僕が恋した妖精
妖精が出てくるファンタジー小説を書きました。
ぜひ楽しんでいただけたら、嬉しいです。
ある夏の夜。僕は父さんと二人でカブトムシを捕まえに、車で山へ出かけた。その山の中の森で僕は父さんとカブトムシを探した。僕たちはその森の道をまっすぐに進んだ。
少し歩いた所に一本の大きな木を見つけた。僕と父さんはその木をじっくりと見た。しかし、そこにカブトムシはいなかった。
その後、僕たちはまた少し先を歩いた。しばらく歩くと、そこには立ち入り禁止の看板と黄色と黒のロープが張られていた。それ以上先は進めなかったので、僕たちは引き返すことにした。僕たちは先ほどの大きな木の前まで戻って来た。父さんと僕は再びその木を見て、虫がいるかを確認した。しかし、そこにカブトムシはいなかった。僕は残念に思った。
「今日は帰ろう」
それから、父さんがそう言って、その日僕たちは諦めて、家へ帰ることにした。
僕がそこから離れて歩いていると、後から誰かに見られたような気がした。僕は気になって振り返ると、その木の陰から小さな女の子がこちらを見ていた。が、女の子が僕に気づくと、その木の裏に顔を隠してしまった。
僕は不思議に思って、再びその木に近づいた。木の前まで行って、その裏を見たが、そこに先ほど見た女の子の姿はなかった。
おかしいな。さっきまでいたはずなのに。
それから、僕は父さんに呼ばれた。僕は帰ることになった。
僕が寝ようとした時だった。窓の外に何やら光るものが飛んでいるのが見えた。
僕はなんだろうと思い、窓を開けてそれを見た。
すると、その光るものがその窓から僕の部屋へ入って来た。僕は驚いた。それが僕の部屋を飛び回る。その後、それが僕の勉強机に落ち着いた。
見ると、それはさっき見た小さな女の子であった。身長は十センチくらいだろうか。金髪のショートヘアに、緑色のワンピースを着ている。
「こんにちは」と、彼女が言った。
「こんにちは……」と、僕も返す。「じゃなくて、こんばんはだよ。もう夜だから」
「ああ、そうだったわ。人間界は朝と昼と夜で挨拶が変わるって、メル先生が言っていたっけ?」
「君は誰?」
「あー、自己紹介まだだったわね。あたしはユーリ。見ての通り妖精よ」
彼女の背中には透明の羽とエルフの特徴である長い耳があった。確かに彼女は「妖精」のように見えた。
「妖精?」
「ええ、そうよ。あなたは?」
「え? あ、僕? 僕は野村一泰」
「カズヤスって呼べばいいかしら?」
「うん。ところで、どうして妖精の君がここにいるの?」
「逆に聴くけど、どうしてカズヤスはあの森に行ったの?」
「え? 僕? 僕はただ父さんとカブトムシを捕まえに、あの森へ行っただけだよ」
「そう」
「ねえ、なんで?」
「あの森の奥へは行った?」
「行ったけど、立ち入り禁止で行けなかった」
「あの奥に入ってみたいと思わなかった?」
「少し入ってみたいと思った」
「あの奥ね……。実は、あの奥に私たち妖精の国があるのよ」
「妖精の国?」
「ええ」
「君はどうしてここへ来たの?」
「実はね、お父さんを探しているの」
「お父さんを?」
「そう。私のお父さん、三年前に家出したのよ。で、国中を探したんだけど、どこにもいなかったの。それで、もしかしたら森の奥へ行ってしまったのではないかって国王が言ったのよ」
「森の奥って?」
「人間界よ」
僕が父さんと行ったあの森の奥には妖精の国なるものがあるのだという。彼女がそう話した。僕は驚いた。
