その4「てすてす」
そんなわけで4話?です! 今日からGWって方も多いでしょう……お休みは最高だー! 積みゲー消化しなきゃ
「うんー、ちょっと色々とね、この世界にも大きな事件があって…… まぁ、詳しくはあんまり語れないんだけど、その影響でアリスは今、この世界から離れた場所にいるの」
「つまり……帰る方法が、存在しない……?」
「あ、いや、そういう訳でも、なくてね。 とりあえず、テイリアにおける物語を結末まで導く事で、アリスの帰還も早まるから、パパ……っじゃない、テルくんにはテイリアを回って旅をして欲しいなって」
「あー、えっと、呼びたいなら、パパって呼んでもいいぞ……? この歳でパパって呼ばれるのはかなり複雑な心境ではあるけど」
何度か言い間違えているので流石に気がついてしまったが、どうやら、ヴェルはこの物語を作った張本人である僕のことを父親と認識しているらしい。
ほかの初代組がいるのかは分からないが、いるならいるでおそらく同じような展開になるだろう。
「あ、えっと、じゃあ、パパで…… その、パパ、旅は、してくれる?」
「まぁ、それが必要とあらば、な…… とりあえず一人旅はちょっと厳しそうな気もするけど」
この世界の創世主とは言え、特に何も力を持たない一般人であることに変わりはないので、仮に戦闘になったりしたらどうしようもない。
「あぁ、それなら今代の赤ずきんを連れていきなよ」
「今代の、赤ずきん?」
「うん、6代目赤ずきんの……」
「6代目は死んだ。今代は私」
ずっと黙っていたフィオナが横から口を挟んだ。
暫し驚いた顔をしていたヴェルだったが、納得したように頷いた。
「ん、そ。 じゃあ、フィオナについて行ってもらおうか」
「承知した」
「あ、一つ、質問してもいいか?」
「うん、どうぞー?」
「2~6代目って、今はどこに……?」
7代目のフィオナ、それ以前の赤ずきんの顛末が気になってしまった。
「え? あー、んとね、2代目は病死かな? 身体はあんまり強い方じゃなかったから、村でも基本は裁縫とかやってた子だったし。3代目はー……えーっと、あ、そうそう。行方不明。森に行ったっきり戻ってきてないよ。4代目は今は村の外でママやってるんじゃないかな? 5代目は事故死だね。 6代目は……なんで死んだのか分かんないけど、そんな感じかな」
少し寂しそうな笑みを浮かべるヴェル。
今までの赤ずきん全てを見てきたのだろう。
幼い容姿の割には精神はかなり成熟している、のかもしれない。
「6代目は、恐らく……僕の目の前で、自殺した」
「へ? あ、そ、そうなの? うわぁ、あの子、掴みどころないとは思ってたけどまさかそんなことしでかすとは……」
「……暫くは肉と柘榴は食べたくないな……」
あのシーンを思い出して少し吐き気がしてきた。
これは長い付き合いになりそうである
「あ、あはは……パパも苦労してるねぇ。まぁ、こんなどうしようもない世界を作ってしまった張本人だしね…… 住人からも多少なりとも恨まれてはいるんだよ」
「そう、なのか?」
「うん。 まぁ、端的に言ってしまえば、この世界って結末がないから永遠に続く世界なんだよね。でも、続いてるのに停滞し続けてるんだ。 だから、大きな変化もなければ起こそうとすれば世界から修正を受ける。一方からすれば穏やかで暮らしやすい世界かもしれないけど、一方からすれば退屈な世界ってこと。 だからね、どのテイリアに行っても、パパは住人たちからの憎しみを抱えていかないといけない」
「……そう、か」
この世界における味方はほとんど居ない。
まぁ、第一に、僕はこの世界の住人ですらないから、知り合いも今知り合った人たちのみなわけだが……
どこに行っても恨みを買ったままなのはちょっと辛いかもしれない。
「あ、そうそう。 なんで私、初代赤ずきんが村長なんかやってるのかって説明、してなかったね」
