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第4話 一目惚れ(4月の続き)



 旧3号館の裏で待ち合わせるのがいつもだった。そこから、創立の偉人の立像下を通って、キャンパスの外れまで歩くのがお決まりのコース。


「先輩! お弁当、作ってきちゃいました!」


 君は、そう言って笑顔を見せてくれた。平凡な顔立ちだと思っていた女の子が、ドンドン綺麗に見えてきたのは、何かの魔法だったのかな。


「いや、毎回作ってくれなくても。大変だろ?」

「すごく美味しそうに食べてくれるから嬉しいんです。それに自分の分を作るついでなので」


 いや、毎回、明らかに男性好みの弁当にしてくれてるよね? どっちが「ついで」なのか丸わかりなんだけど。だけど、ついつい受け入れてしまうオレがいた。


「実際、すごく美味いし、ありがたいけど、ホント、明日は、いいからね?」

「私が作りたくて作っているんですから! 一緒に食べてくれるだけで感謝しちゃいますから」


 紗絵は好意を隠そうともせずグイグイ来たんだ。なんてパワフルな子だろうと思ってたら、実は、毎回、毎回、美羽ちゃんに励まされて勇気を出していただなんて知らなかった。引き返したくなる気持ちになるたびに背中を押してもらっていた話は婚約した後に聞いたことだ。


 アド交換は、すこぶる美味い弁当に押されるようにして初回から。美人の美羽ちゃんとは、あえて交換しなかった。


 ほんとに、ずっと、ずっと後で聞いた話だけど、これが美羽ちゃんから高評価だったらしい。前カノに二股されて「美女恐怖症」になっただけだったのに。


 ともかく、毎日「おはようございます」から始まって、猛烈にグイグイと愛情表現をしてきたね。スゴく真っ直ぐな目をしてたから、戸惑ったけど、全然嫌な気持ちになれなかった。


 まだ、オレの気持ちは恋愛に対して後ろ向きだったけど、地方の女子校育ちの紗絵にとっては、生まれて初めての一目惚れだったんだって。


 厳しいことで有名なF県の名門女子校育ち。男に免疫が無い分、寝ても覚めてもオレのコトしか考えられなくなったらしい。


 初めての一人暮らしで、寂しさもあったんだろうなぁ。


 一目惚れパワーはすごかった。


 何度断っても弁当を作ってきてくれた。勢いに負けて毎回食べちゃうんだけど、これがまた、すこぶる美味いんだよなぁ。一人暮らしの間に、料理くらいはできるようになったけど「誰かに作ってもらえる料理」の味は心に響くんだってわからされたんだよ。


 初告白は6日目だった。まだKONのトラウマがあるオレが誰かと付き合うなんて考えられない。その場で「ごめんなさい」をした。


 でも、紗絵は全然諦めなかった。何度も何度も、ことあるごとに、いや、何もなくとも告白してきたんだ。


 そう言えば、面白いクセがあったな~


 軽いジャブみたいな「告白」はいつもだったけど、面と向かって、きちんとした告白をしてくるのは必ず水曜日なんだよ。


「なんで毎回水曜日なの? これで5週連続だよね?」

「わ~い! 覚えてくれたんですね!」

「いや、さすがに毎回だと……」

「水曜日は私のラッキーデーなんです!」

「ラッキーデー?」

「はい! 先輩に初めて会ったのは水曜日でしたから! 永遠に私のラッキーデーです!」


 そう言って、毎回、子リスのような目でウルウルと見上げてくるんだ。オレだって鬼じゃないんだ。だんだんと気持ちが前向きになっちゃったんだよね。


 毎日のように、好意をたたえまくった笑みと弁当で攻められちゃうんだ。オレの気持ちが硬いままでいるのは不可能なこと。


 六回目の水曜日に、紗絵を受け入れたんだ。


 決め手は「この子なら浮気はしない」ってところにあった。


 だって本当に平凡な顔なんだよ。ほら、いるじゃん、クラスで五番目か六番目くらいに可愛い子。ブスじゃないけど美人だとは誰も言わないタイプ。


 それが安心できたんだよね。


『平凡な顔の子にイケメンは寄ってこないだろ? それならオレが大事にさえしておけば、ずっとオレだけを見てくれるはずだ』


 よく考えたら「浮気しないような平凡な子だから付き合おう」ってクズな理由だよね。


 でもさ、当時は美人JKモデルもやっていたKON、つまり広田乃理(のり)に二股されたショックで病んでたんだから仕方ないよ、と自分に言い訳したよ。


 紗絵には言えなかったけどね。


 ……言っとけば良かったのかな? いや、しょせん、何かのきっかけで浮気はするヤツだったんだよ。


 実はあの頃、美羽ちゃんもオレを好きだって察知してたんだ。自信過剰なんて言わないでくれ。鈍感系主人公じゃあるまいし、いつも紗絵と一緒に来てたんだ。表情くらいは読めるさ。