「その後、妖精の国の兵士たちが人間界へ来て、私のお父さんを探したみたいなの。数日して、ようやくお父さんは見つかったらしいんだけど、お父さんね、そこで人間と付き合っていたみたいなの。しかも女性よ。それで、一度兵士たちがお父さんを国に連れ戻したらしいの。それから、父親が人間界に行ったことやそこで人間の女性と付き合っていたことで父親の裁判が始まったの。実は私たちの国では、人間との恋愛を禁止する条例があったの。お父さんはそれに違反してしまった。その結果、お父さんは有罪になってしまったの。それから、お父さんは自分の国の永住権を剥奪されてしまったの。そして、国外追放という形でそのまま人間界で生活することを余儀なくされてしまったわ」
「そうだったんだ……。それは可愛そうに」
「あたしね、お父さんに会いたいの。会って、お話がしたいわ。だから、一緒にお父さんを探してほしいの」
彼女にそう言われて、僕は彼女の父親を探すことにした。探すことにしたのはいいが、彼女の父親を探すのはとても困難なことであった。探すのは人ではなく妖精であるからだ。
「探すと言っても、手がかりがないと探せないよ」
「手がかり?」
「そう。例えば、当時、兵士たちはどこで君のお父さんを見つけたのかとか、お父さんのその恋人の名前とか」
「どこで見つけたのかは分からないわ。でも、その恋人の名前は分かるわ」
「なんて名前?」
「たしかマユミって名前よ」
「マユミか……。」
「知ってるの?」
「いや、全然。けど、その名前なら、この国にごまんといるよ」
「うそ……。じゃあ……。」
「うん、すぐには見つからないかもしれない。手当たり次第、聞いてみないと」
「そうなんだ……。」
「ユーリ、もう九時よ。そろそろ起きなさい!」
翌朝、母親がいつものように娘を起こしに部屋へ行くと、そこに彼女の姿がなかった。母親は金髪のロングヘアに緑色のドレスを身に纏い、背中には大きな羽が生えている。
不思議に思った母親は彼女の友人の家へと連絡をする。娘は友達の家に泊まっているのかもしれないと母親は思った。それから、娘の友達の家へ二、三軒と連絡をしたが、どこも娘が家に泊まりに来ていないようだった。
ふと、母親は娘が家出をしてしまったのかもしれないと思った。急いで彼女は警察へと連絡をした。五分後、警察が家へやって来て、母親は事情聴取を受ける。
警察たちは娘のユーリを捜索し始めた。
それから一週間経って、警察官が何人か家へやって来た。
「お母さまにお話が」
すぐにその一人の刑事が話し始めた。
「実は、一週間経った今も娘さんが見つかっておりません」
「そんな……。」
「我々は引き続き彼女の捜索をしてまいります。しかし、万が一見つからない場合は、国を挙げて捜索する必要があるかもしれせん」
「国を……。」
「ええ……。」
「刑事さん、どうかお願いです! 早く娘を見つけてください!」
「分かりました」
数日後、警察からその国のお城に情報が入り、国王が国を挙げてユーリの捜索を始めた。国王の命令により、兵士たちがユーリを見つけるため国中を探した。
それから二日後、お城に彼女が森の中へ入ったのを見かけたと目撃情報が入った。それは、その日ちょうど森にいた年配の男性からだった。
それを聞いた王様は彼女が人間界にいるのかもしれないと思い、すぐに兵士たちを人間界へ手配した。早速、兵士たちは森へ向かった。
「そう言えば、昨晩、マユミさんから電話があったわ」
ある朝、家族で朝ごはんを食べていた時、母さんがそう言った。
「マユミから?」と、父さんが言った。
「ええ」
「マユミさんって?」
僕がそう訊くと、「美香ちゃんのお母さんよ。いとこの」と、母さんが言った。
「ああ」と、僕はマユミおばさんのことを思い出した。
「しかし、なんで?」
その後、父さんが母さんに訊いた。
「子どもたちが夏休みだし、遊びに行こうかしらって話よ。今週の土日に泊まりに来るって」
「おー、いいじゃないか」
その後、僕はその名前を聞いたことがあると思った。それから、僕は思い出す。
それは、僕が探している人だった。
それから、その週の土曜日にマユミおばさん一家がうちにやって来た。
「おばさん」
「一泰君、どうしたの?」
