その3「あー。」
明日続きと思ったけど今日投稿する我慢できなくなった作者
中に入って改めて感じた。
この村は異質と言うより異常である。
まず、目に見える範囲の女性……平均的に見た目がどう考えても10代前後にしか見えないのだ。
一応、時間を考えると真昼間……だとは思うし、そんな時間だから仕事やら、なんやらで大人が出払ってる……可能性は否定できない。
日本と比べれば文化レベルが明らかに低いこの村に学校があるとは思えないので、子供たちが村にいるのことに何らおかしなところは無いのだが……
大人が1人としていないと言うのは流石におかしい。
僕が見落としているだけかもしれないが、明らかに存在しない、という感じなのだ。
というか、どう見ても見た目子供な赤ずきんたちが、農作業やら何やらをやってるのを見る限り、この村は子供たちの手で回っているとしか思えなかった。
おかしな世界
おかしな村
おかしな住人
なんともまぁ、夢なら早く覚めて欲しい状況であった。
「ここが村長の家」
フィオナが立ち止まった先には周りの建物より少し大きめの家が建っていた。
フィオナはそのまま家へと駆け寄り、入口をノックする。
すぐに家の主が出てくる……かと思ったら反応はなかった。
フィオナは首をかしげ、もう一度ノックするが、やはり反応はなし。
フィオナは少しムッとした表情になり、扉を開けた。
扉に鍵はかかっておらず、すんなりと開く。
フィオナが中へと入っていき、僕も慌てて後を追う。
そして、その中で見たのは……
くーくーと可愛い寝息を立てるこれまた赤ずきんなのだった。
椅子に座ったまま眠る彼女は、これまた10歳程度の体躯で、特別大きいという感じでもない。
眠ってはいるがなんとも愛らしく、人懐っこそうな顔をしている。
しばらくぼーっと眺めていたのだが、フィオナが黙ったままその赤ずきんの横まで移動し、かなり強めに引っぱたいた。
「いっっったぁぁぁいっ!!!」
「ん」
素っ頓狂な叫びを上げながら彼女は飛び起きた。
「な、なになになに! 敵襲!? 地震!? 雷!? 火事!?」
慌てふためく赤ずきん。目を白黒させながら周りをブンブンと首を振って確認している。
そして入口近くにたっている僕に気がついた。
「あ、ど、どうも……」
座ったままぺこりと挨拶する赤ずきん。
これが僕と初代赤ずきんこと、ヴェルメリオ・アプリコットの邂逅だった。
~ * * * * ~
「あ、えーっと、テル、くんだっけ」
湯気の経つティーカップといい香りのするアップルパイを机に置き、目の前の赤ずきんは頬をかきながら聞いてきた。
「ん? あぁ、まぁ、照未だし、テルで構わないけど」
「はじめまして、私は赤ずきんの村の村長で、初代赤ずきんのヴェルメリオ・アプリコットだよ。気軽にヴェルと呼んでね」
気を取り直してというかなんというか、ヴェルに促され、席に着いた僕たちはとりあえず自己紹介をした。
ヴェルメリオ……確か、ドイツ語で赤という意味の単語だったか。
赤ずきんの名前としては適切……なんだろうか? そもそも、原典の赤ずきんに名前は存在していたか定かでは無いんだけど、童話において名前の無いキャラも多く存在しているのでなんとも言い難い。
「えっと、ちょっと聞きたいんだけど」
「うん、なんでも聞いてー?」
「まず、その、何代目とか言うのはなん、なんだ?」
色々と分からないことだらけではあったが、とりあえず一番気になるところを聞いてみた。
「あぁ、それね。赤ずきんの役ってのもある意味では襲名制なんだよね」
「襲名制……?」
「うん、世界から選ばれる……って感じかな? 私も詳しい原理はよく知らないけどさ。テイリアにおいて、物語の主役キャラはそのテイリアの中でふさわしい人がツギハギフェアリーテイルという世界から選ばれる……って言えばいいのかな」
「待て、初耳の単語が出てきた。 てい……りあ? と、その、ツギハギフェアリーテイルってのは?」
話をしてるヴェルを遮って止める。
「あぁ、その辺も説明されてない感じ? ……フィオナ?」
「……んぐ……説明しろって、むぐ。言われてないし」
「えぇ…… ま、まぁいいや…… テイリアは物語ごとの区切り? みたいなものだよ。国境みたいなもので区切られてる。ここは赤ずきんのテイリアだよー」
「ほう。 テイリア……テイルとエリアの複合単語か?」
「恐らくね。詳しいことは私も知らない。 それで、ツギハギフェアリーテイルは……」
ヴェルはそこで1度言葉を区切った。何かを思案するような顔でうーんと漏らした。
「うん? どうしたんだ?」
「いや、うん、そうだね、 隠しても仕方ないし……ね。 あのね、ツギハギフェアリーテイルは……その、君が生み出したものなんだ」
「は?」
僕とヴェルの間になんとも言えない沈黙が流れた。
そんなものを作った、というか、僕はそもそも世界を創造できるような超絶能力の持ち主では無い。
「あ、えっとね、正確に言うと、ぱ……テルくんが描いた小説が元になってできた世界なんだよ、ここ」
「ぱ……? いや、それはいいや。僕が、描いたって? そんなもの描いた記憶は……ない、けど」
「よく思い出してみてよ、かなり昔の話だけど」
そう言われて自分の記憶を辿っていく。
色々と思い出していく中で小学生の頃に童話好きが相まって小説を自作したのを思い出した。
「も、もしかしなくても……小学生の時に描いた、自作のオリジナル小説……?」
「そうなるね」
「うわぁぁぁぁぁ!!!現実世界に直ぐに帰してくれ!!」
とんでもない黒歴史を掘り返してくれたもんだった。
ツギハギフェアリーテイル、確かに僕が描いた小説である。
小学生~中学生にかけて、様々な童話に追加の要素を加えたらさらに面白さが増すと考えて、ほかの童話や物語の設定をツギハぐことで生まれた作品群。
しかしながら、当時の僕は童話の知識こそあれど、物語を描くための技量も語彙力も足りていなかった。
それ故に、作られた物語たちは全て未完のまま、放置されることになったのだ。
「いやー、現実世界に帰るのは難しいんじゃないかな、というか、パパ……じゃなかった、テルくんがこの世界の設定を全部作ったんだからね?」
「うー、うーん……確かに僕はこの世界のほとんどの人に魔法が使えないように設定はしたけど……」
この世界にはほとんど魔法というものが存在しない。
そういう風に設定を作ったのは僕だ。
魔法の万能さにかまけて物語の面白さを損ねるのは如何なものかと思った結果として、メインキャラ以外は魔法を使えないように設定したのだ。
「まぁ、一応、テルくんを元の世界に返せそうな人は、居るね」
「居るのか! 教えて欲しい!」
「あー、うん、その人は、アリス、なんだけど……その、えっとね?」
「アリス? アリスって不思議の国のアリスか?」
「そう、だね。私の親友。一応、その子なら君を、元の世界に返せると、思うけど」
「けど?」
「アリスは、今この世界に居ないんだ」
「へ?」
ヴェルは申し訳なさそうな顔で僕の希望を断ち切ってくるのだった。