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ツギハギフェアリーテイル  作者: 渡口七海
第0章 赤ずきんのテイリア編
2/7

その1「」

本編です! 魔女の話どこいったと思ったそこのあなた! あんまり気にしないでください!

御伽噺は好きだろうか。僕は大好きだ。愛していると言っても過言ではない。


御伽噺って完成されていて、美しいと思う。別に、その作品が、喜劇だろうが悲劇だろうが、関係なくて……黄金比というか、なんというか。


とにかく、御伽噺は美しいのだ、僕はそう思っている。


いや、こんな力説しようとしてるけど美しいから好きかって言われたら違うんだけどな……


なんで好きか、そう言われると割と難しい気もする。


好きな物の理由を説明するって、割と口頭だと難しいもんでもある。


好きなもんは好き、それ以上の理由が必要なのか……?


まぁ、まず、こんな話をし始めたのお前だろって言われたらそうだし、それなのに理由説明できないのか、と言われたら確かに、それはおかしい気もする。


だとしても、やっぱり僕には説明は出来ないのかもしれない。


気がついたら好きだった、理由もなく、あ、好きだなって思っていたのだから、それに理由を付せと言われても到底無理な話だ。


だから、まぁ、無理矢理に理由を説明するなら好きだから好き、という付き合いたてのカップルみたいな理由になってしまう。


……いや、別にこんな話をしたくて語ってる訳では無いのだ。


そりゃ、僕が……御伽噺、ひいては童話が好きなのは事実なんだけど、別にそんなことは割とどうでもいいことなのだ。


確かに、これから僕が語る物語は「御伽噺」ととても密接な関係がある、それは間違いじゃない。


だけど、それは好き嫌いに関係はあんまり無くて、しかも悲しいかな、僕は半分巻き込まれただけの人間なんだ。


いや、まぁ、最終的に何もかもを総合して述べるなら、確かに僕が大元の原因だったと言えばそれはそうなんだけど……


とにかく、今から始まる物語は、僕が関わる前から既に始まっていたし、同時に終わっていた。


終わりのない閉塞の中でずっとカラカラと回り続ける糸車のようにこの世界は繰り返していたんだ。


終わりのない、終わりを。


僕はその物語たちを正しい形で終わらせなければいけない。


……いや、もう既に正しい形なんてないのかもしれない。 それでも……始めたのは僕なんだ、だから……僕が終わらせないといけない。


本当に……御伽噺はいつだって読み手を蚊帳の外にして、進んでいく。


だからまぁ、とりあえずは、幕を開けようと思う。


さぁ、はじまり……はじまり。


~ * * * * ~


「……ん?」


目が覚めると何故か、草むらの上に寝ていた。本当に理由は分からないが、何故か草むらの上だ。


昨日寝た時の状況を思い出してみよう。ええっと……


普通にベッドで寝た覚えしかない、それ以外の記憶が無い。


実は僕が重度の夢遊病患者で、毎日寝る度に外を出歩いてはベッドに戻っていたという事実があったのなら、一応、納得は出来なくはないんだけど、今のところ、そういう話は一度として聞いたことは無い。


全く目撃情報等は無いだろうから、そういうことだろう。


……いやいや、どういう事なんだ。 そういうことって。


まぁ、いいや。とりあえず現状を分析しよう。


ここは草原。周りを見廻す限りは森が見える程度で、他には何も無い。


うーん、僕の住んでる場所の近くにこんな所あったっけ。 これなら寝てる間に何かしらの力が働いてワープしてきたと言われた方が納得できるぞ。


しばらく考え込んでみたけど、何も答えは出なさそうだ。というか、周りの景色にヒントが無さすぎる……街のひとつでも見えれば話は別なのに。


「あれ?」


ふと、森を眺めていると、人のようなものが通ったように見えた。


ちょっと遠目だったので、人じゃないのかもしれないけど、何かしらの進展はあるかもしれない。


そう思い、僕は森の中へと踏み入れて行った。


~ * * * * ~


がさがさと草をかき分けて進む。 森は誰かに手入れされている様子はなく、鬱蒼と茂る草で僕の行く手を阻んできた。


背丈ほどとは言わないが、それでも腰の近くまで伸びた草。パッと見ではなんの草かはよく分からないし、僕は植物の知識には別に明るい方ではないので、種類の判別は諦めた。


けもの道すらない、そんな森をしばらく進むと少し遠くに開けた場所が見えた。そして、そこに赤いずきんを被った人がしゃがみこんでいるのが何となく見える。何をしているかまではさすがに分からないが、とにかく人がいるみたいだった。