「おばさんって、妖精を見たことありますか?」
「妖精?」
「はい」
「なあに、急に妖精だなんて」
「見たことないですか?」
「残念だけど、見たことないわね……。」
「そうですか……。」
僕は彼女の返答を聞いて、少しがっかりした。もしかしたら、マユミおばさんこそユーリの父親を見ているのではないかと僕は思っていた。
けれど、マユミという名前の女性はごまんといることもあるように、妖精を見たことある人などほんの一握りしかいないだろう。
金曜日の夕方、僕はリビングのテレビでアニメを観ていた。その時、電話が鳴った。母さんはちょうど夕飯の支度をしていたので、僕が電話に出た。
「もしもし? 野村です」
「あ、一泰か?」
「そうだけど、謙人か?」
「ああ」
その電話に出て見ると、相手は友人の村山謙人であった。
「どうしたの?」
「一泰、明日、空いてる? 一緒に遊ぼうよ」
それは彼からの遊びの誘いだった。
「うん、いいよ。で、どこで遊ぶの?」
「久々に一泰ん家でゲームしたいな」
「いいけど」
「じゃあ、それで! 何時くらいに行けばいい?」
「一時以降なら何時でも」
「じゃあ、一時に一泰ん家に行くわ!」
「分かった」
電話を切ると、「誰から?」と、母さんに訊かれた。
「村山から」と僕は答えて、「明日、一時に遊びに来るから」と、僕は母さんに言って、テレビの方に戻った。
「そう。分かったわ」と、母さんは言って、料理を続けた。
翌日、午後一時に謙人が家にやって来た。
僕たちは僕の部屋でゲームをして遊んでいた。
「ちょっと、トイレ」
僕はそう言って、用を足しにトイレに向かった。
トイレから帰ってくると、謙人は何かに怯えているようだった。
「どうしたんだ?」
「今、押し入れの隙間から小さな女の子のようなのが見えたんだ」
押し入れ。女の子。その二つの言葉で、僕はそれが何か分かった。それはユーリであった。
「ユーリだよ」
「何だよそれ!」
「お前が見たその女の子って言うのは、妖精なんだ」
「妖精!?」
彼は驚いているようだった。「妖精なんているか! 馬鹿!」
「いや、本当なんだ!」
僕はそう言った後、「ユーリ」と、その妖精を呼んだ。
それからしばらくして、押し入れからユーリが出てきた。
「うそ!?」
その時、妖精を見た謙人は驚いていた。
その後、「はじめまして」と、ユーリが謙人に挨拶をした。
「は、初めまして……。って、マジか! 本物の妖精だ!」
「だろ?」
「俺、妖精を初めて見たよ。妖精って本当にいるんだな……。」と、彼は妙に感心して言った。
「山があって、そこに森があるだろ? 奥まで進むと、立ち入り禁止になっていて、それ以上先に行けないことになっているんだ。実はその奥に、妖精の国というのがあるらしい」
「ほー、なんだかメルヘンチックな話だな」
「ああ、でも本当らしい」
「ふーん。てか、どうしてこの妖精さんはこっちの世界に来たんだ?」
「それは……。」
その後、僕は彼にユーリが人間界にいる自分の父親を探していることを話した。
「なるほどね」
「うん」
「それで? まだ父親は見つかっていないの?」
「ああ、そうなんだよ」
「ふーん。で、どういう風に探しているんだ?」
「手がかりはあるんだ」
「それは何?」
「父親の恋人の名前だけ分かっていて、マユミさんっていうらしいんだ」
「マユミさん?」
「そう」
「手がかりって、それだけ?」
「ああ」
「マジか……。少なすぎだろ、手がかりが。第一、マユミって名前なんて何万人いると思うんだよ?」
「ごまん」
「五万人じゃないぜ、ごまんといるだろ……。」
「うん……。」
「本当に父親を見つけるなら、色んな人の協力が必要だと思う」
「うん」
「だから、お前はお前の周りにいる知り合いにその名前の人がいるか聞いてみろよ」
「うん」
「俺も知り合いにマユミって人がいるかどうか聞いてみるよ」
