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第4話 少女の決意

 

「ふにゅっ、マジ?」


 王都に迫るモンスターの大群を一掃した、天才魔法使い改め勇者フィルライゼ様!


 自分をそう呼ぶ歓喜の声に照れながら、魔王軍の撃退を王様に報告。


 お褒めの言葉を頂いた後、まずは住処を失った人たちに支援を……そう提案しようと思っていたフィルライゼが見たのは、頬を紅潮させながら積極攻勢を主張する貴族さんズの姿だった。


「見ましたか侯爵! フィルライゼ殿の極大閃光魔法!

 あれこそ女神が地上に遣わしたもうた人類の希望!!」


「もちろんよ! ワシの老眼でもしっかり見えたわい!

 フィルライゼ殿の力があれば、魔王軍など恐れるに足らぬわっ!」


「えーっと」


「狙うは魔王の首一つ!」


「「「フィルライゼ殿!!」」」


(うひ~~っ!?)


 明日にもイストピアが滅ぶかもしれない……その重圧からひとまず解放されたせいか、王国政治をつかさどる貴族さんたちがイケイケモードになっちゃってる。


「そ、それより王国経済の立て直しをした方がいいんじゃないかなー」


 なにしろ、何とか王都は陥落せずに済んだとはいえ、周辺の農村地帯は農地ごと壊滅……イストピアが保有していた船もほとんどがモンスターに沈められた。

 つまり、明日のごはんにも事欠く状況なわけで。


 ぐぅ……


 今朝から何も食べていないお腹が抗議の旋律を奏でる。


 一足飛びに魔王討伐に向かうなど、正気の沙汰とは思えなかった。

 なにより……。


(さっきの魔法は正直チートだしっ!)


 自分の潜在能力が解放され、レベルがかなり上昇した実感はある。

 だけど、モンスターの大群を吹き飛ばしたあの一撃は。

 救世主である彼の力を借りた物。


 滅びに向かっていた運命の横っ面を蹴り飛ばした、ある意味反則技に近いものだった。


「まあまあ、皆が興奮するのも分かるが、フィルライゼ殿もお疲れだろう。

 我が民に対する炊き出しもせねばならぬのだ。

 その議論は明日以降にしよう」


「王……」


(ほっ)


 王様の一言により、ひとまず冷静さを取り戻す貴族たち。


「そ、それではあたしはこれで失礼いたしまぁ~す」


 これ以上絡まれてはかなわない。

 そう考えたフィルライゼはそそくさと王の間を辞するのだった。


 ***  ***


 コツコツコツ……


「はぁ~~~~っ、あたしはただ困っている人を助けたいだけなのに」


 薄暗い通路をトボトボと歩く。


 ”人類の希望”ともなれば、どうしてもお偉方と会う機会も増えるし、国全体の事を考える必要がある。

 もともと、あまり頭が良くない彼女には重たい仕事だった。


「ふぅ」


 ふと思い出すのは”出会い”の日。


 2年ほど前……突如モンスターが狂暴化し、各地で被害が出始めた頃。

 ド田舎だが平和な村で生まれ、のほほんと生活していたフィルライゼの人生を一変させる出来事が起こった。


 予想された魔王軍の侵攻に備え、イストピア中に号令された”勇者探し”。

 フィルライゼの村にも王都の使者が訪れ、戦いの才能を持つ者がいないかテストを始めた。


 そこで、希少な魔法使いの才を示したのがフィルライゼだったのだ。

 莫大な支度金が村に支払われることになり、みんなの歓喜の声に見送られて使者と共に村を発ったフィルライゼ。

 退屈な村では体験することが出来ない、刺激的な毎日が送れるぞと胸を膨らましていた……のだが。


 村を発ってすぐ、恐ろしいモンスターに襲われる。


 ヘルハウンド。


 イストピアに伝わる神話の中にだけ記された地獄の使者。


 漆黒の双頭獣の(あぎと)から放たれた爆炎は、故郷の村を一瞬で焼き尽くす。

 呆然と立ち尽くすフィルライゼの目の前で、もう一方の頭が使者兼護衛の戦士さんを一口で飲み込んでしまう。

 戦士さんの返り血で真っ赤に染まったフィルライゼは、信じられない思いで自分の人生の終焉を見つめていた。


 ドンッ!


 絶望に目を閉じた瞬間、ひとりの人間族の男の子が現れ、巨大なグレートソードの一撃でヘルハウンドを両断した。


「だ、大丈夫? 怪我してないっ?」


 その豪快な戦い方とは裏腹に、呆然とする自分を心配そうにみつめる優しい瞳。

 どこか気弱そうな黒髪の救世主の姿は、2年が経った今でもはっきりと思いだせる。


「……シュン」


 愛しい救世主の名を、小さく唇に乗せる。


 目の前で起こった惨劇に、心を閉ざした自分を彼は時間をかけて癒してくれた。

 半年後、ようやく復活した自分を鍛えてくれたのも彼。


 すさまじい力を持つ彼と一緒なら、イストピアを闇に包もうとしている魔王軍を倒すことが出来る。

 そう確信していたのだけれど。


『ごめん……もう、時間みたいだ』


 彼は、悲しそうな笑顔と共にこの世界から消えてしまった。

 魔法を勉強した今ならわかる。

 恐らく、彼はこの世界の人間ではない。

 女神様がほかの世界から遣わした転生者。


 フィルライゼは優しい彼にもう一度会いたい一心で、魔法の修行を頑張った。

 そしてほんのひと月ほど前、使い魔を駆使してようやくわずかな手掛かりを掴んだのだ。


 血のにじむ思いをして開発した新型魔法で、彼の世界にちょっとだけコンタクトする事には成功したのだけれど。


(あうう……まさか綺麗さっぱり忘れられてるとわっ!)


 再会した日の事を思い出すと、思わず泣いちゃいそうになる。

 魔法の完成度にまだ問題があり、美しく成長した少女のびぼーを完全に再現する事は出来なかったけれど。


 色気たっぷり (当人比)に名乗った時の彼の反応は。


『えっええええええええ、えっと……どこかで会ったことあったっけ?』


 まるっきり素の反応に、思いっきりずっこけてしまった。


「は、早くあたしの事を思い出してもらわなきゃっ!」


 イストピアの危機も大変だけど、少女の乙女心もボロボロである。


「よしっ!」


 王宮内に与えられた私室に戻ると、鏡に向かい入念におめかしをする。


「んしょ、んしょ」


 スノゥフェアリィと呼ばれる特別なシルクで編まれたとっておきの下着を身に着ける。

 感度を上げた具象化魔法を最大限に生かすためだ。


「や、柔らかっ……これでっ!!」


 気合を入れたフィルライゼは、彼女にしか使うことのできない世界を繋ぐ秘術を発動させるのだった。

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