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だるっぱの呟き  作者: だるっぱ
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「そんなことより」発言の舞台裏

 2025年12月3日に行われた参議院本会議で高市首相は、11月6日の国会での党首討論で発言した内容について釈明に追われました。立憲民主党の野田代表が、企業・団体献金規制に関する質問をしたさいに、「そんなことより、是非、定数削減をやりましょうよ」と発言したのです。参議院本会議でこの発言に対して、「裏金問題の解決よりも議員定数削減の方が大切なのか」と問われた高市首相は、「政治資金のあり方と議員定数削減はどちらも大切なことで優先度合いを示すものではない」との考えを示しました。


 僕は古代史を勉強していますが、当時のヤマト王権を考えるうえで、この「政治とカネ」の問題は、参考になると思いました。なぜ政治にはカネが必要なのでしょうか。それは、自民党というコミュニティーを結束させる為の手段として、カネが有効だからです。「政治とカネ」の関係を理解する為に、「そんなことより」発言の舞台裏を時系列を辿って振り返ってみたいと思います。


 「そんなことより」発言に至った淵源は、自公連立政権の解消でした。2025年10月10日の午後、26年の永きにわたる自公連立政権の解消を、公明党が決断します。公明党は、「どうせ連立は解消できないだろう」「公明党は国交相のポストが欲しいだけ」「下駄の雪」と揶揄されていただけに、大きなニュースになりました。当時の公明党の斎藤代表の言葉を引用します。


「政治とカネを巡る問題について、明確かつ具体的な協力が得られなかったため、自公連立政権はいったん白紙とします」


 この連立解消の少し前、10月4日に自民党総裁選が行われました。高市早苗氏が新総裁に選出されます。その直後に、自公で党首会談が行われたのですが、斎藤代表は連立に向けて3つの課題を提示しました。それは、政治とカネの問題、靖国と歴史認識の問題、外国人との共生の問題になります。協議が進められましたが、「政治とカネ」の問題だけ折り合いがつきません。10月7日に再び政策協議が行われ、「政治とカネを巡る問題に解消が図られなければ、連立政権をつくることができません」と斎藤代表は訴えます。そして運命の分かれ目である10月10日がやってきました。


 午前中に党首会談が行われ、斎藤代表は、企業・団体献金の規制強化についての返答を求めます。高市総裁の返答は「これから検討する」という不十分な回答でした。これを受けて同日の午後に、斎藤代表は自公連立の解消を発表したのです。この発表に対して、高市総裁は自民党本部で会見に応じました。高市総裁は、険しい表情で「一方的に連立解消を告げられた」と述べたのです。


 4日に行われた自民党総裁選から10日の自公の連立解消まで、短期間で決断したように見えます。しかし、この「政治とカネ」の問題は昨年から協議されてきた問題でした。その経緯について振り返ってみたい。


 昨年9月に石破内閣が発足したあと、衆議院の解散総選挙が行われました。与党である自公が大きく議席を減らします。この敗因は、2022年に発覚した自民党による裏金問題による政治不信でした。公明党は自民党との連立合意において、石破元首相に「政治とカネ」の問題について「けじめをしっかりつけてほしい」と要求します。


 自民党は構造的に「政治とカネ」の問題を抱えていました。それが「企業・団体献金」になります。自民党の政党支部は、地方議員を含めると7700以上もありました。この政党支部それぞれが、献金の窓口になっていたのです。自民党本部は、この「企業・団体献金」の実態について把握できていません。これが裏金の温床になっていたのです。


 この「企業・団体献金」に対して、野党は「全面禁止」を主張しました。しかし、その主張を自民党が受け入れるのは難しい。なぜなら、「企業・団体献金」は、自民党が政党を維持するための大きな財源だったからです。平行線のまま、時間だけが消費されていく心配がありました。


 そこで公明党は、国民民主党と協議して第3の案である「規制強化案」を、2025年3月に共同提出しました。内容の骨子は、寄付の上限を設けることと、寄付の窓口は、政党本部と都道府県の政党支部に限定します。この案にも、自民党は難色を示しました。その後も収支報告書のオンライン化など、協議が重ねられていきます。