 普通は紗絵と美羽だったら誰がどう見ても悩まない。美羽ちゃんを取る。


 おそらく美羽ちゃんも自覚していたはずだ。そして「親友が好きになった相手」として応援している以上、俺に対する気持ちを、とうとう言葉にできなかったんだろうね。


 女同士の親友なら「あの人が好き」って先に言った方が勝ち。美羽ちゃんは友達の恋を応援する側に回った。


 そのくらいの事情は察したよ。


 美羽ちゃんの好意に気付いてないふりをして、紗絵の告白を受け入れたんだ。


 ただ「本当に、ずっと後で考えると」と美羽ちゃんは教えてくれたことがある。


 この時「自分では無くて紗絵を受け入れてくれた人」ということは、哀しかったけど嬉しかったと感じたらしい。容姿ではなくて、気持ちを受け入れて人を好きになる男性なんだってことに、すごく信頼感とか安心感を覚えたらしい。


 でもさぁ、付き合い始めたら紗絵は本当に良い子だった。


 見た目はホントに平凡だよ? まあ、細身なのに胸がFなのだけは()()だけど、決してそれに惚れたんじゃないからね!


 ほら、胃袋を捕まえられるって言うじゃん? 家庭的って言うか…… 一生懸命尽くしてくれる感じが良かったんだよ。


 二人ともアパート生活だ。あっという間に、毎日一緒に晩ご飯を食べるようになってた。なんとなく、たった一晩でも別れて眠ることがいやで、オレが誘って、紗絵もおねだりして……


 アパート生活だけに、同棲を決めるまで、それほど時間がかからなかった。


 付き合うきっかけは確かに紗絵の一目惚れだ。だけど、いつの間にかオレの方が惚れてたんだと思う。

 

 いっつも()()のイチャイチャだよ!。


 ほら、良く言うじゃん。「美人は三日で飽きるけど」って。その真逆だろうね。少なくとも見た目で紗絵を選んだんじゃないって胸を張れたよ。


 あ、ちなみに誤算があった。


 夜のこと。ま、昼もシてたけど 笑


 初めてオレの部屋に来た日、帰りたがらなかった。アパート生活だ。このまま泊まることになんの障害もない。


「泊まってくれるのは嬉しいけど、オレも男だし、紗絵が好きだから……」

「我慢なんてしなくて良いですよ。だって、先輩のことが大好きだもん」


 あの時、ベッドに入るまで、ちっとも怖がり、不安そうにしなかったね。お陰で、オレは「男と付き合うのは初めてって言ってたのに経験してるんだ?」って密かに意外だった。


 だって、あまりにも落ち着いてたから。

 

 その落ち着きぶりは「大好きな先輩がしてくれるんだから、全部、任せれば大丈夫」っていう信頼感と愛情が作り出したものだって言うのは、気付かなかったんだよなぁ。


 いざ、結ばれたときに「痛い」を言わないようにしようとしたよね。オレも緊張していたから、その時は気付かなくって。


 その後、シーツのシミを君は慌てて水に浸けに行った。間抜けなことに、それでやっと、オレのために「痛い」を我慢していたんだって知ったんだ。  


 紗絵が「初めて」なのはわかりきっていたはずなのにね。


 でも、物覚えの良い子でさ! 何をお願いしても、むちゃくちゃ恥ずかしがるのに、必ず、言うとおりにしてくれる。お願いすれば、なんでもシてくれるんだよ。


 しかも、あっと言う間に覚えた感覚は、とっても鋭敏で深かった。二人で上り詰めた最後のビクンビクンもすごく深いんだ。


 あんなにエッチな身体だったなんて予想外だよ。


 顔は平凡だったけど、オレだけが知った身体は、まさに()()。手に余る大きさも弾力もすごかったし、オレを包み込む部分も最高だったし!


 いや~ 女の子にあれこれと教え込むもは男の醍醐味。そっちの相性が最高なのは嬉しい誤算、大誤算だったよ。


 声が大きいから、お隣から苦情が来ないように気を遣わなきゃなんなかったけど、すごく真面目な顔の下に隠してたエッチな本性を知って大満足だったよ!


 幸せだった。


 一ミリの隙間も誤解も無くて、オレのコトだけを真剣に見ていた紗絵がいた。


 本当に、あの頃は順風満帆(まんぱん)だったんだ。


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