第63話 従軍依頼
「よく来たな。そなたがホワイトホルンのホリーだな」
「はい。ホワイトホルンから来ましたホリーと申します」
「良い。楽にせよ」
そう言われ、私はスカートのすそをつまんで膝をちょこんと折るという窮屈な姿勢をやめた。
「エルドレッドより話は聞いている。市民を助けるために色々と尽力してくれたこと、感謝する」
「ありがとうございます」
私は魔王城の謁見の間で今、魔王様の御前にいる。数段高い場所にある玉座にはエルドレッド様とよく似た魔族の男性が座っており、ものすごい威厳を放っていて思わず圧倒されてしまいそうになる。
「さて、礼を言いたかったということもあるが、今日はホリーの腕を見込んで頼みがあるのだ」
「頼みですか?」
「そうだ。現在、我々は人族の国シェウミリエ帝国軍と戦争状態に突入している」
「え? 戦争ですか?」
たしかに人族の国がゾンビを発生させる魔道具を使って私たちにとんでもないことをしたということは知っている。だが、話し合いでどうにか解決することはできなかったのだろうか?
「まずは経緯を説明しよう。ホリー、君も知っているだろうがシェウミリエ帝国の者たちがゾンビ発生器を使ってボーダーブルクを攻撃したことは知っているだろう」
「はい」
「それに対して我々は抗議を行った。しかし、シェウミリエ帝国はそれに対してラントヴィルという我々の村を襲い、村の住民を皆殺しにするという暴挙に及んだ」
「みな……ごろし?」
「そうだ。建物はすべて焼き払われ、老若男女の区別なく殺された。特に女は……いや、それはやめておこう。それを知ったボーダーブルク軍は怒り、報復としてシェウミリエ帝国の砦を襲撃し、敵兵とその直接的な協力者を殺害した」
「……」
「それに対し、シェウミリエ帝国軍はコーデリア峠を陥落させるべくおよそ一万の軍を差し向けてきた」
「そんな……」
「そこでホリーよ。そなたには従軍し、負傷兵と捕虜の治療をしてもらいたい」
「え? 人族もですか?」
「そうだ。我々は殺すことを是とはしていない。それにそなたは人族だ。人族であるそなたが魔族側におり、捕虜の治療をしていると知らしめることで彼らにも我々は敵ではないということを理解してもらいたいのだ」
「……」
私は、どうしたらいいんだろうか?
いくら治療をしに行くとはいえ、いきなり戦争に行ってくれと言われても決められない。
それに、私は本当に行ってもいいのだろうか?
魔族を治療するのは当然だ。私は魔族であるおじいちゃんに育ててもらった魔族の同胞だ。
だからゾンビをわざわざ増やすような魔道具を使って酷いことをしてくるような人族は、私にとって仲間でもなんでもない。
あんな魔道具さえなければ、ニール兄さんだって腕を失うことなどなかったのだ。
そうしたことに無関係な人族を治療するならまだしも、その首謀者の仲間を私が治療していいのだろうか?
いや、でも私はおじいちゃんにどんな人でも助けられるならば助けるのが薬師としての正しい姿だと教わった。
傷ついている人がいるなら、助けを求めている人がいるなら救う。それが薬師だ。
でも、だからといって……。
「ホリー」
「え?」
私が悩んでいるのを察してくれたのか、ニール兄さんが優しく声をかけてくれた。
「自分が正しいと思うことをすればいいんだ」
「正しいと……思うこと?」
「そうだ。ホリーはなんだ? あのグラン先生の孫娘だろ?」
その言葉に私はハッとした。
「なら、グラン先生に恥じない道を選べばいいんだ」
「おじいちゃんに……恥じない道……」
ああ、うん。そうだ。私はおじいちゃんの孫娘で、おじいちゃんの教えを受けた薬師だ。
薬師は人を助け、救う。魔族とか人族とか、そんなことは薬師には関係ない。
「うん。ありがとう、ニール兄さん」
私がそう言うと、ニール兄さんは満足そうに頷いた。
「魔王様、わかりました。私に助けられる命があるなら、行きます!」
「そうか。辛い役目になると思うが、頼むぞ」
「はい!」
私がそう返事をすると、ニール兄さんが魔王様に向かって発言した。
「魔王陛下、お願いがあります」
「……なんだ?」
私の斜め後ろにいるニール兄さんに対し、魔王様は怪訝そうな表情を浮かべた。
「俺に! ホリーの護衛をさせてください! ホリーのことを待っている人がホワイトホルンにはたくさんいます。それなのに俺一人でホリーを置いて帰るなんてできません」
「……」
魔王様は近くに立っている人に何かを確認した。
「いいだろう。ホワイトホルンにもホリーを護衛する者を派遣するように依頼をしておこう。そうすればそなたも正式な任務としてホリーについていくことが出来よう」
「ありがとうございます!」
「では、早速ボーダーブルクへと向かってもらおう」
「はい」
「この二人をボーダーブルクまで護送せよ」
「はは! かしこまりました」
魔王様の命令に衛兵の一人が力強く返事をする。
こうして私たちは再びボーダーブルクへと向かうこととなったのだった。




