偏頭痛
三題噺もどき―ひゃくろく。
お題:嗚咽・右手・冬の体育
耳障りな雨音が窓を叩き、喚いている。
雨の日は嫌いだ。
気分は落ち込むし、頭は痛くなるし、ジメジメする。
「……、」
今日に限っていつも以上のテンションの下がり具合を見せている。
下手したら死にたくなりそう―なんてことを考えるから気分も落ち込む一方なのだが。
その上私は自室に光を入れることが嫌いなため、カーテンを閉め切っている。
もちろん遮光カーテン。普通のカーテンで日光なぞ遮れるものか。
「……、」
部屋の中は、クーラーに扇風機、ひんやりシーツに冷たい枕と、夏の夜をやり過ごすには必須の者達が働き、快適を与えてくれている。
しかし、今はそれすら煩わしく感じてしまう。
クーラーの風が肌に触れるのがキモチワルイ、扇風機のモーター音がやけに煩い、シーツも枕もぬるい気がして嫌で仕方ない。
「……、」
窓を叩く雨粒の音が部屋中に響いている。
うるさい、
冷房機器のモーター音。
煩い、
風も酷いのかガタガタと何かが揺れている。
五月蠅い、
あぁ、最悪だ。
頭が割れそうな程痛みが増してきた。
ガンガンする、
誰かにハンマーで殴られているような、脳みそを脳漿を、グリグリと抉られているような―吐き気がする。
「……、」
薬を飲めば落ち着きそうだが、動く気にもならない。
薬は念のため、手の届くところに置いてはいる。
しかし、水なしでそれを飲む気にはならない。
―というか動いたら本気で吐きそう。
「……、」
掛け布団の中から右手を出し、ごそごそと周囲を探る。
先ほどから、チラチラと光が目の中に入って鬱陶しい。
確かそのあたりにスマホを放り投げていたはずだ。
せめて時間だけでも確認してみよう。
ついでにゲームでもしたら気は紛れるかもしれない。
「……、」
コツン―と手に当たったそれを顔の位置まで持ってくる。
右手で持ったまま、電源を入れると、パッと光が目に飛び込んでくる。
ん。まだそんな時間なのか。
んん―これ以上見てられないな。
スマホのロック解除は諦め、また適当な場所に置く。
今度は光が入らないよう、画面を下に向けて。
「……、」
あ~どうしたものか…何も手につきそうにない。
体を動かすのもめんどくさい。
少し寒くなってきたから、扇風機だけでも止めたいけど動けない。
掛け布団でもかぶってればそれでいいかで終わってしまう。
せめて頭痛だけでもどうにかしたい…でも動くのは面倒…もういっそ水なしで飲んでやろうか…いやでも、空腹時に飲むのはよくないと言うし…というか極力飲みたくない。
薬と相性が悪いのか、頭痛薬を飲むと鼻の奥に薬品のような嫌なにおいが残るのだ。
それが嫌で、軽度の頭痛であればほとんど放置である。
「……、」
しかし本格的に冷えてきた気がする。
雨の空気も相まって、さらに寒気が増している気がする。
夏なのに寒いってバカらしくて笑えて来る。
ふと、学生の時の冬場の体育を思い出した。
北風が吹く中で、何周校庭を走らされたことか…あの授業が一番苦痛だったな…。
走るのも嫌いなうえに、寒い外で運動させられるのだから、好きなわけがない。
「……、」
しかし、あの時は動いていたからまだ体温は高かったのかもしれない。
どうだったかは覚えていないし、今の寒さをどうにかするほうが重要である。
「……、」
布団の中から片足をだす。
足元あたりに扇風機のスイッチがあったはずだ。
この辺…ん、あった。
足先の感覚だけで探り、無事止めることに成功した―よし、これで少しはマシになる。
「……、」
しかし、この頭の痛みだけがどうも、存在感を主張し続けている。
こめかみのあたりを、両手の人差し指を曲げその関節でぐりぐりと押さえつける。
それでも落ち着く気配はない―まぁ、これでどうにかなるとはさすがに思っていないが。
「……、」
あぁ、やばいやばい、
ただでさえ現在進行形でテンションは下がり続けているのに、頭の痛みに耐えかねた脳みそがどうにかしろと言わんばかりに涙まで流してきやがった。
やめてくれ。
泣くのは嫌いだ―余計に頭が痛くなる―
「―――、っ」
ほんとに、勘弁してくれ、頼むから、もう、泣きたくない、
泣くと、人に責められるのだ、馬鹿にされるのだ、居場所がなくなってしまうのだ、
全く、ホントに、嫌なことしかないのだ。
いつだったか、どこかの誰かが、泣きたいときに泣けばいいなんてセリフを放ったそうだが、
それができるのは、泣いたことがないやつだけだ。
泣いた後どうなるかを知らない人間だけだ。
本当に泣いたことがある人間は、そう簡単に泣けない。
「――っぁ、」
ああ、本当に。
こんな思考回路だから、自分で自分を追い詰めるのだ。
過去の嫌なことを思い出して、歯止めが利かなくなって―嗚咽まで漏れてきた。
誰かに聞かれたらどうする。
また泣いているのかと、馬鹿にされるだけだ。
「―――、」
嗚咽は治まらない。
もういっそ泣きつかれて寝るという手段でも取ってしまおうか。
子供だと思われても今更だろう―子供だから仕方あるまい。
「っ、―、」
涙が、嗚咽が、止まらない、止まってくれない。
嫌な記憶が思い起こされる、繰り返される、とめどなく溢れてくる。
あれもこれもこの雨のせいだ。
ここ数日の雨でろくに眠れていないからだ。
全部、ぜんぶ、雨のせいだ。
―私が死にたくなってきたのもきっと。