第20話 森の調査
私が浄化の奇跡を発動すると、町に向かって一匹でやってくる鹿のゾンビが塵となって消滅した。
「ホリーちゃん、お疲れ」
「うん。でもニール兄さん、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。まだ右腕は使えるからね。ゾンビ相手なら左腕がなくたって戦えるさ」
「うん……」
今日は定期的にやってくるゾンビの謎を解明すべく、衛兵さんたちと一緒に調査に行くのだ。
ただ、左腕を失ったニール兄さんまで一緒に来るということに不安を感じてしまう。
もちろん、ニール兄さんに塞ぎこんでいて欲しいわけではない。だが左腕をゾンビに奪われたというのに、またゾンビと戦うような任務に就いていいのだろうか?
というか、片腕で衛兵は続けられるのだろうか?
そんなことを考えていると少し気分が落ち込んできてしまった。そんな私を心配してか、ヘクターさんが優しく出発を促してくれる。
「ホリーちゃん、行くよ?」
「あ、ヘクターさん。はい」
こうして不安はありつつも、ヘクターさんに連れられて森へと向かうのだった。
◆◇◆
焼け焦げてしまった森に入って一日が経過した。しかしどうにもゾンビの出現の仕方がおかしい。
森に入ったその日はいつもの狩場に向かい、ゾンビスモークを焚いた。
だがなんと驚くべきことに、ゾンビが寄ってこなかったのだ。
これは、付近には一匹たりともゾンビが存在していないということを意味している。
だがゾンビスモークを焚き終わって一時間ほど経つと、なんと一匹の鹿のゾンビがふらりと現れたのだ。
もちろんたった一匹のゾンビに苦戦するようなことはない。
だが、私たちはゾンビスモークを焚いて周囲にはゾンビなどいないことを確認していたのだ。
だから、この鹿のゾンビは本来いるはずのないゾンビなのだ。
それこそ瞬間移動でもして現れたか、すさまじい速さで遠くから走ってきたかのどちらかしかありえない。
だが現れたのは普通のゾンビで、素早い動きなどしていなかった。
そして不思議なのは、この現象が森に入ってからずっと続いているのだ。しかもゾンビがやってくる方向にも法則性はまるでない。
森の奥のほうから来たかと思えば、ホワイトホルンのある方向から来ることもあるのだ。
「なんだか、突然ゾンビが現れているみたいですね」
「そうだね。まるで死体もなしにゾンビが生まれているような……」
「え? でも隊長、ゾンビは生物の死体が動いているんですよね? 死体がないのにゾンビが生まれるはずなんて……」
「そうなんだがなぁ……」
だが、何もないところに突然ゾンビが現れたとしか考えたほうがまだしっくりくるような異常事態なのだ。
と、次の瞬間だった。
ニール兄さんの目の前に熊のゾンビが現れた!
「えっ!?」
「ニール兄さん!」
突如として現れた熊のゾンビにニール兄さんの反応は遅れ、のしかかられてしまった。
「うわっ!」
「こいつ!」
ヘクターさんが風の刃を飛ばし、熊のゾンビの頭を切断した。
地面に転がった頭はそれでもなおニール兄さんに噛みつこうと大きな口を開けており、首無しとなった胴体のほうもニール兄さんを攻撃しようと前脚を振り上げた。
「ニール兄さん!」
私はすぐに駆け寄ると浄化の奇跡を発動し、熊のゾンビを消滅させた。
「ホリーちゃん、ありがとう」
「うん。ニール兄さん、大丈夫? 噛まれてない?」
「ああ、大丈夫だよ。怪我もしてない」
「ああ、良かった。でも、一応治療するね」
そして私はニール兄さんに治癒の奇跡をかける。
「おいおい、ニール。やられてんじゃねえよ、と言いたいところだがあれはさすがにな」
「隊長、すみませんでした。もう油断しないって決めてたのに……」
「まあ、いきなり目の前にあらわれるなんて予想できないからな。それより、ゾンビが出てきたあたりを調べるぞ。ニール、お前はホリーちゃんに付いていろ」
「はい!」
こうしてヘクターさんの指示で熊のゾンビが突然現れたあたりの地面をくまなく調べたものの、結局なんの手掛かりも見つけることが出来なかったのだった。
◆◇◆
それからさらに五日ほど調査した結果、次のことが分かった。
・ゾンビはきっかり三時間おきに突然現れること
・なんのゾンビが現れるかは決まっておらず、規則性もないこと
・ゾンビが現れる範囲はかなり広いものの、必ず一定の範囲内に収まっていること
これらのことを踏まえ、ヘクターさんはこのゾンビが現れる範囲にあるもの全てを燃やすという決断を下した。
ゾンビであれば火に弱いし、死体があったとしても灰になるまで燃やしてしまえばゾンビとして動き出すことはない。
だが、ただでさえかなりの部分が燃えてしまっている森をさらに燃やしてしまうとなると、元の姿を取り戻すには一体どれだけの時間がかかるのだろうか?
とはいえ、この出現し続けるゾンビを放置してはもっと深刻な事態になってしまうだろう。最悪の場合、またこの間のように大量のゾンビがホワイトホルンに襲ってくるかもしれない。
私たちは範囲内の木々をすべて切り倒し、火をつけた。
それから待つこと一日で、ゾンビの現れる範囲は完全に焼け落ちた。
木々も下草も、全て炭と灰になっている。
すると私たちから十メートルくらいの場所に再びゾンビが現れた。今度は珍しく人型のゾンビだ。腐敗が進んでいて人族のゾンビなのか魔族のそれなのかはわからないが、二足歩行でゆっくりとこちらに向かってくる。
そんなゾンビの足を衛兵さんたちはすぐさま風の刃で切り落とした。足を失ったゾンビはその場に崩れ落ちる。
私は動けなくなったゾンビに近づくと、浄化の奇跡でゾンビを消滅させた。
「まだ現れましたね」
「そうだね。やはりこのゾンビが死体から生まれているわけじゃないということは間違いなさそうだね」
ヘクターさんは神妙な面持ちでそう答えた。それからすぐに指示を飛ばす。
「よし。しばらくゾンビは出ないだろうからこの範囲を徹底的に捜索しろ! 何か怪しいものがあればすぐに知らせろ」
「はっ!」
こうして私たちは焼け焦げた臭いのするこの場所をくまなく調べるのだった。




