け込ませた。これもミカミの先代の強い意見が通った結果だろう。それも無血クーデターで王制から二議会制に移行できた功績だろうな。モントールは共存の道を選んだ。」


感慨深げにジルは腕を組んだ。術者の家系は常にその力と引き換えに恐れられ、迫害された歴史を持つ。

タオもミカミも東の国からその昔に迫害され逃亡してきた一族だった。


「イバネマはその均衡を壊そうとしている。リョウとコウヤがその引き金にされるのはなんとしてでも阻止する。」

「ジル…貴方やオリビエ様は何をなさろうとしているのですか。」リオンの問いにジルは苦笑した。

「まずは、コウヤの解術に専念しよう。二人が戻ったら私の部屋に。」カルロスは頷き、顎をしゃくった。

「リオンには町を案内してやる。」


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