「サンキュー」
「もし何か分かったら、連絡する」
「オッケー」
兵士たちが人間界に着いて数日後、彼らは一人の妖精をみつけた。女の子の妖精であった。間違いなく彼女はユーリであった。彼女の隣には、人間の男の子がいた。
「君、ユーリさんだね?」
兵士の一人が彼女にそう言った。
「はい、そうですが」
その後、ユーリがすぐに兵士たちに気づいて、そう言った。
「私たちは、あなたを探しに来ました。ユーリさん、今すぐ自分の国へ帰りましょう。君のお母さんが心配していますよ」
「嫌です!」
「何を言っているんですか!」
「お父さんを見つけるまで、私は帰りません!」
「そんなことを言って、許されると思いますか?」
「いや……。」
「第一、その隣にいる人間はなんですか?」
「カズヤスっていうの。私のお友達よ」
「お友達? 人間がですか?」
「ええ、そうだけど」
「本当にそうですか? 我々には誘拐犯にしか見えないのですよ」
その後、一瞬にして兵士たちは彼女を連れて飛んで行ってしまった。
気が付くと、僕はそこで一人立ち尽くしていた。
僕は彼女のためにも絶対に父親を見つけることにした。
その日はとても暑かった。こんな暑いと、海やプールでも行きたいくらいだった。僕はプールでも行こうと思い、友人の村山謙人の家に電話をした。
「もしもし? 村山ですけど」
「謙人か? 僕だけど」
「一泰か? どうしたんだ?」
「今日、お前、暇か? 暑いから、学校のプールでも行かない?」
「俺も行きたいと思ってた。いいよ」
それから、僕たちは午後一時に学校で待ち合わせることにした。
僕が学校へ着くと、謙人が校門の前で待っていた。それから、僕たちはすぐにプールへ向かった。
プールにはたくさんの学生たちがいた。僕たちは早速、男子更衣室で着替えて、シャワーを浴びてから、すぐにそのプールへと入った。
水がとても冷たくて気持ち良かった。僕たちはしばらくの間、その場にぷかぷかと浮かんだり、泳いだりして楽しんでいた。三十分ほどプールに浸かっていたが、少し寒くなり僕たちは一度プールから上がり、プールサイドで二人並んで体育座りをした。
「なあ、カズ、人探しじゃなくて、妖精探しは順調か?」
ふと、隣にいる謙人が僕に訊いた。
「いや、全然だよ」
「マユミって人は?」
「いとこのお母さんがマユミさんっていって、その人に話を聞いてみたけど、人違いだった」
「そうか」
「うん。そっちは?」
「俺もまだなんだ」
「そっか……。」
「そう言えば、隣のクラスに夏目さんっているんだけど知ってる?」
「夏目さん? いや、知らないや」
「俺、去年、その子と同じクラスだったんだけど、確か彼女の名前もマユミだった気がする」
「そうなんだ。じゃあ、もしかすると……。」
彼女は妖精を見たことがあるかもしれないのではないかと僕は思った。
「その可能性もある」
「で、その夏目さんってどんな子なの?」
「ええっと、地味でおとなしい感じの子だよ。普段、本とか読んでいたよ」
「ふーん。で、謙人はその子の家の電話番号とか、彼女の家とか知っているのか?」
「いや、どっちも知らないな……。その時、同じクラスだっただけで」
「じゃあ、彼女に接触するなら、夏休みが終わってからになるのか」
「うーん。そうなるな……。」
「あ!」
それから、僕はあることを思いついた。
「そういや、今日、彼女は来ていないかな?」
僕がそう言った後、謙人がすぐにそのプールを見回した。
それからしばらくした後で、「今日は来てないみたいだな」と、彼が残念そうに言った。
ちょうどその時、そのプールの監視をしていた若い女性の先生がホイッスルを鳴らした。見ると、二人の男子生徒がプールサイドを走り回っていた。
「ちょっと、そこの君たち! 走らないの!」
それから、彼女がそのプールに来ていた彼らにに注意をしていた。
