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魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結済】  作者: 一色孝太郎


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第86話 ハッピー・バースデー(後編)

 お墓参りを終えてお店に戻る道すがらのことだった。


「ときにホリー先生」

「なんですか?」

「先生の店先の値札を拝見したが、あれは安すぎるのではないか?」

「そうですか? でもきちんと利益は出ていますし、それにこれ以上高くしたら本当に必要な人がお薬を買えなくなっちゃいますから」

「むぅ。だが……」

「私、別にお金儲けがしたいわけじゃありませんから。それにお金だったらこの前お手伝いをした分でものすごい大金を魔王様からいただきました。だからそれで十分です」

「……そうか。ならばせめて今日の夕飯でもおごらせてはもらえんか?」

「あ……すみません。今晩は予定があるんです」

「そうか。ならばせめていくつか軍で使える薬を売っては貰えんか?」

「いいですよ」


 こうして私はブライアン将軍にお薬を売ることになったのだった。


◆◇◆


「兵士の皆さんが使えそうな薬ですと、このあたりでしょうか」


 私は傷薬と痛み止めを差し出した。


「抗ゾンビ薬は去年のゾンビ被害が後を引いまして、在庫がほとんどないので町の外の方にはお売りできません」

「ああ、かまわん。止血帯などはあるか?」

「すみません。うちは薬屋なので止血帯はうちに駆け込んできた患者さんのためのもので、販売はしていないんです」

「そうか。じゃあ、傷薬と痛み止めを買えるだけ買おう」

「……いいんですか?」

「ああ。はっきりいってこの値段は投げ売りのレベルだ。ボーダーブルクで買えば十倍以上かかる。交通費を払ってでも、大量購入すれば安い」

「そうですか。でもホワイトホルンでは他の薬屋さんも似たような値段ですよ?」

「ははは。輸送手段が発達すればホワイトホルンは薬の一大産地になるな」

「え? あはは、そうですね」


 ブライアン将軍がおかしな冗談を言ってきた。ホワイトホルンは山あいにあるため、隣町に行くだけでも山を越えなければいけないのだ。そんなにたくさんの荷物を運ぶことなんてできるはずがない。


 そんな話をしつつも私は傷薬をニ十人分、痛み止めを十人分を包んでブライアン将軍に手渡した。


「合計で四リーレです」

「う、うむ。それにしても安いな……」

「さっきも言いましたけど、十分利益は出てますから大丈夫ですよ。お買い上げありがとうございました」

「そうか……。うむ。世話になった」

「はい。それと、祖父に会いに来てくれてありがとうございました」

「うむ。グラン先生によろしく伝えておいてくれ」

「はい」


 こうしてブライアン将軍はお店を出ていったのだった。


◆◇◆


 夕方になり、私はハワーズ・ダイナーにやってきた。入口には本日貸切の札がかけられている。


 私は扉を開け、中に入った。


「ホリー、お誕生日おめでとう!」

「「「おめでとう」」」


 するとアネットの号令でお客さんがみんなで私の誕生日をお祝いしてくれる。


 店内にはアネットだけでなくハワードさんとシンディーさん、ニール兄さんとそのご両親、大工のザックスさん、服屋のバートさんとハンナさんご夫妻、それから全裸四人組まで勢揃いしていた。彼ら以外にも近所の人たちが多く駆けつけてくれており、店内は満席状態だ。


「みなさん、ありがとうございます」


 私は歓迎を受けながらお店の中央に歩いていく。


「ホリーも今年で十六だね」

「うん」

「そうかぁ。あの小さかったホリーちゃんがもう十六かぁ。ついこの間まで赤ちゃんだったのになぁ」


 ザックスさんが感慨深そうに頷き、バートさんとハンナさんがうんうんと頷いている。


「赤ちゃんって十六年まえじゃないですか」

「十六年なんてすぐだよ」



 そう答えたザックスさんの表情に冗談を言っているような雰囲気は感じられない。どうやらザックスさんたちは本気でそう思っているようだ。


「ほら。そんなことより、主役の挨拶だよ」

「あ、うん」


 私はお店の中央の小さなお立ち台の上に立った。


「今日は私のために集まってくれてありがとうございます。皆さんのおかげで十六になれました。これからも薬師として、みなさんのお役に立てるように頑張りますので、これからもよろしくお願いします。それじゃあ、乾杯!」

