息子の物語
朝早く、大学生になって今年から東京で一人暮らしを始めた次男からラインがあった。次男からの連絡と言えば嫁さんばっかりで、内容もお小遣いの催促だったりする。父親の存在の薄さを感じていたので、このラインに舞い上がった。タッチしてラインを開いてみる。内容は、原稿用紙11枚分の物語だった。
――!?
ファンタジー世界の内容で魔王の誕生と没落の話だった。神話のような散文詩のような文体で、中世を模したゲームのオープニングで流れていたら恰好良い。感想が欲しいとコメントがあったので、二回読み直して長文の感想文を送った。
原稿用紙11枚というのは短編にしては短いけれど、それでも書くのは大変だ。しかも、次男はこれまでに文字を綴るという経験が無かっただけに、書き上げたことに驚いた。美術でもプログラムでもそうだけど、最後まで書き切るからこそ力になる。僕は学生の頃から日記は書いてきたけれど、小説は最後まで書き切れなくて挫折を繰り返してきた。小説を初めて書き切ったのは48歳の時。だから、感想の冒頭に、
――中途半端な作品の量産よりも、一本の完結が優る。
と言葉を添えた。それにしても息子が物語を書いたことが嬉しい。伸び始めた芽を潰してはいけないと思い、感想は否定的なコメントを避けた。文章の技術や、僕なりの文章に対する考え方も紹介した。昼過ぎに、再び次男からラインがある。
「今電話してもいい?」
親に電話をするのに、気を使った問いかけ。僕の方から電話をかける。電話は直ぐにつながり、久しぶりに次男の声を聞いた。自分が想像した物語に対する僕の反応が嬉しかったようで、声が弾んでいる。分かる、分かる、その気持ち。自分の作品は子供のように可愛い。
何でも、この物語を書き上げるのに2ヵ月も要したそうだ。切っ掛けは、学校のクラブ活動。次男はボードゲーム部に所属していて、次男が発案したゲームを、現在クラブで製作している。その世界観を表現するために、物語を書いたそうだ。そうした息子が活躍している話は、親としてとても嬉しい。普段の生活も気になるので、質問してみた。
「飯は食っているんか?」
「う~ん。あんまり」
「自炊はしているんか?」
「やっていない。この間は、栄養失調で体調を崩していた」
「えっ、大丈夫なん?」
次男は極度の偏食で、果物は嫌い、野菜も嫌い、辛いものも苦手。好きなものは、うどんとお好み焼き……。粉もんばっかりでは、栄養素がありません。食事を改善するように伝えながらも、他にも色々な話をした。30分以上もの長電話。僕の影響からか、次男は比較宗教学に興味がある。その知識が創作ボードゲームの下地になっていた。このまま文章を書き続けていくのなら、今後も次男と意見を交わすことが多くなるかもしれない。楽しいひと時でした。
親は子供の成長を願うもの。でも、子供の成長に直接関与してはいけない。何故なら、自ら伸びる力を遮ってしまうから。親は環境を整えて、見守ることしかできない。一人暮らしの中で、様々な先輩や同窓生、それに先生の影響を受けていくでしょう。逞しく育ってほしいなと、陰ながら祈っています。