その女性の先生に言われたその男の子たちはすぐに走るのを止めて、シャワーの方へと行ってしまった。
「なあ、そういや、去年三組の担任だった財部って女の先生いたよな?」
「あー、いたね。今、六年二組の担任だっけ?」
「そうそう。先生の名前って財部マユミじゃかったっけ?」
「あー、確かそうだった気がする」
「それなら、財部先生に話聞いてみようぜ!」
「そうだね。でも、どうやって?」
「あそこに女の先生いるだろ」
謙人はそう言って、プールの監視椅子に座っているあの若い女性の先生の方を見た。
それから、僕たちはその先生に財部先生が今日、来ているかを聞いた。しかし、今日は来ていたがもう帰ってしまったと彼女は言った。
「そうですか……。」と、僕が残念そうに言うと、「ええ。でも、多分また明日以降、午前中であればいつでも職員室にいると思うわ」と、その先生は僕たちに言った。
「分かりました。また、明日来てみます」と、今度は謙人が彼女にそう言った。
「うん」と彼女は頷いてから、僕たちに笑顔を見せた。
翌日、謙人と僕は十時に学校へ行った。財部先生に会いに行くためである。
僕たちは昨日同様、学校の校門で待ち合わせをした。そこで謙人と合流をした僕は早速、二人で職員室へ向かった。
職員室へ行くと、そこに財部先生がいた。僕たちは先生に話があると言うと、僕たちは会議室に通された。
「それで? 話って何かしら?」
「あの……。変な話ではあるんですけど、先生は妖精って見たことありますか?」
僕がそう訊くと、財部先生は不思議な顔をした。
「妖精? 妖精ってあの……おとぎ話とかに出てくるあの妖精かしら?」
「はい。そうです」
「妖精ね……。絵本とかそういうので何度か見たことはあるけれど、実際に見たことはないわね……。」
「そうですか」
「ええ」
「すみません。なんか変なことを聞いて……。」
僕がそう言うと、財部先生は「別にいいのよ」と、彼女は優しく言った。
「ところで、あなたは見たことあるの? 妖精って」
「はい」
「そう……。それは素敵ね」
「恥ずかしい話なんですけど……。」
「恥ずかしくなんかないわ。あー、私も会ってみたいわ、その妖精さんに」
「今度、連れて来てあげましょうか?」
僕がそう言うと、「ええ、今度見せてもらおうかしら」と、彼女は笑って言った。
その後すぐに、「財部先生!」と、別の先生が彼女を呼んだ。「お電話です」と、その先生に言われて、財部先生はその電話に出るべく、そのまま職員室へ戻ってしまった。
それから、僕たちは帰ろうとして校門まで戻ると、謙人が誰かを見つけたようだった。
「どうしたんだ?」
僕が訊くと、「夏目さんだよ」と、彼が言った。
見ると、そこに女の子二人が歩いていた。どうやらプールへ行くのだろう。僕は謙人に彼女へ声を掛けるように言った。その後すぐに、「夏目さん!」と、謙人は彼女に声を掛けた。
「はい?」
それから、彼女たちは立ち止まった。
「どこへ行くの?」
「プールよ」
「プールか! いいね。僕たちも昨日、プールに来てたんだ」
「あら、そう。あなたたち、また今日もプールに来たの?」
「いや、今日は先生に話があって来たんだ」
「そう。私たちもう行くわよ」
「あ、待って!」
「何?」
「夏目さんに聞きたいことがあるんだ」
「聞きたいこと?」
それから、僕たちは彼女に妖精を見たことがあるかどうかを訊ねた。
「妖精? 見たことないわ」と、夏目さんが言った。
「ホントのホントに見たことないんだね?」
僕がそう訊くと、「うん。ないわね」と、彼女が言った。
「そっか。ゴメン、引き留めて」
「妖精、妖精ってあんたたち、ゲームのやり過ぎか漫画の見過ぎなんじゃない?」
その後、彼女がそう言った。
それから、「美優ちゃん、行こ!」と、彼女が隣の子に言って、彼女たちはそのままプールの方へと行ってしまった。
