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聖職者の失敗を招く悪魔ティティヴィラスは聖職者を応援したい

作者: ぶたはこ

「おっと…申し訳ありません。この…の部分を読み間違えをしてしまいましたね。まったくティティヴィラスには困ったものです」


(そうそう、読み間違いしやすいよな?そこんところ)


「しまった!書き間違いをしてしまった…くそっ、ティティヴィラスめ」


(羊皮紙は高いからねぇ、俺がやった事にすりゃ弁償しなくて済むぜ)


「いけません神父さま…」

「私も君も…ティティヴィラスによってそそのかされているだけだ。さぁ…私に身を委ねるのだ…」


(…あーはいはい。俺のせい俺のせい)


「…じゃねーわマジで。なんなんだよこの国の聖職者って奴は、失敗は何でもかんでも俺のせいにしやがってよ。だいたい色欲については俺じゃなくてアスモデウス様の管轄じゃねぇの?俺みたいな下っ端の仕事にしてんじゃねぇよ変態神父」


 俺の名前はティティヴィラス。今日も今日とて国中を飛び回り、聖職者を相手に沢山の悪事を働いている。しかしそれは俺が進んで悪戯をしているのではなく、教会の奴らが「聖書の誤読や執筆の間違いは、ティティビラスという悪魔のせいである」なんて言い出したのがきっかけだ。


「この国の教会の連中は何か悪い事があるとすぐに悪魔の仕業って言いだし始める。そのせいで新しい悪魔が何体生まれたと思ってるんだ?その気になれば本当に人間を滅ぼしかねない悪魔を自分達で増やし続けるとか…馬鹿過ぎるだろ」


 正直悪魔が生まれるメカニズムを完全に理解している訳では無い。しかし、少なくとも俺という悪魔はそう言った聖職者の責任転嫁の末に生まれたという事を自覚しているし、悪魔として何をすべきなのかというのも分かっている。


「突然『お前は聖職者の聖書の誤読や執筆の間違いを起こす悪魔だ。だからその役割を全うするのだ」なんて言われてもどうしろってんだよ。つーか俺が何かやらなくても聖職者は勝手に失敗して俺のせいにするし、俺がやる事なんて国中の聖職者の失敗したって声を聴かされるだけじゃないか」


 こうして悪魔として生まれてどれくらい経ったのか覚えて無いけど…本当に、なんで俺という悪魔は生まれてしまったんだろうか?人に迷惑を掛けるために生まれて、人の失敗のせいにされ続ける毎日。俺を生んだのが聖職者だっていうのなら、間接的に神様が俺を生んだって事だろう。恨むぜ神様…悪魔だけど。


「あっ…」

「また間違えたのですか?」

「も、申し訳ありません…」

「どうやら貴女は特にティティビラスに気に入られているようですね?部屋に戻り聖書を読んでいなさい。何度も聖書を読み込めば、次第にティティビラスも離れていくでしょう」

「…はい」


 ふと、いつもとは毛色が違う様子が頭に浮かぶ。


「んー?これちょっと前にもあったっけか?」


 その普通とは違う感じは、最近になって頻繁に頭に浮かび始めた。いつもの聖書の誤読ではあるのだが、なんとなく勝手が違うので覚えてしまっていたのだ。


「多分…この教会だよな?」


 教会を覗くと、聖堂の中では一人のシスターと大勢の子供が聖書を読んでいる。そんな中、一人の子供が列を外れてトボトボと聖堂の外に出ていくのが見て取れた。


「…ふむ?」


 その子供の後を追うと、子供は自室だと思われる部屋に戻っていった。そして机にむかって椅子に座ると、聖書を開いて音読をし始める。


「んー…慣れてない感じがするな」


 あんくらいの歳の子供でも、聖職者の見習いならもっとスラスラ読めていいハズなんだが。この子供はどうにも読み慣れているという感じがしない。現に聖書を見ながらだというのに、俺が何もしなくてもつっかかったり誤読を繰り返している。


「ぐすっ…おかぁさん…」


(ぐずって泣き出してるし…どれ、ちょっと悪魔らしく頭の中を覗かせて貰うか)


 なんとなく気になったのでその子の記憶を探ってみると、この子の置かれた境遇というものが分かってきた。どうやら父親が居ない母子家庭で育っていたのだが、最近母親も亡くしてこの教会に引き取られたという経緯らしい。いままでの生活とは全く違う教会の生活、他の子供よりも遅れた教会のお勤め。大分参ってるみたいだな。


