空の駅(餘部橋梁)
海岸沿いを走る一両の電車
乗客は何故か皆一人
通路の向こうには疲れたようにうたた寝するリクルート姿の若い女性
横には不似合いな発泡スチロールの箱が
誰かへのお土産だろうか
想像をふくらませているのは多分私一人だけ
他者に関心を持つ者は誰もいない
時折急に開ける木々の間に姿を現す日本海を
まるでコマ送りのアニメのようにしてしまう意地悪なトンネル
リアス式海岸なんだと思い知らされる
トンネルの狭くて古いたたずまいにこの線路を築いた人々の労苦を想う
目指す駅は地表41・5mにある無人駅だった
遮るもののない高台から見える海中に直下立つ岩場やその向こうに広がる海
けれどその美しい景色よりも線路のはるか下にある入江に建つ集落の家並みに心引かれる
一時間半余り後の次の電車を待つ間に向かった地表の道の駅
高架下で目にした「空の駅」というバス停にはっとする
いつもは流し見程度の道の駅に流れる紹介ビデオ
悲しい事故や架設までの苦難の道を描いた映像に飽きることなく見入った
駅に戻り 残された中空に途切れた旧い線路を見直す
その延長線上に暗い口を開けたトンネルに向かって
この地表41・5mの線路上を電車が来ない時間黙々と歩いて行く人々の後ろ姿が見える気がした
人の数だけ生まれた地があり
ただ“そこに生きる”という事を
通りすがりの私に教えてくれた
空の駅