結局、マユミという人に当たったが、二人とも妖精を見ていないのだと言う。僕は少し残念に思った。それから、妖精を見たというマユミさんを見つけるのは時間が掛かるなと僕は思った。
ユーリと離れてから、二週間が経った。
僕はまだユーリの父親を見つけられていなかった。
その夜、僕は父さんとカブトムシを採りに再びあの森へ行くことにした。
森に着いて、僕たちは前と同じように森の中を歩いて行った。しばらく歩いた所に、あの大きな木が見えた。早速、僕たちはその木の前へ行って、虫がいるかどうかを見た。
すると、その木の下にカブトムシやクワガタが何匹もいた。僕はカブトムシを見つけたことで、嬉しい気分になった。
僕は早速、そこにいたオスのカブトムシとメスのカブトムシを一匹ずつ持ち上げて、持ってきていた虫かごにいれた。二匹のカブトムシは少し暴れるように虫かごの中で飛び回ったが、しばらくすると落ち着いていた。
ふと、僕はユーリのことを思い出した。もしかすると彼女はこの森にさまよっているのかもしれないと思い、僕はそのまま森の奥の方まで走った。しばらく森の中を走るも、ユーリらしき妖精の姿は全くなかった。気が付くと、僕は以前見た立ち入り禁止の所まで来ていた。
僕はそこで立ち止まった。
この奥へ行くと、妖精の国があると言う。果たして本当なのだろうか。しかし、ユーリや妖精の国の兵士たちが僕たちの住む人間界に来たこともあるのだから、実際に本当にあるのだろう。
僕はその奥の方をじっと見た。ユーリはきっとその奥にある妖精の国にいるに違いない。僕はそこへ行ってみたいと思った。
「一泰」
その時、僕の後ろから声がした。振り向くと、そこには父さんがいた。
「父さん!」
「こんなところにいたのか! もう帰るぞ!」
それから、父さんがそう言った。
その後、僕の肩に掛かっていた虫かごの中にいた二匹のカブトムシが飛び回った。僕はそれに気が付いて、家に帰ることにした。
家に着いて、僕は自室で捕まえたオスのカブトムシとメスのカブトムシの様子を見ていた。彼らは無邪気に遊んでいるように見えた。僕はそれを見て、満足していた。
ふと何かが窓にぶつかる音が聞こえた。何だろうと思い、僕は窓の外を見た。
すると、窓の外で光るものが飛んでいるのが見えた。間違いなくそれは僕が前に見た妖精だった。
僕はすぐに窓を開けた。すると、その妖精が僕の部屋へ入ってきて、僕の勉強机に着地した。
「カズヤス、ただいま!」
ユーリがそう言った。
「ユーリ!」
「ビックリした?」
「うん、おかえり。ビックリした。よく戻ってこられたね」
「妖精の国を抜け出して、森に戻ってきたらちょうどカズヤスたちが見えたのよ。それで追いかけてきたわ」
「そうだったのか」
「うん」
ユーリはそう言って、微笑んだ。僕も彼女に笑顔を見せる。
「……ところで、お父さんは見つかった?」
それから、彼女がそう訊いた。
「まだなんだ」
僕がそう答えると、彼女は「そう」と言って、深いため息をついた。
「ユーリ、ゴメン」
「仕方ないわ。また明日、探しに行きましょう」
「うん」
「カズ、村山くんから電話よ!」
翌朝、電話を取った母さんが僕にそう言った。友人の村山謙人からだった。何だろうと思い、僕は電話に出てみた。
「もしもし? 謙人?」
「あ、一泰!」
「どうしたの?」
「俺の知り合いにマユミって人がいたんだよ!」
「え? 本当か?」
「そう。俺のいとこのおばさんがマユミって名前なんだ」
「それで?」
「そのおばさんに電話して、妖精の話をしたら見たことがあるって」
「どこで見たんだ?」
「それは、おばさんに話を聞いてみないと分からないよ」
「そっか……。」
「うん」
「おい、村山! 今度、その人に会えないか? 来週の土日にでも」
「ああ、俺はいいけど」
「頼む!」
