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だるっぱの呟き  作者: だるっぱ
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化学調味料について

 昨年の12月、コロナに罹った僕は味覚障害になりました。甘いも辛いも分からない。毎晩ご飯を用意しているのに、これだと味付けが出来ません。初めての経験に驚きもしましたが、これは珍しいことだと思いなおして、稀有な体験を味わうことにしました。味は分からないんですけど……。


 あれから7か月あまり、舌に広がる味蕾君はスクスクと成長してくれました。してくれたのですが、どうも発育が良かったみたいでして、以前よりも味が分かりすぎています。感覚の話なので気のせいかもしれませんが、口にするものがどれも美味しい。毎日飲むお茶やコーヒーにしても味わいに新しい発見があり、新鮮なのです。そんな折、我が家にマルタイラーメンブームが到来しました。


 ――ご存じでしょうか?


「味のマルタイ」をキャッチコピーにした、福岡にある棒ラーメンのメーカーになります。広く普及しているインスタントラーメンの多くは揚げ麺になりますが、マルタイは生の棒ラーメン。インスタントなのに麺が本格派でした。二人分が一セットになっていて、価格は140円くらいでとてもリーズナブル。一般的な袋状のインスタントラーメンとは一線を画していました。大阪でも販売されていて、僕は野宿のお供にいつも利用しています。


 そんなマルタイラーメンに、味のバリエーションがあったのです。ご存じでした? 屋台とんこつ味、ごましょうゆ味、醤油とんこつ味、辛子高菜風味。大阪ではそんなバリエーションとんと見かけません。なぜそ存在を知ったかというと、YouTubeで有名な「料理研究家リュウジのバズレシピ」を嫁さんに勧められて見たからです。番組に刺激された嫁さんは、マルタイラーメンのバリエーションセットをネットで購入しました。息子たちも大喜び。そんなこんなでここひと月近く我が家ではマルタイラーメンがブームになっていたのです。ところで料理研究家リュウジはご存じでしょうか?


 彼は、マルタイラーメンのように一般的な料理研究家とは一線を画していました。一般的な料理研究家は素材の味を生かしたヘルシーで本格的なレシピを紹介しがちです。しかし、彼は違いました。がっつりと味の素を使います。YouTubeの中で堂々と使います。それをウリにしていました。この料理研究家が味の素を使うという行為に、ネット世界では賛否両論が巻き起こりました。


 ――仮にも料理研究家と名乗っておきながら、化学調味料を使うとはどういうことなんだ!


 この化学調味料論争がバズりまくって、料理研究家リュウジは時の人になりました。番組の登録者数は530万人。これ、結構凄いです。日本の人口の20人に一人が彼の番組を登録していることになります。彼の存在を押し上げた化学調味料ですが、その是非は意見が別れており、反対派は次のようなことも言っています。


 ――化学調味料は体に有害!


 これは根拠のない出鱈目だと思います。そもそも「化学調味料」というネーミングにセンスがありません。化学調味料は、うまみ成分であるグルタミン酸ナトリウムやイノシン酸ナトリウムを抽出して結晶化させたもので、日本が誇る技術でした。味覚は五味といって、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の5種類があると考えられているのですが、うま味を結晶化させたものが化学調味料になります。体に有害という言説は、ただの思いこみになります。


 そもそも調理において、手軽に調味料を使い料理を美味しくするというアイデアはアジア圏の食文化だと考えます。欧州では、調理において塩や酢それに胡椒といったスパイスを使う文化はありますが、うま味に重きをおいた調味料がありません。肉と骨と野菜を長い時間煮込むことでコンソメを作りますが、これは調味料ではなく調理の一環でした。現代では、結晶化されたコンソメがありますがこれは現代の技術になります。本来は、長い時間を掛けてうま味を抽出しなければ美味しい料理を用意することはできなかった。


 対してアジア圏、中でも日本は醤油や味噌といった調味料が和食における味付けの柱になりました。これらうまみ成分を含んだ塩味だけでも美味しいのですが、もう一つの柱があります。それが鰹節や昆布を使ったうま味成分でした。うまみ成分にこだわる日本人の気質が、化学調味料を誕生させたと考えます。


 YouTubeの中で料理研究家リュウジが語っていた内容が面白かった。現代の飲食店は、効率化や採算性を求められます。どんなに美味しい料理を提供したとしても、結果的に利益を生み出さなければ店を畳むしかない。来店されるお客様に、美味しいといっていただけて且つ利益を生み出すのなら、化学調味料を使うのは合理的な判断なのです。


 ――使わないのは経営者としてセンスがない!


 とまで、言っていました。この言葉は、かなり僕の心に刺さります。僕の原体験だったから。30代の頃に、飲食店を立ち上げたことがあります。話題の店になり、北海道からも沖縄からも、「テレビを見ました」と言って来店されるお客様でごった返したのですが、2年弱で店を畳みました。良い店でしたが、採算が取れなかったのです。経営者として、僕にはセンスがありませんでした。


 化学調味料は、使うと料理が美味しくなります。それは間違いありません。ただ、僕は使わないかな。化学調味料は、数学で言うところの方程式みたいなものです。使えば簡単に解を得ることができますが、それではプロセスが分からない。僕は、その美味しさがどのように表現されたのかを知りたい。


 僕はぬか漬けを育てています。最近は、イワシの粕漬けにハマっています。うま味というのは、様々な種類があり一つではありません。また、薄い味が美味しかったり、濃くすることで美味しくなる料理もあります。一様ではない。そうした料理に対して、化学調味料で味付けをすることを常態化してしまうと、多様性が分からなくなりそうなんです。もっというと、舌が馬鹿になる。


 最近は味蕾の成長が著しいので、いろんなものが美味しい。これまで興味がなかった味も、美味しいと感じたりします。最近、嫁さんに連れられてネパール料理の店に行きました。キーマカレーはよく調理しますが、ネパール料理の店のカレーに関するバリエーションの多さに驚きました。さすが本場の味。このときは二種類のカレーを堪能しましたが、それぞれに個性が際立っていました。面白い。


 来週は、久々に二泊三日の旅に出かけます。今からとても楽しみ。初日の晩は、白山の麓にある市ノ瀬野営場でキャンプをします。晩御飯のメニューは、いつもの焼き鳥で自宅で用意するのですが、夏なので冷凍していきます。一緒に、イワシの粕漬けも持っていって、炭火で炙りながら食べるつもりです。お酒は、福井の地酒。美味しそうなものを選んで、アテと合わせたい。


 二日目は、東尋坊周辺の土産物屋で魚の干物を買うつもりです。土産物屋は、何でも高いので、魚屋さんがあればそこで買いたい。そんでもって地酒も購入して、温泉で汗を流して、海岸のキャンプ場でテントを張ります。旅行先での晩御飯は、いつも炭火焼。炭に火を起こして、赤くなり始めたら干物を焼きます。その頃には、太陽が海に沈み始めるでしょう。夕日を見ながら晩酌を楽しむつもりです。福井ならではの、美味しいアテと、美味しい地酒に出会いたい。

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