 2025年7月に行われた参議院選でも、自公は共に大敗を期しました。その後、夏の国会が開催されます。8月4日、立憲民主党の野田代表が、石破首相への代表質問に立ちました。野田代表は、公明党と国民民主党が協議してきた「規制強化案」に言及します。石破首相に問い掛けました。


「これを軸に、協議をしませんか」


 石破首相は前向きに応じました。ところが、この石破首相の回答を受けて強まったのが、自民党内部からの石破下ろしだったのです。首相の続投を明言していた石破首相でしたが、党内の力学に抗うことが出来ず退陣に追い込まれました。


 高市新総裁が誕生したときの自公の党首会談の大きなテーマとは、公明党と国民民主党が協議した「規制強化案」の受容だったと考えます。でも、高市総裁は、その案を飲むことが出来ませんでした。自民党内の「政治とカネ」の問題に対して、目をつぶったのです。


 11月に行われた国会での党首討論で、立憲民主党の野田代表は代表質問に立ちます。高市首相に対する質問の後半で、8月4日に石破首相に求めた「企業・団体献金」に関する「規制強化案」の話を振り返りました。その上で、自民党の政治献金に関する実態把握の取り組みについて問いただします。高市首相は、7700以上もある政党支部に対して、収支報告書のオンライン化の必要性は述べましたが、具体的な取り組みについては語りませんでした。そんな首相に対して、野田代表は更に畳み掛けます。


「立憲民主党が掲げる『企業・団体献金の全面禁止』を取り下げて、公明党と国民民主党が協議している「規制強化案」に賛同する」


 と明言したのです。この野田代表の質問に対して高市首相は、


「そんなことよりも、是非、定数削減をやりましょうよ」


 と論点をすり替えました。石破元首相は、野田代表の呼びかけに応じたために退陣に追い込まれています。このような自民党内に存在する力学を考えると、高市首相はこの問題に対して応じることが出来なかったのでしょう。これが、高市首相の「そんなことより」発言の舞台裏になります。


 「政治とカネ」の問題とは、自民党も含めた各政党が抱える問題になります。政党とは、国家に対する理想や理念を実現するために集まったコミュニティーですが、理念だけで結束できるものではありません。現実には、お金が必要になります。ここで、各政党の年間収入から、政党とカネの関係を比較して、それぞれの政党の個性を焙りだしてみたい。データは2024年の各党の収入報告になります。先ず、各政党の年間収入のランキングを見てみましょう。


 221.3億円 自由民主党

 184.6億円 日本共産党

 101.2億円 公明党

 90.9億円 立憲民主党

 42.9億円 日本維新の会

 15.3億円 国民民主党

 10.3億円 参政党

 9.6億円 れいわ新選組

 5.7億円 保守党

 5億円 社会民主党


 意外に思うかもしれませんが、弱小政党と思われがちな日本共産党と公明党の収入は、ランキング上位の2番目と3番目でした。両党に共通するのは、自前の政党新聞の収入が桁違いに大きいことです。共産党に至っては、国から政党交付金を受け取っていないのに自民党と比肩するくらいに収入が多い。これが何を意味するのかというと、安定した財務基盤のお陰でカネというしがらみに縛られることなく、理念を追求することが出来るということです。これは両党にとって、大きなアドバンテージでした。


 収入こそ7番目ですが、参政党も財務基盤が盤石な政党でした。収入の10.3億円の内訳は、政党交付金、党費、献金、事業収入になるのですが、ほぼ4等分づつになっていました。また、参政党の特徴として、党費のウェイトがかなり大きいことが挙げられます。どの政党も収入に党費がありますが、その割合は1割にも満たないのです。これが意味するところは、参政党は、党員による推し活という側面が、非常に強い。推し活政党という意味では、保守党の方が更にずば抜けています。参政党の党費割合は全体の4分の1ですが、保守党は何と4分の3が党費になっていました。


 対して、自民党、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、れいわ新選組、社民党は、国から支給される政党交付金の割合が7割から8割とかなり大きい。つまり献金に頼らざるをえないのです。これら5党は、多少の割合の違いこそあれ、よく似た財務基盤になっています。ただ、意外だったのはれいわ新選組が、このグループに入っていたことです。


