6.異世界はファンタジーな所のようでしたが、俺はただ見ているだけでした
城から出て行ってしまった彼女によると、元の世界のアパートの部屋は引き払われ、職場への退職の手続きも済まされ、元々無いに等しかった俺の財産も、必要が有れば引き出せるよう保管されたので、何も問題はないという。
与えられた部屋の風呂に入り、部屋の扉に札を掛け、ベッドで寝てから起きると、部屋を出たところに設置された小型のテーブルに食事が置かれていた。
メモ書きを読むと、食べなかった料理を含め、空になった食器類はそこに置いておけば片付けられるのだという。
また、必要があれば、室内のパソコンの画面で呼び出しボタンを押したら、使用人が駆けつけるということだった。
料理は、元の世界の外食のように美味しく、野菜を含め、定食のように一通りの料理がそろっており、栄養バランスも十分で、量はかなり多かったが、残すのがもったいなく、全部食べてしまった。
腹がいっぱいになったので、またベッドで寝てから、部屋のパソコンをつけると、「インターネットへの接続」「使用人呼び出し」「質問用チャット」等の、いくつかのアイコンが、画面に表示されている。
まず、この世界のインターネットに接続し、この世界で放送されているらしい娯楽の番組を見てみたが、まるまると太ったウサギのような白い動物が主人公のアニメで、みんなで仲良くすることが大切というストーリーの話ばかりで、すぐに飽きてしまった。
他には、この世界で偉い者と思われる白髪だらけの老人が、清く正しく生きることや、働くことの大切さ、国や家族を愛すること、感謝することの重要性を説くような話をし続けるチャンネルで、これも、すぐに見る気がしなくなった。
興味を持って見たのは、この世界を飛ぶカメラのようなものを通じて、世界の光景を実況中継しているチャンネルだった。
それによると、この城の周りには荒れた大地が続いており、オオカミのような魔物が大量にうろつき、盗賊たちも暴れていて、とても危険ということだった。
ただ、この城は強力なバリアに包まれている上、そういった者たちからは見えないようにされているらしく、城の中に入って来れないようになっている。
この城の周りの荒れ地や砂漠を越え、遠く離れている土地にあるらしい街の光景も映ったが、崩れかけたような建物が多く、汚い服を着た住人たちが怒鳴り、殴り合っていたりと、行ってみたいと思える場所ではなかった。
他のアイコンから、チャットで質問ができる画面にも行けたので、「俺の能力」について質問したが、「この世界で生きているだけで、大地を通じて希少エネルギーが供給されることにより、世界のエネルギーが安定する」というような訳がわからないことを長々と述べていた。
また、俺をこの世界に導いた「彼女」にどうしても会いたいなら、チャットを通じて希望を出せばよいこと、彼女の名前は「エメラルド」ということも知った。
ただ、彼女は忙しいので、呼び出すのは極めて重要な場合だけにしてほしいとのこと。
エメラルドは、この世界における勇者的な者が所属する冒険者パーティの一員で、魔物たちと戦っているのだという。
一方、俺には戦闘能力が無く、魔法を使えず、スキル的なものも何も無いので、城の外に出たら、すぐ近くをうろついている獣に殺されるということだった。
それ以前に、城の周りを包む障壁に保護され、勝手に外に出られないようにしてあると。
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ネットを見続けて疲れたので、ひと眠りしてから、再び部屋の外に置かれていた食事をした後、今度は、自分が住んでいた世界のネットを見てみた。
すると、俺が加入していなかった映画やアニメのチャンネルをなぜか見ることができ、無数に等しいゲームをダウンロードできるので嬉しくなり、パソコンに表示されている時計で何週間も経過する間、遊び続けてしまった。
気になったのは、このパソコンのインターネットでは、情報の受信はできても、チャットを除いて、こちらからはほとんど送信できないということだった。
インターネットへの接続を止めた状態でダウンロードしたゲームを遊ぶようなことはできるが、インターネットを使って、外部の人とコミュニケーションを取ることはできないよう、送信の機能はごく一部に制限されている。
だが、俺は元の世界でも、ネットですら他人と話すのが面倒という性格だったので、大して気にならなかった。
それでも、何週間も誰とも話さずに過ごしていると、室内が汚れてきたような気がしたのもあり、使用人を呼び出すことにした。