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魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結済】  作者: 一色孝太郎


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第68話 戦いの裏で

 私は今日もボーダーブルク軍臨時病院にやってきた。今はコーデリア峠を巡って激しい戦いが行われているそうだ。


 だがこの病院の状況はかなり改善してきている。


 まず生死の境を彷徨うような重傷で入院していた患者さんの治療が今日で終わる予定だ。


 これで大量の魔力を消費する大治癒の奇跡でなければ助けられない患者さんがいなくなる。


 そうなればあとは魔力の消費の少ない中治癒の奇跡や治癒の奇跡で済むため、一日に百人以上の治療ができるようになる予定だ。


「あっ! ホリー先生! おはようございます!」

「おはようございます。チャールズさん」


 今日もチャールズさんが病院のエントランスで私のことを待っていてくれた。


 もちろん病院の廊下を歩いているとやはり視線を感じる。だがそれは初日に感じたものとは大分違い、好奇心と期待がないまぜになったような感じだ。


「ホリー先生、期待されていますね」

「期待ですか?」

「はい。もう患者さんたちの間ではホリー先生の噂で持ちきりですから」

「そうなんですか?」

「はい。生死の境を彷徨っていた患者さんでもホリー先生の奇跡の治療を受ければ元気に退院できるって」

「そういうことですか」


 ああ、おじいちゃんが教えてくれたとおりだ。


 理解を求めるのではなく、行動で示して信頼を一つ一つ積み重ねることこそが大事なのだと常日頃からおじいちゃんは言っていた。


 どんな患者さんにも真摯に向き合って、できる限りの治療をし続ける。そんなおじいちゃんの大切な教えがあるからこそ、たとえ敵意を向けられたとしても信念を持ち、私は薬師としてその仕事を全うできているのだ。


 私はおじいちゃんに改めて感謝すると、今日の患者さんの治療に取り掛かるのだった。


◆◇◆


 残っていた重症患者の治療をすべて終え、私は病室を後にした。


「ホリー先生! ありがとうございました! ホリー先生のおかげで……もう無理だと思っていた患者さんが……」


 チャールズさんは目に涙を溜めながらそうお礼を言ってくる。


「チャールズさん、まだ終わってないんですから。これからも患者さんは来るでしょうし、それにまだまだ入院患者さんはたくさんいるんですから、明日も頑張りましょう」

「はい!」


 そうしてエントランスに向かって歩いていると、廊下で寝かされている一人の患者さんが声をかけてきた。


「なぁ」

「はい?」

「あんた、奇跡の天使ホリー先生だろ?」

「はい? きせきのてんし?」


 突然言われたその聞き慣れない単語に私は思わず聞き返した。


「ああ。普通はもう助からねぇようなやつを、奇跡の力であっという間に治すんだろ? 戦友(ダチ)が嬉しそうに言ってた」

「奇跡はそうですけど……」

「そうか。その、なんだ。ありがとう」

「え?」

戦友(ダチ)はな。この戦争が終わったら村に帰って彼女と結婚する約束をしてたんだ。俺は言い伝えがあるからそんな約束するなって言っておいたんだけどよ。それでも生きて帰る希望にしたいからって言ってよ。そんで、そんでよぉ。あいつが死んだら俺はあいつの彼女になんて伝えれば……。マジで、マジでありがとう……」


 患者さんは涙声になりながらそうお礼を言ってきた。


「私は薬師ですから、当然のことをしただけです」

「でもよぉ」

「あなたも早く退院してくださいね」

「ああ……ありがとう」


 今日はもうこれ以上魔力を使うべきではないので治してあげることはできないが、ここ数日のうちに治してあげることができるだろう。


「それじゃあ、失礼しますね」

「ああ、呼び止めて悪かったな」

「いいえ」


 こうして私は病院を後にしたのだった。


◆◇◆


 翌日、私は患者さんから順に片っ端から治療していった。


 この病院には重症患者以外にも四百人ほどが入院しているそうなので、あと四日もあれば今の入院患者さんは全員退院できる計算だ。


 私が次々と治療をしていると、昨日私に声をかけてくれた患者さんのところにやってきた。


「あ、昨日の……」

「ああ。その、頼む」

「はい。治療しますね」


 この患者さんは骨折と捻挫で今は歩けない状態のようだ。であれば中治癒の奇跡で治せるだろう。


 私はすぐさま中治癒の奇跡を発動する。


「おお……すげぇ……」


 やがて光が消え、治療が完了する。


「終わりました。どうですか?」

「え? あ……すげぇ! 痛くねぇ! マジで奇跡の天使だ! あいつもこうやって治してくれたんだな。ありがとう! マジですげぇよ!」

「どういたしまして」


 そうして私は次の患者さんの治療に治療に移る。


 そうして一日に百人ほどの患者さんの治療を行い、三日目の朝を迎えた。


 残る患者さんはあと二百人ほどなので、ようやく折り返し地点だ。


 それと幸いなことに、私が来てからは新しい患者さんは運び込まれていない。


 戦闘が起きていないのか、それとも私たちが優勢で敵を圧倒しているのかはわからない。


 いずれにせよ戦争なんかで怪我人がでないことが、何より死者が出ないことが一番大切だ。


 このまま戦争が終わってくれればいいのに。


 私はそう願わずにはいられない。

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