「分かった。おばさんに電話して聞いてみるよ」
「サンキュー」
「じゃあ、またすぐに連絡する」
その後、しばらくして、彼から電話が掛かって来た。僕たちは来週の土曜日に、そのマユミさんの家へ行くことになった。
僕は早速、ユーリにその話をした。すると、ユーリもその日は一緒に付いて行くと言った。
翌週の土曜日の午後、僕は友達の謙人と一緒に彼のいとこのおばさんの家へ行った。
「いらっしゃい」
そこへ着いて、早速、おばさんが家の中に入るように言った。
「謙人君、久しぶりね」
「はい」
それから、彼女は僕の方を見て、「あなたがお友達の野村君かしら?」と言った。
「はい。野村一泰です」
「マユミさんですか?」
僕がそう訊くと、「ええそうよ」と、彼女が答えた。
その後、家の奥から「ママ!」と女の子の声がした。それから、奥から小さな女の子がこちらにやって来た。
「ママ、だあれ?」と、その女の子が言った。
「謙人兄ちゃんとそのお友達のお兄ちゃんよ」と、おばさんが言った。
「こんにちは」と、僕が挨拶をすると、その女の子はおばさんの後ろに隠れてしまった。
「ほら、しずく、挨拶は?」と、おばさんが彼女に言ったが、彼女は照れているようで、まだお母さんの後ろに隠れてしまっていた。
「しずくちゃんって言うんですか?」
僕がおばさんにそう訊くと、彼女は「ええ」と頷いた。
「立ち話もなんだし、入って」
それから、彼女がそう言って、僕たちを出迎えてくれた。
僕は靴を揃えてから、「お邪魔します」と言って、家に上がった。
「二人ともそこへ座って」
マユミさんがリビングのソファに腰掛けるように言った。
「今、飲み物とお菓子でも出すわね」
マユミさんはそう言って、僕たちにオレンジジュースとお菓子を出してくれた。
「いただきます」と言って、隣にいる謙人がオレンジジュースを飲んだ。僕も「いただきます」と言って、それを飲んだ。
「それで? 話ってなんだったかしら?」
その後すぐにマユミさんが切り出していった。
「妖精の話だったよな?」と、謙人が僕に小突いて言った。
「はい」
「あー、妖精ね」
それから、僕はユーリという妖精の話をした。
「そう。あなたも会ったのね。その妖精に」
僕の話を聞いたマユミさんがそう言った。
「はい」
「私も見たわ。その妖精に」
「その妖精ってどんな?」
「私が知っている妖精は男性よ」
「男性!」
「ええ。歳も年配くらいだから、おじさんの妖精って言ったらいいかしら」
「その妖精の見た目は?」
「ええっと、眼鏡を掛けていて、長髪でひげがあるの。細身で、いつもシャツにサスペンダーの服を着ているのよ」
ビンゴだ。前にユーリが言っていたその特徴と同じである。
その妖精こそユーリの父親に違いない。
「それで、その妖精って今、どこにいるんでしょうか?」
僕がそう訊くと、マユミさんが「しずく」と、別の部屋にいた娘を呼びだした。
それから、「なあに?」と、しずくちゃんが返事をして、こちらへやって来た。
「しずく、パパを呼んできて」と、マユミさんが言った。
「はーい」
それから、しばらくして、再びしずくちゃんがリビングへやって来た。パパを連れてきたらしい。だが、そこにしずくちゃんの父親らしき姿などなかった。一体どういうことなのだろうと僕が思っていると、「パパ連れてきたよ」と、しずくちゃんが言った。
「うそ!?」
見るとそこには、一匹の男性の妖精がいた。その妖精は、さきほどマユミさんが言った見た目通りの妖精であった。間違いなくユーリの父親だった。
「お父さん!」
すかさずユーリが言った。
「ユーリか!」
久々に娘を見た父親の妖精がそう言った。
「ええ、そうよ! お父さん、会えて嬉しいわ!」
「ユーリ、私も会えて嬉しいよ」
二人の妖精の親子が抱擁をした。僕は微笑ましく思った。
「お父さん、妖精の国に帰りましょう」