「ん? あぁ、確かに? でも、それってただの年長者だからとかでは無いのか?」
「違う違う。私はこのテイリアの管理者なんだ」
「管理者?」
「うんー。まぁ、テイリアの全体を管理してる人、かな? メインキャラ以外で唯一魔法が使える人物でもあるね」
「管理者なんているのか…… どのテイリアにも1人ずついる感じか?」
「そだね。あと、基本的には初代の子が管理者をやってたはずだよ。初代組はパパのことを生みの親として認識するからそういう呼び方をしちゃう可能性は大だね」
「いや、まぁ、呼び方はもう今更だからいいけど」
初代のキャラクターたちか……そもそも、この子達は僕のことを恨んでいるんだろうか……
こんな、どうしようもない世界に閉じ込められてしまった原因のこの僕のことを。
「ちなみに、ヴェルは……僕のこと、どう思ってるんだ?」
「ほぇ? あ、あー。うん、またストレートに聞いてくるねぇ」
あまり予期してなかった質問だったのか、少し考える素振りを見せるヴェル。
しばし考えた末にゆっくりと口を開いた。
「まぁ、そうだね、恨みが全くないとは言わないけど、初代組は皆ね、少なからず感謝もしてるから、だから、私は少なくともパパのことは好きだよ、娘として、ね」
「そっ、か……うん、その、なんだろ……あ、ありがとう?」
「ふふっ、どういたしま……あー!」
急にヴェルが大きい声を出しながら立ち上がった。何事かと机の上に目を移せば、ヴェルが出したアップルパイと紅茶は全て無くなっていた。
「フィオナ!」
「何?」
お腹いっぱいになったからか、少し眠そうな顔をしていたフィオナの肩をヴェルは掴んで前後に揺さぶる。
「何で! パパと!私の分!残さなかったの!!」
「全部食べちゃダメとは、言われてない」
「普通は気を使って残すの!はぁ……まったく。 まぁいいや! えっとね、とりあえず、ここは後回しにしてもらって、パパにはフィオナを連れて、まずはシンデレラのテイリアに行って欲しいんだ」
仕方なさげに座って、僕の方へと向き合ったヴェル。
ここからは仕事モードらしい。
「ここを後回しにする理由は?」
「代替わりしたばっかりでテイリアが安定してないから、下手に今手を出すと、何が起こるかわかんない、からかな」
「ふむ、なるほどな。じゃあ、シンデレラのテイリアはどこに?」
「シンデレラのテイリアはお隣だね。距離的にはそこまで離れてはないよ」
「最初の攻略先としては自然か…… ちなみにテイリアの境目とかって分かるのか?」
「あ、うん、すぐ分かると思うよ。草原と石畳が不自然に隣接してるしね」
「境界でガラッと世界観が変わるのか……まぁ、了解」
ヴェルの説明を聞き終わり、立ち上がろうとすると、ちょっと待ってて! とヴェルは部屋の奥の方へと駆け出した。
5分もしないうちに戻ってきたヴェルの腕の中には2つの物があった。
1つは紙の束、もう1つは鍵を束ねる輪っかと2本の鍵だった。
「これはツギハギフェアリーテイルの写しだよ。これに物語の続きを描き込んでね。そして、この鍵束は……アリスの持ってた鍵の束……なんだけど、私は2本しか持ってないの」
鍵と言えばなんか、朧気に誰かに集めろとか言われた気がするな、そういえば。
ある場所をとりあえず聞いておこう。
「各管理者が分けて持ってる、とかそういうことか?」
「まぁ、そういうこと。 私の持ってた鍵は赤と茶……かな。 パパが使えるかは、わかんないけど、アリスの鍵って別の人でも使えてた記憶があるから、集めておいて損は無いと思う」
そう言いながら、鍵と紙束を僕の手の中に委ねる。
僕の黒歴史であり、この世界の根源、ツギハギフェアリーテイル……
この物語を巡る旅が、今始まるのだった……
次回更新は5月2日の予定です!お楽しみに!