食べてみなければ分からない
――焼き秋刀魚ならぬ、煮た秋刀魚を食べました。
最近の嫁さんは、YouTube番組「料理研究家リュウジのバズレシピ」を頻繁に見ています。最近の番組で、秋刀魚を煮て食べる動画がアップされていました。
「えっ! 秋刀魚を煮るの?」
「ええ、美味しいらしいの」
「ホンマに?」
「リュウジも半信半疑だったけど、焼き秋刀魚も美味しいけど、煮た秋刀魚も美味しかったって」
「まー、不味くはないだろうけど、同じ食べるなら焼いた方が美味しいと思うけど……」
そんな会話をしていた次の日、僕は嫁さんと買い物に出かけていました。店頭で美味しそうなプリップリの青い秋刀魚が、安く売っています。嫁さんに問いかけました。
「煮た秋刀魚が美味しいかどうか、検証してみようか?」
嬉しそうに嫁さんが振り向きます。
「うん、食べる。視聴者のコメントでは鯖缶みたいな味って書き込まれていた」
――鯖缶。
嫁さんに提案はしてみたものの、鯖缶の一言で煮た秋刀魚の味を想像してしまいます。不味くはないだろうけど、焼き秋刀魚を押しのけてまで食べるほどなのか……。少しテンションが下がりました。
購入した4匹の秋刀魚のうち3匹は、塩をして僕が焼きました。大根も一生懸命にすり下ろします。焼き秋刀魚を食べるのに、大根おろしが無いというのは、鬼が金棒を持っていないのと一緒。食えなくはないけど美味さ半減。どうせ食べるなら美味しい方が良い。もう一匹の秋刀魚の調理は嫁さんに任せて……押し付けて、いざ実食することになりました。
新鮮な秋刀魚でした。内臓が美味い。更には大根おろしも無茶苦茶に美味い。秋刀魚に大根おろしを添えるって、誰が考えたんだろう。秋刀魚の深い味を殺すことなく、それでいて澄み切った清涼感が口の中に広がります。美味い美味いの連呼。ビールも好きだけど、同じ飲むなら秋刀魚には日本酒だな……とか思いながら、嫁さんの煮た秋刀魚を眺めます。
「シェアしようか?」
「うん」
嫁さんの秋刀魚に箸を付けます。その身を口に運びました。
「ん!?」
嫁さんが興味深そうに僕の反応を窺います。
「どう?」
「美味い。というか滅茶苦茶美味い。焼き秋刀魚に比べて、とてもジューシーで身がホロホロ。水っぽくなるのでは……と心配していたけど全くそんなことない」
「でしょう~」
嫁さんが自慢げに僕を見ます。
「これ、塩だけで煮たの?」
「下拵えに砂糖も使ってる」
「へェ~」
「鯖缶って言うから、実は期待していなかったけど、これはこれでイケる。醤油を掛けなくていいかも。っていうか、そのままの方が秋刀魚の美味しさが際立って、シンプルに美味しい。アリだな」
「アリでしょ」
「うん」
煮た秋刀魚。美味しかったです。どちらかを選んでと言われたら、焼き秋刀魚に大根を選択すると思います。ただ、それは習慣的なもので、お父さんとお母さんのどちらが好き? と質問されるようなものです。本来は比較するようなものではない。どちらも美味しい……と思いました。
連休の登山に向けて、今朝、天気予報を見ました。八経ヶ岳の月曜日の天気は、気温マイナス3度。風速22mだそうです。
――ヤバイ!
根本的に計画を練り直す必要があります。先ず、マイナスの気温となると、山小屋での宿泊は心許ない。テントが欲しい。山岳用のテントはペラッペラで防寒に適していないように見えますが、そんなことはない。これまでにマイナスの環境でも活躍してくれました。また、風速が20m超えるのなら、僕では手に負えないかも……。ただ、登山を中止するという選択はありません。現地に足を運んでから考えます。秋刀魚もそうですが、食べてみなければ分からない。今回は経験値が溜まりそうです。