「「「乾杯」」」


 すると一斉にグラスを掲げ、お酒を飲む人たちはすぐさまグラスを空けた。


 私はお酒を飲めないのでぶどうジュースにちびりと口を付ける。


「はい。ホリーの分だよ」

「ありがとう」


 アネットが料理を手渡してくれた。私の大好きなハワーズ・ダイナーの美味しい料理がこれでもかと少しずつ取られている。


 ちなみに今日はビュッフェ形式だ。これはハワードさんとシンディーさんもパーティーに参加できるようにという配慮だ。


「それから、はい。プレゼント」

「わ! ありがとう!」


 嬉しいことに今年もアネットからプレゼントを貰えた。


 というのも、誕生日にプレゼントを贈るのは家族や恋人、親友と呼べるような仲の相手だけだ。


 単に友達や同僚というだけでプレゼントを贈り合うようなことはない。


「開けていい?」

「もちろん」


 包みを開けてみると、なんと中からは淡い色の可愛らしい髪留めが出てきた。


「わ! かわいい!」

「でしょ? ホリーに似合うと思って」

「ありがとう。つけてくれる?」

「もちろん」


 アネットは私の髪を手櫛をしながらサッとまとめ、髪留めをつけてくれた。


「どう?」

「うん。ありがとう」


 生憎後ろ側なのでどんな感じなのかを見ることはできないが、あの可愛らしい髪留めをつけていると思うと気分が上がってくる。


「今年は俺たちからもあるぞ。ほら」


 なんと今年はハワードさんとシンディーさんからもプレゼントをしてもらえるようだ。しかし二人が差し出してきたのはなんと紙の束だった。


「ありがとうございます。あの、これは?」

「うちのランチボックス無料券二十枚だ。ホリーちゃん、たまに食べないことがあるだろう?」

「え? そ、そんなことないですよ。ちょっとたまに忙しいと忘れちゃうだけで……」

「そんなときはアネットにランチボックスを届けに行かせるからね。ちゃんと食べるんだよ」

「あ……は、はい。ありがとうございます」


 ちょっと恥ずかしいけれど、いつもお世話になっている二人から誕生日プレゼントを貰えるのは嬉しい。

 

「ホリー、その、これ」


 続いてニール兄さんがプレゼントをくれた。義手ではない右手で差し出された箱を受け取って中を確認してみると、そこには薔薇の花をかたどった飾りが入っていた。


 材質は金属とガラスを組み合わせてあるようだが、これは何に使うのだろうか?


「あ、えっと、ニール兄さん、ありがとう。その、綺麗だね」


 なんだかよく分からないが、私はとりあえずお礼を言った。だがニール兄さんは何か少し不満そうにしている。


「え? なになに? 何をもらったの? ん? なあに、それ?」


 アネットが横から覗き込んできて、やはりなんだかわからずに首を(かし)げている。


「そ、それはブローチなんだ。よかったらその……」

「え?」


 こんなに大きなブローチ、どうすればいいの? それにこんなに重たそうなのをつけたら服がダメになるんじゃ……。


「あー、ニール。ホリーの今の服だとこれ、無理じゃないかな? だから、ほら。その、今日はテーブルの上で飾っておこう?」

「そ、そっか」


 ニール兄さんはかなり恥ずかしそうにしている。


 ちょっとセンスがないとは思うが、きっとニール兄さんは不慣れな中一生懸命選んでくれたのだろう。


「ニール兄さん、ありがとう。これ、また今度着けるから」

「あ、ああ」


 私が笑顔でそう言うと、ニール兄さんはようやく笑顔を見せてくれた。


「プレゼントタイムも終わりだね。さあ、飲むぞー! ホリーちゃん、お誕生日おめでとう!」

「「「おめでとう!」」」


 そう言って全裸四人組を筆頭に酒飲みたちが次々とお酒を空けていく。


 ちなみに今日はビュッフェ形式なだけでなく、お酒も飲み放題だ。


 ろくでもないことになるのは毎年のことだが、今は夏なので全裸になっても彼らが風邪をひくことはない。


 ああ、夏とはなんて素晴らしい季節なのだろう。


 そうこうしているうちに酒飲みな人たちは酔っぱらっていき、私の誕生日にかこつけて半裸になってよく分からない歌を歌っている。


「おー↑めー↑でー↑とー↑おー↑めー↑でー↑とー↑♪」

「おー↓めー↓でー↓とー↓おー↓めー↓でー↓とー↓♪」

「ポーズ!」


 その歌に割り込んだ半裸のアンディーさんが筋肉がよく見えるポーズを繰り返している。


「ひー、ひー、ひー」


 そしてその様子を見たポールさんが引き笑いをしている。もちろん半裸だ。


 ああ、これは時間の問題だろう。


「ホリー、そろそろ」

「そうだね。いつもの部屋?」

「うん」

「ありがとう。えっと、それじゃあ、皆さん。今日は私の誕生日に集まってくれてありがとうございました。お料理とお酒はまだまだありますので、楽しんでいってください」

「えー? ほりーちゃーん、もうかえっちゃうのー?」


 べろんべろんに酔っぱらったサンドラさんが顔を真っ赤にしながら私のほうにふらふらと近寄ってくる。


 そんなサンドラさんの頭にシンディーさんのお盆が直撃し、ゴンといういい音を立てる。


「いった~い。きゃははははは」

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