あぁ、あの時見たのはやっぱり人だったんだ。そう思って、歩みを進めると、草をかき分ける音が聞こえたのか、赤ずきん(仮名)はすくっと立ち上がり、こちらを見すえた。


じぃ、と射抜くような視線が僕の方へと向いている。顔がしっかり見えるような距離では無い……だが、明らかに僕へ敵意を向けているような、そんな殺気めいたものを少しだけ感じた。


それでも、僕は進み続け、ついに赤ずきんの所へとたどり着いた。


「……」


「……」


二人の間に沈黙が流れる。 こうして近づいてみてわかったが、この赤ずきんは10歳を少し超えたくらいの年齢のように見えた。


パッと見で、何となく中学生くらいの年齢かな、と感じる程度の体躯。ずきんの隙間から覗く髪はウェーブのかかった綺麗なブロンド。どう見ても美少女と評さざるおえないようなそんな見た目をした彼女は僕を緑がかった双眸でじろじろと睨むような、そして品定めをするかのような顔で見ている。


まぁ、見知らぬ男が近づいてきたのだ、警戒して当然であるし、その対応に対して、僕は特に嫌悪感を抱くことなく僕を射抜く視線を受け止めた。


「あなたは、誰?」


先に口を開いたのは赤ずきんだった。体躯に似合った高めの声。耳障りのいいソプラノボイスという感じだ。


僕はその問いに暫し考えをめぐらせた。なんと答えるべきか……


まずは、普通に自己紹介をする、それが解答としては在り来りで、スマートな気もする。


続いて、よくある返しとしての聞いた方から名乗るべき、という返し。まぁ、しかし、これは警戒心の強そうな彼女には悪手な気がするのでパスだ。


あとはだんまりを決め込む……選択肢としては悪くない、が、状況はおそらく好転しないだろう。


という訳で、答えは……


「……僕の名前は照未。文姫照未だ」


沈黙が流れる。 ひゅぅと、風の音が通り過ぎていく。


あれ? 何か、間違ったか?


「え、えっと……」


「黙って」


どうしたのかと聞こう思ったら食い気味に遮られてしまった。


しばらく沈黙が続いたが、納得したかのように赤ずきんが頷くと笑顔を携えてこちらへと歩み寄ってきた。


「あなたがフミヒメテルミ、なのね?」


「え? あ、うん、そう、だけど」


「そっか、そっか……そっかぁ……ふ、ふふふ」


なにか様子がおかしい。ニコニコとしているがこの子は全く笑っていない。目が完全に据わっているのだ。


何かを覚悟したかのような、それでいて狂気に染っている瞳。


彼女は僕に手が届くくらいの距離まで来て貼り付けた笑顔のまま、止まった。


また沈黙が流れるが、すぐに耐えきれなくなったかのように赤ずきんが肩を震わせ始め、大声で笑い始めた。


アハハハハ、と妙に甲高い声で笑い続ける彼女を、僕は呆然と見ているしか出来なかった。


それが、間違いだった。おかしな行動をし始めた時点で、直ぐに逃げればよかったのに。


そもそも、この子を見つけた時点で近づかなければ……名乗りさえしなければ……


これから目の前で起こる惨劇を見なくて済んだのに。


そんなことを言っても仕方ない。僕はこの時、逃げるという選択肢や、この場を立ち去るという選択肢は全くもちあわせていなかったのだから。


ぴたりと笑い声が止まり、彼女は一言こう言った。


「さようなら」


彼女の顔から表情が全くなくなり、無、としか言いようのない顔になった。


そして……パンッと、乾いた音が響いた。



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