第95話 仇討ち
私たちはエルドレッド様の率いるボーダーブルク救援部隊の一員として、勝手知ったるボーダーブルク南砦の病院にやってきた。
まだ戦いは始まったばかりで、今のところ入院患者さんは誰もいない。
できることなら、攻めてきている人族を含めた誰もが怪我をせず、戦争が終わってほしいものだ。
それとコーデリア峠の砦にはブライアン将軍が入ったらしい。
おじいちゃんならば、戦わずして争いを収められたのではないか。
そう言っていた人で、おじいちゃんのお墓参りにも来てくれた人だ。
ブライアン将軍には傷ついてほしくないし、本当なら戦って欲しくない。
もちろんそれが難しいのは分かっている。
私はままならない状況に思わずため息をついたのだった。
◆◇◆
コーデリア峠では将司を先頭に戦う人族が魔族たちを圧倒していた。
「殺さなきゃ……殺さなきゃ……」
ぶつぶつとそんなことを呟きながら将司は迫りくる魔族の兵士たちを次々と切り捨てていく。
遠距離から放たれる魔法は聖剣エクスニヒルによってかき消され、矢はバリアのような膜によって弾かれる。そうして何もさせずに近づいたところをマックスによって授けられた剣技で斬り伏せているのだ。
その戦いぶりは人族からすればまさに勇者と呼ぶにふさわしいものだった。
「魔族……殺す……」
そこへ一番の実力者であるブライアン将軍がやってきた。そして将司の姿を見て眉をひそめる。
「お前はたしか……」
「っ! お前は! ハロルドさんのっ!」
将司は憎悪の炎を燃やし、ブライアン将軍を睨みつけた。
「……そうか。命を救われ、真実を知ってもなお戦場に立つか」
「何が真実だ! 都合のいい嘘ばかりを教えて! お前たち魔族さえいなければっ!」
「……残念だ。人族というのはどうやら話しても分からぬ愚かな種族のようだ」
「何を!」
ブライアン将軍は剣を抜いた。
「俺は! 魔族をっ!」
将司はそう叫ぶと一気に距離を詰めると、すさまじい連撃を放った。
ブライアン将軍はそれをことごとく受け流すものの、前回とは違って反撃をすることはできていない。
「まさか、これほど腕を上げるとは……」
「俺は! お前だけはっ! よくもハロルドさんをーっ!」
そう叫んだ瞬間、将司の全身から魔力が迸る。
「ぬっ!?」
そのすさまじい魔力に思わずブライアン将軍は一歩下がり、守りを固めた。
「うおおおおおっ!」
将司はその魔力を全身の隅々まで行き渡らせ、一気に身体強化を発動する。
次の瞬間、ブライアン将軍が吹き飛ばされていた。
目にも止まらぬ速さで繰り出された将司の剣を、ブライアン将軍もまたとてつもない反応でなんとか受けることに成功したのだ。しかし身体強化の発動は間に合わず、その衝撃をまともに受けてしまったのだ。
「ぐっ!」
砦の壁を次々と破壊し、コーデリア峠の岩肌に叩きつけられたところでブライアン将軍はようやく止まった。
「ハロルドさんの! 仇ィィィィィィ!」
まるで弾丸のような速さで将司が突っ込んでくるが、ブライアン将軍はそれをひらりと躱す。
将司はそのまま岩肌に突っ込み、岩が粉々に砕け散った。土煙が舞い上がる中、すぐに将司はブライアン将軍に向かってくる。
それに合わせるようにブライアン将軍は火球を撃って牽制するが、将司の聖剣エクスニヒルが輝きを放ち、火球は跡形もなく消滅した。
「厄介な……」
ブライアン将軍は顔をしかめ、そう小さく呟いた。
「うおおおおおっ!」
「ええい! 抜かせはせん!」
ブライアン将軍も一気に魔力を高め、将司を迎え撃つ。そして二人が交錯すると、すさまじい爆発が発生した。
二人の魔力を込めた剣同士がぶつかり合い、放出された魔力が行き場を失って爆発となって放出されたのだ。
その砦の三分の一ほどが完全に吹き飛んでおり、上空にはきのこ雲まで発生している。
「ぐ、く……勇者から離れろ! 巻きこまれるぞ!」
マックスが叫び、人族の兵士たちは戦いを止めて後退していく。一方の魔族たちもそれを追撃することはせず、負傷兵の回収を始めた。
しかしそんな混乱に乗じ、白い鎧を着た一団がひっそりと魔族領へと侵入していったのだった。
◆◇◆
それから数時間後、将司とブライアン将軍の戦いはまだ続いていた。
砦はもはや完全に崩壊しており、峠の地形そのもの度重なる大爆発によって変わってしまっている。
二人の戦いは互角だったが、お互いに相手の長所を潰す様な戦い方に移行している。
まず、ブライアン将軍はなるべく距離を詰め、接近戦を挑み続けている。
というのも、将司の持つ聖剣エクスニヒルの力によってブライアン将軍の魔法による攻撃が無効化されていることによって互角の戦いとなっているのだ。
そのため将司は距離を取ってから魔法で牽制し、隙ができるのを待つという戦い方になったのだ。
この戦いは一見互角に見えるが、ブライアン将軍のほうがリスクが大きい。
少しずつではあるが魔法を被弾してしまうのだ。
そして、その瞬間がついに訪れた。
「はぁっはぁっ」
ブライアン将軍が肩で大きく息をした瞬間、将司の放った無数の岩の矢が襲い掛かる。
ブライアン将軍はすぐさま剣と魔法でそれを迎撃するが、なんと一発が左の太ももに突き刺さってしまったのだ!
「今だ! ハロルドさんの仇ィィィィィィ!」
将司は一気に魔力を全開にして身体強化を発動し、一気に距離を詰めるとブライアン将軍の首を目掛けて目にも止まらぬ速さの一撃を繰り出した。
対するブライアン将軍もすぐさま身体強化を発動し、カウンターの一撃を放った。
そして……。
ドサリ。
コーデリア峠の地面にブライアン将軍の首が静かに転がったのだった。
「あ、はは。はははは。あはははははははははは。ハロルドさん……ハロルドさん! はははははははははは!」
狂ったように笑いながら涙を流す将司の腹部からは血がダラダラと流れていたのだった。