それから、ユーリがそう言った。
「ユーリ、悪いがそれはできないんだ」
「なんで?」
「実は父さん、妖精の国でのルールを破ってしまってな。その国の永住権を剥奪されてしまっているのだよ。だから、妖精の国には帰れないんだ……。」
「そんな……。」
「ユーリ、私はここで君に会えて嬉しいよ。もう満足だ。だから、もう帰りなさい」
「いやだ! あたし、お父さんと一緒に帰るわ!」
「帰りなさい!」
「いやよ! ……だって、あたし、お父さんのこと好きだもの。お父さんがいなくなってから寂しかったの。だから、あたし、お父さんに会いに来たの! お父さんを見つけたら、妖精の国に連れて帰ろうって思ったの。だって、あたしね、またお父さんとお母さんと三人で暮らしたいと思っているの」
「ユーリ……。」
しばらくした後、マユミさん家の玄関で扉を叩く音が聞こえた。
「誰かしら?」
それに気付いたマユミさんが扉を開けると、外から六、七人ほどの妖精たちが中に押し入って来たのだった。彼らは妖精の国の兵士らしかった。
「見つけたぞ! ユーリ殿だ!」
その中の一人の兵士がそう言った。
「あら、見つかっちゃったわ」
それから、ユーリが言った。
「ユーリ殿、今度こそ君を逮捕する!」
「え!? うそでしょ?」
「また君か……。」
一人の兵士が僕を睨み付けるように見て、そう言った。
「いや、僕はただユーリさんの父親を探すのをお手伝いしただけで……。」
僕がそう言うと、「そうよ、彼は関係ないわ」と、ユーリが言った。
「お父さんを探す? そんな馬鹿馬鹿しいことを……。父親ならもうとっくに国外追放しているよ。人間界にね」
その後、すぐに「ああ、そうだな」と、ユーリのお父さんが言った。
「き、貴様は、ユーリの父親ではないか!」
「ああ、そうだとも。ちょうど今、娘と再会したばかりでね。その少年の言っていることは正しいよ。彼が私と娘を合わせてくれたんだ。彼には感謝しきれないね」
ユーリの父親がそう言った。
「ほう、誘拐犯だと思っていたのだが、違うのか。これは失礼」
「いいんです」
「では、私はユーリ殿を連れて帰るとしよう」
「兵士さん、あたし、いやよ!」
「何を言っている!」
「あたし、お父さんと一緒じゃないと帰らないわ!」
「だが、この男はルールを破ったんだぞ!」
「知っているわ!」
「ユーリ殿、君には悪いがお父さんを戻すことできないんだ」
「どうして? それって法律で決められているから? それ自体おかしいんじゃない?」
「ユーリ殿、そんなことを言うんじゃない」
「だったら、あたしも帰らないわ!」
「ユーリ殿。……分かった。君も君のお父さんも妖精の国に連れて帰ろう」
「やったー」
それから、ユーリは嬉しそうに言った。
「良かったね。お父さん」
「ああ」
「これでまたお父さんと一緒に暮らせるわ」
「それも、少年のおかげだな」
「カズヤスよ」と、彼女が父親に言った。
「カズヤス、色々とありがとね」
今度はユーリが僕にそう言った。
「うん」と、僕は頷いた。
その後、兵士たちはユーリと彼女の父親を連れて、森の方へと飛んで行った。僕はユーリの父親を見つけた役目を果たしたことで満足していた。
それから、彼女と離れてしまったことで、少し寂しい感じもした。
数日後、妖精の国では、人間との恋愛を禁止しない条例が出された。それを聞いて、妖精たちは踊るように飛び回った。
それから、一週間後、ユーリが僕の元へやってきて、そのことを話した。
お読みいただき、ありがとうございました。
いかがでしたでしょうか?
今回、ファンタジーを書こうと思い、「妖精」をテーマにこの小説を書きました。
ついでに人間と妖精の恋愛模様も書こうと思ったのですが、僕とユーリが恋愛関係に至るまでにはいかなかったようです……。期待されていた方、ゴメンナサイ。
感想などをお待ちしております。