道行
昨日の呟きで、大阪歴史博物館に行ったことを話しました。この大阪歴史博物館は、日本書紀に記述されている難波宮の跡地を眺めるようにして建っています。難波宮は、古代の日本の都だったそうで、大化の改新はこの難波宮で行われたみたいです。そうした、悠久の歴史に思いを馳せて、現代に至るまでの大阪を、ゆっくりゆっくりと見学をしていたのですが、今日は「あやしい絵展」について、僕なりの感想を少し述べたいと思います。
「あやしい絵展」は、東京でも開催されていましたし、人気の企画でしたのでご存じの方も多いかと思います。見学者は、圧倒的に女性が多かったです。今の時代、女性だから男性だからという分け方の表現には、少し気を使うのですが(小説では全く気にしていませんが)、圧倒的に女性の方が男性よりも、好奇心が旺盛で貪欲な気がします。
それは兎も角、「あやしい絵展」では、美しいけれども毒のある美人画が、沢山紹介されていました。どれもこれも、様々な角度で毒を吐いています。それは、人間臭いドロドロの毒もありましたし、幻想的で人間ではなくなってしまった毒もありました。どれもこれ見ごたえがあり、楽しんだわけですが、記憶に残る絵を一つ上げるとすれば、
北野恒富 「道行」
を、あげさせて頂きます。
近松門左衛門の話を題材に、娼婦と男が、心中をするために二人で連れ立って歩いている絵です。現世に未練を残しながらも、死に向かって歩く二人。男も女も、美しく描かれています。屏風に描かれた大作で、まるで目の前で起きているような迫力があります。二枚で一対になっていて、もう一枚の屏風には、死を意味する二羽のカラスが描かれています。この「道行」の絵の凄いところは、なんと言っても、二人の目の表現です。とても艶かしくて、現世で一緒になれない未練が色濃く表現されています。ですが、決意は固い。そんな、目の力に、僕は魅入られました。
長い間、この絵を見ていました。見ながら、ある事に気が付きました。作品を紹介する札に、福富太郎コレクションと書いてありました。
「あっ!」
思わず、心の中で叫びました。もう一度、順路を逆行して、一から見直しました。あるある、福富太郎コレクションが沢山展示されていました。ご存じの方もいるかと思いましが、東京のキャバレー王です。昭和時代、キャバレーで一時代を築いた偉人で、美人画の蒐集でも有名だった人です。彼は、有名無名を問わず、自分の目で見て気に入った美人画を山のように集めていました。それらの絵のことを、福富太郎コレクションと呼ぶそうです。
僕は長編小説「逃げるしかないだろう」を書くにあたって、現代には無くなってしまったキャバレーの情報を集めていました。そうした情報収集の時に、必ず上がってくる名前が福富太郎でした。記事を読むだけでも、大変魅力的な人です。その福富太郎が、美人画を集めていて福富コレクションとして存在していることを、その時に知りました。
「見てみたい」
そう、思ったのですが、なかなか東京には行けません。その時は、機会があれば、くらいに考えていたのですが、今回の「あやしい絵展」で見ることが出来ました。とっても、良かったです。機会があれば、皆さんも見てください。検索をかければ、直ぐに出てきますよ。