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ツギハギフェアリーテイル  作者: 渡口七海
第0章 赤ずきんのテイリア編
3/7

その2「」

お久しぶりです! 続きは今日から投稿していきますー!


ストックは……あります!

しばらくの間、何が起こったのか分からなかった。


手を銃のように構えて、自分の頭に向けた赤ずきんは音が鳴ったとほぼ同時に頭部が吹き飛んでいた。


びしゃりと顔に生暖かい物が飛んできた。


それがなにか確認する前に、頭部の無くなった少女の身体はぐらりと揺れて、そのまま横は倒れた。


無くなった頭部が着いていた場所からは血がだくだくと流れている。


恐る恐る顔に着いたものを手で拭ってみる……それは、もちろん血だった。


少しづつ、目の前の光景を理解し始める。理解したくないと、脳が拒んでいるがそんなのお構い無しに、手にベッタリと着く血が、それを現実だといやでも認識させてくる。


気がついたら僕は後ずさっていた。が、足が震えてうまく動かない。


声を出したいのに、上手く声が出ない。


どんどんと動悸が激しくなり、息も荒くなる。胃の中に何も入っていないが、込み上げてくる嘔吐感に耐えられず蹲ってそのまま胃液を吐き出した。


えずきが止まらない、嗚咽のような声を漏らしながら下を向き、ただただ込み上げてくるものを吐き出す。


血の匂いと自分の吐いた物の匂いが混ざり、さらに吐き気が込上げる。


こんな状況に1人で耐えられる訳がなかった。


僕、文姫照未はただの一般人なのだから……


「……動かないで」


鋭い少女の声が、突然僕の耳へと届いた。下を向き、吐くことに必死の僕は彼女の接近に全く気づけなかった。


汗と涙と鼻水でぐしゃぐしゃな顔を上げ、彼女を見ようとした。


その行動は……間違いであった。


額に猟銃を突きつけられた。 射抜くような視線が、僕を見据える。


目の前の彼女もまた、赤いずきんを被っている少女であった。


先程、何らかの方法で自殺を図った少女と目の前の少女の印象が重なり、銃を突きつけられている状況だと言うのにも関わらず、吐き気が込上げる。


「……」


そんな僕を見て、彼女は何を思ったのだろうか。


齢17歳、高校生にもなって顔をぐしゃぐしゃにしながら無様にも這い蹲っていた僕を見て、彼女はどう言った感情を、抱いたのだろうか。


そんなものを推し量れるほど今の僕には余裕などはないのだけど。


そして、そこで全てが限界だったのだろう。僕の意識は強制的にブラックアウトした。


~ * * * * ~


「あー、ちょっとちょっと」


「だ、誰だ?」


「私よ、私。あ、記憶ないんだっけ? まぁいいや、色々と言いたいことがあるけど今は時間がないのよね」


金色の長髪を靡かせる彼女は綺麗な蒼い瞳で僕を見据える。


「うん、まぁ、とにかく。私の鍵を探しなさい? そしたら元の世界へ帰れるかも?」


「もとの、せかい?」


言っている意味が理解できない。というかこれは何なのだろう。


「あんまり気にすることないわよ。夢みたいなもんよ。まぁ、こんなことも出来ちゃう天才美少女のアリスちゃんの才能に恐れおののくがいいわ?」


「あ、りす?」


「そ。アリスよ。っと、そろそろ時間ね。とにかく鍵よ!」


「わ、わかった」


よく分からない空間でよく分からない会話を繰り広げ、僕の意識は覚醒へとうながされていくのだった。


~ * * * * ~


目を覚ますと目の前に変わらず銃を構える赤ずきんの姿があった。


赤ずきんを見るだけで一気に動悸が激しくなる。


呼吸も荒くなり、上手く息が吸えない。


そんな状態の僕をじぃっと見つめる透き通るように碧り(みどり)の双眸。


まるで大きな森のような安心感のある綺麗な眼差しを見ていると、なんとなく、心が落ち着いてきた。


しっかりと呼吸ができるようになってきた、気がする。


未だに顔はぐしゃぐしゃのままだが、それでも、少しは取り乱した心が穏やかさを取り戻した。


「ん」


そんな僕の様子を見て、目の前の少女はなにか納得したように頷いて、銃を下ろした。


そして、横たわる物言わぬ身体となったもう一人の少女を一瞥し、はぁ、とため息をついた。


「あ、あの……」


やっとこさ僕の口から出たのはそんな声だった。


「何?」


無表情、というか、一応、表情はあるのだろうが、かなり薄目の感情表現を携えた、彼女は持っていた猟銃を空へと投げながら返事をした。


猟銃は何も無い空間に放り出されたかと思ったら、いきなりどこかへと消えた。


どういう原理なのかは一切分からなかった。


「き、みは?」


「私? ……ん、フィオナ。フィオナ・リコリス」


