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海の蒼  作者: 森野優
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第18話 旅立ち9

次の朝、一行は国境に到着した。アオイが代表して通行証を役人に差し出す。

モントールとイバネマに友好な国交はないが、ある一部の貿易商人の出入りは認められていた。

「女、お前が責任者か。同行者は3名…荷を検める。馬車から降りていろ。」降りたら絶対に離れてはいけないと言われていた。


リョウの様子がおかしい。


アオイが素早く白い塊りをコウヤのポケットに捻じ込んだ。「呼ばれている。リョウから眼を離すな。検閲が終わったら迎えに行く。ここで絶対に騒ぎを起こすなよ。それこそヤツラの思う壺だ。」コウヤは小さく頷いた。

待ち時間を潰すような振りをして二人は離れて行く。

リョウの行き先は分からない。コウヤは無難な会話を続けながら彼女に付いていく。


入国を待つ人々がごったがえする場所からゆっくりとリョウは離れて行く。

後を着いて行くコウヤに笑いかけると手を差し出した。その手をコウヤはきゅうと握り締める。

その手はぞくりとするほど冷たかった。


頭の上を醜悪な大きな鳥が旋廻していた。リョウは立ち止まりそれを睥睨する。ー待っていたよ私の可愛い子供達…

「~~っつぅ!!」激痛にふたりは頭を抱え、しゃがみ込んだ。頭の中を探られるような嫌な感じだ。

離してしまった手と手をもう一度きつく、繋ぎなおす。「平気か?リョウ…?」肩を抱き寄せ、頭上の鳥をコウヤも睨み付ける。

途轍もない威圧感に体が動かない。

心臓の音がやけに大きく聞こえた。本能が警鐘を鳴らしている。ーアレは危険…近づいてはならない。


途切れそうな意識をコウヤは精神力で持ちこたえる。「…リョウ、リョウ?聞こえるか?オレの声だけ聞くんだ。アレに持っていかれるんじゃない。リョウ!!」

土の上に座り込んだ二人は縛られたように動くことが出来なかった。渾身の力を振り絞ってコウヤがリョウに体を後から抱きしめる。


「あの声を聞くな。リョウ…」使い魔と思しき鳥はまだ上空を旋廻している。吐きそうな酩酊感にコウヤは抗う。

腿横に仕込んであった薄手のナイフをなんとか片手で取り出すと当たるはずがないと思いながら、それに目掛けて思い切り投げた。


そしてコウヤはリョウの首筋に手刀を入れ、落とした。「ごめんな、リョウ…」

上空では奇怪な笑い声を上げた醜い鳥が音を立てて、消滅したのだ。


「リョウ!コウヤ!無事かっ!」この気配はアオイとリオンだ。もういいか…コウヤは暗転する闇の中に引きずり込まれる。


アオイはリョウを抱きかかえ、リオンはコウヤを背負うと人目を避けるように馬車に向かった。一刻も早くジルの元へ。


「おい、同行者はあと二人いるんじゃないのか。顔を見せろ。」「子供二人は草臥れて寝てるんですよお役人様…」

アオイは荷馬車の後の丸く固まるふたりの顔を指差した。「もう1週間も旅してるんでくたくたなんですよ。」

「ああ、そうか。行っていいぞ。」国境の役人は子供という言葉に反応し、注意を払わなかったのかそれ以上詮索せずに通してくれたのだった。


イバネマに入るとすぐに一頭の馬が近づいてきた。「無事だったか。」「危なかったよ。もう少しでリョウは連れて行かれる所だったし。コウヤが上手いこと捕まえててくれて助かった。」「そうか。我々もどうなることかと気を揉んだぞ。禁術と呪術の完成品が対で来るんだからな。いきなり王宮で暴発かとぞっとした。」「…手厚い歓迎のお礼はあちら様に言って下さいよ。でもこれ程影響を受けるとは思わなかったです。たかが使い魔ですよ?本体が現れたらどうなっていたか。」

厳しい顔のアオイの馬上の男は同じく眉を顰めた。「ああ…ジルも心配していた。アレは相当に厄介だ。」


馬車の中でその会話をリオンは聞いていた。この男は迎えか護衛か、イシュタールの手の者だろう。

今まで魔術使いを間近で見た事がなかったリオンには先ほどの光景は十分に衝撃だった。

モントールでは人を攻撃する魔術は厳しく規制されている。事実治癒魔法や回復魔法、修復魔法しかリオンは見た事が無かった。

考えてもみなかった魔術の破壊力をリオンは感じていた。それを自分も使えるのだと思うと怖くなったのだ。

剣ならいきなり殺す事はない。しかし、コウヤ様に仇名す者がいれば自分は迷わず斬るだろう。

それが魔法であっても同じ事だ。お護りするのはこの方だけ…リオンはその誓いを新たに胸に刻んだ。


がくんと荷馬車が薄暗い通りで止まる。小さな間口の前では数人の男達がすでに待っていた。

端に立つ長身の男がイシュタール・ジルだろう。オリビエによく似ていた。


起きる気配の無いふたりを残してリオンは馬車の荷台から降り、まずは頭を下げた。

「挨拶は後だ。二人を中に。」ジルはそう声を掛けた。


店の中は暗く、雑然としていた。奥の部屋にコウヤとリョウを寝かせ、ドアは閉めずに戻った。

ジルがにっこりと微笑んだ。「ようこそイシュタールへ。フェブリエの末裔リオン、君を歓迎する。」


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