 弱小政党の部類に入る、共産党、公明党、参政党、保守党は、財務基盤が安定した自立した政党と言えそうです。それぞれに強固な理念があり、小粒ながらも特徴は際立っていました。対して、同じ弱小政党でも、れいわ新選組の財務基盤は政党交付金の割合が高く献金に頼らざるを得ない。理念に関しても、消費税廃止一辺倒で、リベラルなんだけれどもリベラルらしい他の特徴は感じられません。過去には光り輝いた時期もありましたが、最近のれいわ新選組の伸び悩みを財務から読み取れそうです。


 さて本題に入りますが、自民党の収入の4分の3は政党交付金でした。報告されている献金は、全体の1割強といったところです。ですが、これを真に受ける人はいません。2022年に共産党の赤旗にスクープされた自民党の裏金問題を振り返ってみましょう。


 2018年から2022年の5年間で集めた裏金の総額は、安倍派が6億円、二階派が2億円、岸田派は3年間で3000万円とされています。この問題に関係した安倍派と二階派の議員は63人もいました。このことにより、2023年の12月には、松野官房長官を初めてとして安倍派の4人の閣僚と5人の副大臣が更迭になり、萩生田政調会長、高木国対委員長、世耕参院幹事長が党の要職を辞任しました。しかし、これらの問題は氷山の一角で、まだまだ闇は深いと思います。


 自民党は所帯が大きすぎます。ガバナンスを利かせるのは並大抵のことではないでしょう。ここで、政党の収入を、在籍する国会議員の数で割ってみます。この数字は、各政党の収入を国会議員一人当たりで換算したものですが、単純に比較することは出来ません。ただ、政党の盤石さを感じることが出来ます。順番は、先ほどの各政党の年間収入のランキングになります。


 7400万円 自由民主党

 12億3000万円 日本共産党

 2億2400円 公明党

 4700万円 立憲民主党

 8000万円 日本維新の会

 2900万円 国民民主党

 5700万円 参政党

 6400万円 れいわ新選組

 2億8500万円 保守党


 億越えは日本共産党、公明党、そして保守党でした。日本共産党に至っては、12億です。選挙のたびに全ての選挙区に共産党が立っていますが、この数字を見れば納得です。想像以上に財務基盤が弱かったのが、国民民主党になります。立憲民主党も決して強いとは言えません。自民党もこの数字だけを見る限りでは潤沢とは言えません。ただ裏金がありました。


 政党が結束するためには、大きく2つの力があると考えます。一つは理念。一つはカネです。自民党は、歴史はありますが統一された理念はありません。大所帯であるがゆえに、右の思想も左の思想も内包しています。そのような自民党において、強い結束力を形成するにはカネは絶対に必要なのでしょう。つまり「企業・団体献金」を規制するということは弱体化に繋がるのです。


 ただ、昨今の自民党は高市新総裁の誕生から右傾化という理念を手に入れました。国民からの支持率も依然として高い。この状況は、まだまだ続くでしょう。ただ今後は「企業・団体献金」の規制に関して、野党から強い要求を突き付けられていきます。選挙は水ものです。その時の風頼みでは、一時は良くても、何れ下降線に向かいます。「兵どもが夢の跡」にならないように、襟を正して欲しいところです。


 これからの政治世界は、一つの政党が過半数を取るという状況は生まれにくく、多党化の時代に入ったと言われています。このような政治状況の中で、一つの政党の主張が通ることは、まずありません。他党との合意形成が必要になります。右過ぎても駄目。左過ぎても駄目。国会で議論を尽くし、内容を磨いていく作業が必要になります。このような新しい政治世界において、何が必要なのでしょうか。先の国会で斎藤代表は次のように述べました。


「強い国家、強い経済、それも大切だ。しかしその先に、人の顔は見えているのか?」


 過去の世界大戦ではイデオロギーの元に、世界中で多くの人々が亡くなっていきました。経済戦争は現在進行系で貧富の差を広げています。公明党が掲げる中道政治とは、右や左の中間といった単純なものではなく、人間主義に立脚した政治信条が必要だと述べていました。2025年は日本の政治において、大きな転換期になったと考えます。


 歴史に関するエッセイはすこしお待ちください。最近、一つの本を読み込んでいます。それ以降になります。

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