「ティティビラス…」

「おっ?」


 どうやら俺の事は知っているらしい、というかさっき怒られた時に言われてたっけ?まぁまぁ俺のせいにしておけばいい、そうすりゃ多少のストレス解消になるってものだ。


「ううん…ダメ。人のせいにばっかりしてたら…ずっとこのままだもん。お母さんが…言ってたもん」


 その子はそう言うと、本当に俺のせいにしなかった。涙を拭いて聖書を開きなおし、またつたない声で音読を始めている。


「…マジか?」


 いや、確かに最近まで教会とは離れて暮らしていたのだからそういう考えを持っているのかもしれない。しかしこんな状況で…他の誰にも責任転嫁しないで、自分を律する事が出来る子供が居るとは思わなかった。


「あっ…また同じところ…」


 子供の目にまた涙が浮かぶ。その涙はきっと、何度も間違ってしまう自分のふがいなさを恥じるもので…。


「悪い。俺が邪魔した」

「えっ!?」


 突然背後から声を掛けられて、子供は驚いて振り返る。


「あー…さっきから邪魔して悪いな。俺は悪魔ティティビラス。お前が聖書を読み間違えてたのは俺のせいだ」

「…本当に?悪魔?」


 子供の目に明らかに怯えが見える。そりゃそうだ、急に悪魔が現れたら怖いに決まってるだろう。なんで俺は姿を現しちまったんだ。


「俺のやる事は知ってるだろう?お前が何度も聖書を間違うのは俺のせいなのさ。えーっと…だから、その…」

「………」


 何を言っていいか分からなくなってしどろもどろの俺を、子供は若干不思議そうな顔をして見つめてきた。大声を出されなかったのは助かったけど、本当にこれからどうしよう?


「だから!気にするな!いくら失敗しても俺のせいだから!」

「………」


 言うに事欠いて俺は子供相手に何を言ってるんだろう?いや!これは俺が俺であるための悪行だ聖職者の聖書の誤読や執筆の間違いは…全部俺のせいなんだから!


「…ううん。間違っちゃうのはわたしがまだ聖書を覚えられて無いからだよ…ティティビラスのせいなんかじゃないよ?」

「いやいやいや!俺のせいで間違いないんだって。俺はそういう悪魔なんだよ」

「でも…」


 うーむ…中々頑固なお子様だ。


「じゃあもう一回読んで見ろって。しっかり文字を見て、心を落ち着かせながら読むんだぞ」

「………」


 なぜか俺の言う事を素直に聞いて、子供は聖書の音読を始めた。途中までは読めていたのだが、やはり途中で詰まったり間違えたりをしてしまう。


「ほらみろ!今の間違いは俺のせいだ!いいか、俺はこうして聖職者の邪魔をする悪魔なんだ。悔しかったら間違いが無くなるまで頑張るんだな。それまでは目いっぱいお前の邪魔をしてやる。いいか、お前の失敗は、俺のせいなんだからな」


 まくしたてるように言い聞かせてやると、子供は俺の事をキョトンとした様子でじっと見つめていた。というか…俺の姿ってどう見えてるんだろう?あんまり怖くなかったりするのかな?悪魔なのに。


「…今は見えてるから?見えなくなったら、わたしのせい?」


 うわっ。面倒くさっ!なんでそこまで自分を責めるのこの子供!?いいから俺のせいにしとけばいいのに。


「じゃあ…見てて?わたしが間違えなくなるまで。その間に間違えちゃった所は、ティティビラスのせいにするから」

「お?おーう…見ててやるよ。いいか、ゆっくり…丁寧にだぞ?そうすれば中々邪魔をするのは難しいからな」

「うん」


 そうして俺は、他の子供が戻ってくるまで聖書の音読に付き合った。なんでか分からないが、この子の音読は最初に聞いた時に比べてかなりスムーズになっている気がする。まだまだ失敗する所はあるけれど、この様子ならちゃんと読めるようになるのもすぐかもしれない。


「おっと…そろそろ帰らないとな」

「…えっ!?」

「あー…だからといって気を抜くなよ?もし失敗しちまった時は、それは俺が邪魔をしてるって事なんだからな?」

「…うん」

「よし!」


 子供が頷いたのを確認して俺は窓から飛び立って姿を消した。そのまま後ろを振り返ってみると、子供が俺に向かって手を振っているのが見える。


「あー…何やってたんだろ、俺」


 仕事をしたのには間違いないんだけど…なんなんだろうこの気持ち?


「…また、邪魔しに来てやるか」


 俺の中はティティビラス、聖職者の聖書の誤読や執筆の間違いを起こす悪魔をやっている。

多分自分には怠惰の悪魔が憑いている

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