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魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結済】  作者: 一色孝太郎


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第88話 サマー・バケーション(中編)

 クロマスをたくさん釣り上げた私たちはニール兄さんの別荘に戻ってきた。捕まえたクロマスは大きな(かめ)に入れて食べるまでの間生かしておく。


「次はどうしようか? 水遊び?」

「んー、サウナ入ろうよ」

「あ、いいね。白樺の枝は?」

「準備してあるよ。サウナも多分大丈夫だから水着に着替えて行っててくれ」

「うん」


 私たちは持参した水着を持ち、離れにあるサウナへと向かう。


「先いいの?」

「ああ」

「ありがとう」


 そう言ってくれた優しいニール兄さんの言葉に甘えて先にいただくことにした。


 私はアネットとお揃いの水着に着替えると、蒸し暑いサウナの中に入る。


 まずは木の椅子に腰かけ、じっと熱さを体に慣らしていく。それからじりじりと温まった体からは汗がにじみ出てくる。


 ちらりとアネットを見るが、アネットは私よりも背がかなり高いのでまだまだ余裕そうだ。


 同じ水着を着ているというのにスタイルの違いがはっきりと分かってしまってちょっと悔しい気持ちになるが、このあたりは人族と魔族という違いがあるので仕方がないのだ。


 この前人族を治療したときだって、人族は男性なのに魔族の女性と変わらないくらいの背の人が多かった。


 そう。だから私が発育が遅れているとかスタイルが悪いとかチビとかそういう話ではない。


 ……ないはずだ。


 ……だよね?


 アネットのスタイル抜群なボディを見ているとどうにもおかしなことを考えてしまう。


 私は吊るされた白樺の枝の束を見て気分を落ち着ける。


 蒸し暑いサウナの中で白樺がかすかに香っていて、それがまたなんともサウナらしい。


「あれ? もうする?」

「え? うん。やろうかな。お願いしていい?」

「いいよー」


 アネットは吊るされた白樺の枝の束を取り、水に浸した。


「いくよ?」

「うん」


 パシン。パシン。パシン。


 アネットは白樺の枝で私の背中を軽く叩き始めた。それから葉っぱが落ちない範囲で徐々に強く叩いていく。


 これはもともと古代の魔除けの儀式だったらしいのだが、血行が促進されて病気に掛かりにくくなるということが言われている。


 他にもお肌がつるつるになると言う人もいるが、そのことを実感したことは自他ともにない。


「交代」

「うん」


 今度は私の番だ。私は新しい白樺の枝を取ると、アネットの背中を軽くたたいていく。


 パシン。パシン。パシン。


 アネットの肌を叩く音がサウナ室に響き渡る。


 私は徐々に強くしていき、ついでに浄化の奇跡、解毒の奇跡を叩くのに合わせてアネットにかける。

 

 ちなみに、こうすることで何かの効果があるわけではない。これは単に気分的なもので、どうせ汗を流すなら一緒に体に溜まっているかもしれない毒素的なものもまとめて綺麗にしてしまおうといった程度だ。


 私がこれを始めたきっかけは、小さいころに強く叩きすぎておじいちゃんに怪我をさせてしまったことだ。その当時の私は弱く叩くのではなく、治癒の奇跡で怪我を治すというズレた解決策を選んでしまった。


 もちろんおじいちゃんは呆れていたが、練習になるからと言って色々な奇跡を使いながら白樺の枝で叩くという遊びのような練習をさせてくれたのだ。


 そのときのおじいちゃんの笑顔は今でも鮮明に覚えている。


「ホリー、もういいかな」

「うん」

「やっぱりホリーのそれ、なんだか満足感あるよねー」

「そうなんだ。私も受けてみたいなー」

「それには人族の聖女様をもう一人連れてこないと」

「あはは。それ、無理だよ」

「だねぇ」


 そんな話をしつつバケツの水をサウナストーブにかけると、ブシューという激しい音とともに湯気が部屋中に充満した。


「んー、これだよねぇ」

「うん」


 私たちは木の椅子に腰かけ、じっと汗が垂れるのに任せる。


「んー、もう無理!」


 アネットがサウナ室を飛び出したので、私もそれに続く。


 森の中の細い小道を駆け抜け、先ほど釣りをしたボートが係留されている桟橋を駆け抜け、そのまま湖にダイブした。


 キンと冷えていて、驚くほど澄んだ水が熱く火照った私の体を冷やしてくれる。


 そして全身が水に()かったことで私の長く重たい髪が水に揺られて重力から解放された。


「ぷはっ」


 束の間の解放を楽しんだ私は湖面に浮かび上がると、陸地を目指してゆっくりと泳ぐ。


 そうしているうちに体の芯まで熱くなっていた体の熱は急速に冷め、私たちは再びサウナへと向かう。 


 これを三回ほど繰り返し、私たちはサウナから出たのだった。


◆◇◆


 ニール兄さんがサウナから上がってくると、時間はもう午後三時を過ぎていた。


「お腹空いたね」

「そうだなぁ。アネット、お願いしていいか?」

「もちろん。任せて」


 アネットが腕まくりをして厨房に向かったので、私もようやく乾きつつある髪を後ろで雑に結び、アネットの後を追う。


 アネットはハワーズ・ダイナーの娘だけあって魚を(さば)くのだってお手の物だ。


 私はそういったことはできないので、アネットのお手伝いが仕事だ。ゴミ捨てや皿洗いなど、アネットに言われたことをこなしていく。


 そうこうしているうちに、アネットはあっという間に二十匹以上いたクロマスの下ごしらえを終えてしまった。


「ホリー、この串は持って行って」

「うん」


 私は串が打たれた七匹のクロマスをお皿に乗せ、外にあるバーベキュースペースに運んでいく。


 そこではニール兄さんが火を(おこ)してくれていて、受け取ったクロマスの串を火にかけていく。


「ホリー、次ー」

「はーい」


 私はアネットに指示されて建物の中と外を往復し、必要なものを運ぶのだった。

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