僕に手を差し出しながら、フィオナはふんす、と擬音が聞こえそうなドヤ顔で言った。


いや、なぜドヤ顔なんだ……


そんなことを思いながら彼女の手を取ろうとして、手が色んなものでぐしゃぐしゃになってることを思い出した。


それに気づいたフィオナが懐から水筒のようなものを取りだした。


「手、洗う?」


「あ、えと、うん」


こてん、と首を傾げる彼女はちょっと可愛いと思ってしまった。


相変わらず、表情は乏しいけど。


とぽとぽと水筒から水を出してもらい、手の汚れを落とす。


あ、ちなみに僕は今、ずっと地べたで座っている。


腰が抜けて立てないのである、恥ずかしいことに。


あの状態から普通に立てる訳もなく、それを察したフィオナが手を差し伸べてくれたということである。


思っていた以上に状況判断が早く、理解力もある。


彼女の歳がもっと上だったら、僕は惚れていたかもしれない……いや、まぁ、嘘だけど。


「はい」


フィオナは水筒をしまい、ハンカチを差し出してくる。


マジでできる子だな……メイドとかに向いてそうだ。


手を拭き終わるのを見計らって、ずっと差し出された手を握り、フィオナに立たせてもらう。


フィオナは最初に見た赤ずきんと比べて更に小さく、10歳程度の体躯に見えたが、問題なく僕を立たせることに成功する。


キラリと、彼女のストレートの茶髪が太陽に反射して光る。


「で、貴方は……フミヒメテルミ?で、いいの?」


僕が無事に立ち上がってフィオナがそう聞いてきた。


これはどう答えるべきか……


「?」


悩んでいる僕を見てなんでだろうみたいな顔をしていたフィオナだったが、数秒して「あぁ」みたいな顔をした。


「大丈夫、私は自殺しない」


「……そう、なの、か?」


「彼女はちょっと特殊だった。私は別に貴方に対して特に恨みはない」


「……えっと、その。 僕が、文姫、照未です」


「そ。 んと、村長が呼んでるから、来て」


彼女は特に気にする様子もなく、僕の手を引いて歩き始めた。


まだ行くとは言ってないんだけどなぁ……と思いながら、他に選択肢もないのでフィオナに手を引かれるままゆっくりと歩く。


その場を離れる時、ちらりともう一人の赤ずきんの死体へと視線を向ける。


名も知らない赤ずきん。


彼女は僕をどう思っていたのだろうか。


彼女の真意はなんだったのか……


それに関しては全く分からないまま、そこを後にするのだった。


~  * * * * ~


しばらく、フィオナに手を引かれて歩いたが、まぁ、なんと、景色はぜんぜん変わらない。


鬱蒼とした森の中をただひたすらに歩いているだけなので、そりゃ、景色が一変するなんてことはあんまりないんだけど、こうも木に囲まれていると開けた場所と比べたら更に変化に乏しくなってしまうというか。


また、フィオナは全然喋ってくれないので、こう……なんというか、端的に言ってしまえば暇であった。


もう既に15分ほど歩いているが、目的地にはどうもまだ着かないらしい。


「フィオナ、後どのくらいかかるんだ?」


「もう少し」


そんなやり取りを何度かしたが、一向に辿り着く気配がなかった。


「ん。着いた」


そんな言葉をフィオナが僕へと向けたのはそれからさらに10分ほど歩いた後だった。


バリケードのような、柵のようなもので囲まれた村、と言うか、そういう場所がそこにはあった。


「ここは赤ずきんの村。赤ずきんしか住んでない」


村の入口、というか、門のようなものの前に立っているの人も赤いずきんを被っていた。


はっきり言ってしまえば異質だった。


何がどう転べば、赤ずきんのみで村が形成される自体になってしまうのか。


考えてもその答えは出そうになかった。


フィオナが門番へと説明をしてくると言って離れたため、僕は一人でボーッと村の外観を眺めていた。


建物の材料はほぼ木材。大きさのまちまちな建物がまばらに建っているのは正しく村っぽいというか。


村の中にいるのは見える範囲の話だが、赤いずきんを被った女性のみ。


男性の姿は見当たらなかった。


男性が、一人も見当たらない。ある意味でそれも異質な光景であった。


どういう理由なのかは理解できなかったし、それを今確かめる術はない。


「……ん。いいよ」


そんなことを考えていると、フィオナが戻ってきて僕の手を引いた。


色んな疑問は渦巻いているが、まずは僕に会いたがっている村長という人と会う、きっとなにか進展はするはずだ。


僕はそんなことを思いながら、赤ずきんの村へと入っていくのだった。

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