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第9話 前線崩壊

2022/12/05 誤字を修正しました

「油はどうした!」

「もう油がありません!」

「くそっ! 撃て! とにかく火を放て! 絶対にゾンビどもを町に入れるな!」


 町を囲む堀はすでにゾンビが燃えて残った灰であらかた埋まってしまった。そのうえ街壁の前にも(うずたか)くに灰が積み重なって山のようになりつつある。


「ヘクター! このままでは街壁を突破されるぞ!」

「分かっております! ですがこの灰をどうにかしなければ!」

「ならば風で吹き飛ばしたらどうか?」

「なるほど。試してみましょう。おい!」

「はい!」


 衛兵の一人が突風を吹かせる。しかしそれは山の表面を削っただけで終わってしまい、すぐさまやってきた押し寄せてきたゾンビたちで元の木阿弥に帰してしまった。


「だめか……」


 ヘクターがそう呟いた瞬間だった。


 ぎゃっ、という悲鳴が上がり一人の衛兵が飛び上がる。


 その悲鳴に仲間たちが振り向くと、なんと飛び上がった衛兵の足首にネズミのゾンビが()みついていた!


「あっ!」

「ネズミのゾンビか!」

「くそ! この野郎!」


 噛まれた衛兵はネズミのゾンビに剣を突き刺して足首から引き()がし、すぐさま火球をぶつけて燃やす。


「噛まれたのか!?」

「すみません! 噛まれました!」

「噛まれた奴は下がれ! 早く手当を受けろ!」

「はい。すみません!」

「いいから早く行け!」


 こうして噛まれた衛兵は足を引きずりながら街壁を降りていく。


「油断するな! 明かりを絶やすな! 小さいやつは上がってきてるぞ! 絶対にここを通すな!」


 ヘクターがそう指示を飛ばすが、時すでに遅かった。街壁の上のあちこちから似たような悲鳴が聞こえ始める。


「持ち場を離れるな! ここで退けば終わりだぞ! 火だ! とにかく火を放て!」


 ヘクターは必死にそう指示を飛ばしながらも火球を飛ばしてゾンビを燃やしていく。


 そうこうしているうちに、東の空が徐々に白んできた。


 これで戦いやすくなる。


 誰もがそう思った瞬間だった。


 ドゴォン、というけたたましい音があたりに鳴り響く。


「な、なんだ? 今の音は?」

「大変です! 門が! 正門の扉がゾンビどもの重みに耐えきれず、破壊されました!」

「なんだとっ!?」


◆◇◆


 昨日はあまりよく眠れなかった。町会館に避難したのはいいが、硬い床に布を敷いただけではどうしても眠りが浅くなってしまう。


 そのせいか、まだ早朝だというのにどこか遠くから聞こえてきた大きな物音で目が覚めてしまった。


 いつもならばまだベッドで眠っている時間だというのに……。


 私はちらりと窓から外を見るが、まだ町にゾンビが侵入してきた形跡はない。


 ニール兄さんの話どおりであれば、もう堀は埋まってしまっていてもおかしくない。それなのにまだ町にゾンビの姿がないということは、衛兵さんたちがきっと頑張ってくれているのだろう。


 みんなが無事に帰ってきてくれますように。


 心の中でそう祈った瞬間だった。


「いたっ! あっ! か、噛まれた!」


 町会館の一角からそんな悲鳴が聞こえてきた。


 次の瞬間、そのあたりからパニックが広がっていく。


「え? まさか、さっきのは門が壊れた音……?」


 最悪の事態を想像し、私は慌ててアネットたちを起こす。


「アネット! 起きて! ハワードさん! シンディーさん!」

「ん?」

「どうした?」

「ホリーちゃん?」

「早く起きてください! 誰かが噛まれたって……」

「え?」

「そんな……」

「ニール……ニールは?」

「アネット、落ち着いて。まだわからないから」


 だがそれもむなしく、パニックが起きたあたりで誰かが火の魔法をつかったようだ。じゅっという音がし、すぐに腐肉が燃えた独特の臭いが漂ってくる。


「ゾ、ゾンビだっ!」


 誰かがそう叫び、町会館は一瞬にしてパニック状態となった。


 我先にと出口へと殺到する。


「あ、早く逃げないと!」

「待って!」


 私は雰囲気に呑まれて駆けだそうとしたアネットの手を掴んで止める。


「ちょっと! 早く逃げないと!」

「大丈夫! 私は奇跡を使えるんだから! 大丈夫!」

「あ! そうだった……」


 私が強くそう言うと、アネットは落ち着きを取り戻してくれた。


「おぉぉぉぉぉい! 落ち着け! ここにはホリーちゃんがいるぞ! ホリーちゃんがいればゾンビは浄化できるんだ!」


 ハワードさんが大声で怒鳴り、一部の人はそれを聞いて落ち着きを取り戻してくれた。


 だが出入り口に殺到してしまった人たちにその声は届いていないようだ。


 一ヵ所に人が殺到したために将棋倒しが発生し、完全に身動きが取れなくなってしまっている。


「落ち着け! ホリーちゃんがいるんだぞ! 落ち着け!」


 ハワードさんが大声で怒鳴り、パニックになった人たちを落ち着かせようとしている。


 ええと、こういうときは……そうだ!


 不快な臭いのするほうへと向かった。


 するとそこには左の二の腕から血を流して呆然としている知らない男性と、燃えているネズミのゾンビの姿があった。


 私はすぐさま燃えているゾンビに浄化の奇跡を発動した。


 キラキラした金色の光がゾンビを包み込み、瞬く間に灰となって消滅する。


「大丈夫ですか? 治療しますね」

「え? あ……」


 続いて浄化の奇跡で傷口を浄化し、最後に治癒の奇跡で傷を治療した。


「あ……もしかして、君がホリーちゃん?」

「はい。もう大丈夫ですよ」

「あ、あ、ありがとう」

「それよりもどうしてゾンビが?」

「それが物音で目が覚めて、それで外の空気を吸おうと窓を開けたらいきなり……」


 その人が指さした方向には確かに開け放たれた窓がある。


「ぢー」


 ちょっと甲高いゾンビの呻き声が聞こえ、またしてもネズミのゾンビがひょっこりと顔を出した。


「ひっ!?」


 ゾンビの姿に驚いた男性はそのまま尻もちをついた。


 私は窓に向かって浄化の奇跡を放ち、侵入しようとしてきたゾンビを浄化した。そしてすぐさま窓を閉める。


 これで今のところは大丈夫なはずだ。


 ちらりと出入り口に視線を向けてみる。すると開け放たれていたはずの扉はいつの間にか閉まっていた。


「あれ?」

「ホリーちゃん、大丈夫だったかい?」

「あ、ザックスさん。はい。大丈夫です。あの、あっちってどうなってるんですか?」

「それが、出ていった連中がゾンビに追いかけられて戻ってきたんだ」


 どうやらすでに町の中にまでゾンビに侵入されてしまったらしい。


 ニール兄さんは、ヘクターさんは、それに衛兵さんたちは無事だろうか?


 窓から外を確認すると、ゾンビの群れがこちらに向かってきているのが目に入る。


 ああ、どうしよう。魔族なのでみんな魔法が使えるとはいえ、ここにいる人たちは衛兵さんたちと違って戦いに慣れていない人たちばかりだ。


 ならば私が! いつも衛兵さんたちとゾンビ退治に行っている私がなんとかしなくちゃ!


 でも、衛兵さんもいないのにどうすれば……?

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