表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
だるっぱの呟き  作者: だるっぱ
441/493

夏祭り運営

 毎年お盆が過ぎると、地元では小さな夏祭りを行います。一戸建ての住宅に囲まれた小さな公園が会場で、小さすぎて盆踊りの櫓を建てるスペースがありません。ですが、子供会や町会の有志による屋台も出店されていて、当日はそれなりに賑わいます。その夏祭りの運営についての話し合いがありました。昨年までは末席に座っていればよかったのに、今年は議事進行を僕が務めないといけません。かなりのプレッシャーでした。


 当自治会は600世帯以上の規模があります。古い町並みが残る地域で子供会の入会が年々減少しており、ご多分に漏れず高齢化が進んでいました。また年配の方が多いとはいえ、コミュニティーを牽引できる人材は少ない。今年、会長を選出することが出来なくて老人会が解散してしまいました。同じように自治会の存続も大変厳しいものがあります。現自治会長がなんとか続投を受けてくれたので存続が出来ましたが、来年度はそうはいきません。このような状況下での、夏祭りの運営に関する話し合いでした。


 近年は、自治会やPTAといった組織の必要性について是非を問う意見が散見されます。自治会は半ば強制的に入会を求められますし、会費も必要でした。役に就けば何かと忙しくなるので、役を受けたくない気持ちは理解できます。正直なところ、僕も役を受けたくない。それでも、自治会で責任を果たそうとしているのは、僕の中に理想があるからです。大それたことではありません。今回の夏祭りであれば、参画した皆さんに、楽しかったと感じてほしい。僕も楽しみたい。この地域で生活している老若男女の皆さんを繋ぐ架け橋として、自治会が機能できれば良いと考えています。


 自治会の働きを見ていくと、市政との連携や生活ごみの取り扱い、それに防災安全といった行政的な側面もありますが、それとは別にイベント関係の取り組みもあります。夏・秋祭り、運動会、餅つき等になります。祭りに関しては、運営するメンツは同じでも実行委員会が新たに組織されるので、厳密には自治会の運営ではありませんが……。


 これらイベントの運営は役に就いた人にかなりの負担を強いますが、成功すれば連帯感が生まれ盛り上がることが出来ます。近年、そうしたイベントは映画鑑賞やコンサートなど商業的成功を目的にするのが普通ですが、自治会のイベントは営利目的ではありません。地域の皆さんに喜んでもらうことが、一番の目的になります。なので、地域のボランティアで運営することに大きな意味があると考えています……が、これが難しい。


 コミュニティが一丸となって成功を収めるためには、団結させる何かが必要になります。過去において祭りは、神社の存在が団結の核になっていました。同じ神を皆で信奉することで強い連帯感が生まれます。祭りに参画する人々は自身を「氏子」と称しました。つまり私たちは同じ神の子供だと認識したのです。そうした神社を中心とした同族意識が祭りの運営には必要だったし、古代から続く日本の社会を支えた精神構造だと考えています。


 振り返ってみれば戦後の高度成長期では、この同族意識という世界観を会社という商業的な舞台でも再現しました。会社と宗教を同列に論ずるのは暴論に聞こえるかもしれませんが、認知革命的な見地からは同列の話になります。何かしらの偶像アイドルを中心にして、コミュニティを結束させるという動きは、ホモサピエンスならではの挙動だからです。


 しかし、バブルの崩壊によって会社に対する信用が失墜しました。会社と雇用者との関係性に変化が現れます。会社に雇用されて仕事はするけれど、社員は会社を信用しない。両者の絆は、給料の額面で計られるようになります。そうした両者の関係性に更に大きな亀裂を作ったのがコロナでした。まだ記憶に新しいかと思いますが、コロナが開けると、巨大組織の闇が次々と暴かれていきます。ジャニーズ、宝塚、ダイハツ、トヨタ、極めつけは自民党の裏金問題でした。このような世相において、人々は次の偶像アイドルを求め始め始めていると考えます。推し活ブームはその表れだと考えるし、今回の参議院選挙にもその風潮がみられました。個人的には、現代の最大の偶像は「お金」と「個人主義」のハイブリットだと考えています。


 このように変化し続ける日本社会において、地元の自治会には団結を促すような核がありません。神社はありますが、それは建物が残っているだけで精神性は受け継がれていません。古くから住んでいる限られた人だけが大切に護っています。自治会600世帯のほとんどの方は新興住宅に住む人々で、神社との縁がありません。僕もそうでした。この地域で生活を初めて20年以上も経つのに、自治会と縁したのは5年ほど前からです。その中で、地域における神社の存在を感じることが出来ました。ただ、神社を中心として、昔に還れというつもりはありません。言ったところで、難しいと思います。僕も信じていない。


 夏祭りの運営は、古くから自治会に関わってきた方が中心になり運営されています。僕のような新参者は少ない。夏祭りを運営するだけなら、今年は何とか乗り切れると思います。しかし、今までのやり方をトレースしているだけだと、いつか限界が来ます。600世帯と言わずとも、その半分でもその十分の一でも連携し合えるような核が欲しい。それは宗教的なものでなくていいのです。皆が振り返る旗印が欲しい。夏祭りの運営をしながら、そんなことを考えています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