自由の渇望
明日、次男のシンゴがビワイチに出発します。ビワイチ――琵琶湖一周です。
自転車が好きな関西人なら、一度は思い描くのではないでしょうか。琵琶湖一周。距離にしておよそ200km。自転車で回るにはちょうど良い距離です。時速30キロペースで7時間程になります。
僕は、子供の頃、大阪府高槻市に住んでいました。位置的には、大阪の北部。京都にとても近い。自宅出発のビワイチを、過去に何度もトライしてきました。朝の6時頃に出発して、帰ってくるのは夜の22時頃だったことを憶えています。距離にして300km程。計算すると、時速19キロになります。
16時間、自転車を漕ぎ続けるというのは尋常ではありません。基本、出来ないです。僕の記憶では、半分に到達した時点で、足がおかしくなりました。筋肉痛と筋肉の収縮が始まります。自転車から下りると立っていられない。地面に這いつくばってしまいました。前半戦を調子良く走っていればいる程、後半戦は地獄が待っています。残りの半分を、足の痛さを我慢して漕ぎ続けなければいけませんでした。
高校生の頃も、大学生の頃も、社会人になってからも、何度もビワイチに挑戦しました。社会人の頃は、三段変速のママチャリで走り切ったこともあります。ビワイチを挑戦するときの僕の心理状態は、いつもストレスで苛まれていました。僕を抑圧する何かから逃げるようにして、自転車を漕いでいたのを憶えています。僕にとっての精神的解決が、ビワイチだったのです。
ビワイチの後は、付き物が落ちたように従順になります。悩んでいたことが馬鹿らしくなる。そんな感じでした。40代になってからは、僕のビワイチは、フルマラソンに変わりました。この話をし始めると、脱線してしまいます。
閑話休題。
明日、次男のシンゴがビワイチに出発します。親である僕が、とても楽しみにしています。ビワイチは、昨年も挑戦しました。ところが出発した日、災害の為に京都から滋賀に入る峠が土砂崩れで閉鎖されてしまったのです。意気消沈したシンゴを、車で迎えに行ったことを憶えています。今回は、その再挑戦になります。
今日は、シンゴと二人で出発に向けての荷物のパッキングを行いました。まず、必要な荷物のリストアップを、対話形式で行います。何が必要なのかを、僕が質問する形でシンゴに答えさせていきました。僕は、シチュエーションの説明はするけれど、必要な荷物は明言しません。シンゴに答えてもらいます。
――自転車がパンクしたら、何が必要ですか?
――汗をかくけど、衣類は何を用意しますか?
――食事は、どの様に摂りますか。また道具は何が必要ですか?
道具だけではありません。自転車で走るルートも考えさせました。前回は、グーグルナビを利用したことで、シンゴは失敗しました。グーグルナビは、計算上は最短距離を明示してくれますが、それは必ずしも自転車にとって走りやすい道ではありません。遠回りに見えても、走りやすい国道を走った方が結果的には早くなります。
想像してみてください。グーグルが示す細い道を、スマホを見ながら走り続けるのです。スピードは乗らないし、スマホを見続けなければなりません。前回は、スマホに頼り過ぎて、時間を喰いました。今回は、その反省も含めて、ルートの予習も行いました。
幼かったシンゴが、一回りも二回りも成長して帰ってくることを願っています。子供から、大人になる最初の切符は、自由への渇望です。でも、自由になるには代償が必要です。そんな事を感じてくれたら、とても嬉しい。楽しみです。




