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だるっぱの呟き  作者: だるっぱ
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お酒とアテ

 義弟から日本酒を頂きました。秋田県の栗林酒造の「春霞ー原酒」と「春霞ー純米吟醸」の二種になります。美味しい日本酒を頂いたのなら、そのまま飲むだけではもったいない。合わせるアテにも気を使いたい。冷蔵庫にある材料から吟味して、以下の様なメニューを用意することにしました。


・しめ鯖

・大根と蒟蒻を入れたどて焼き

・だし巻き玉子の大根おろし醤油

・茹でた小松菜の鰹節醤油かけ

・蒟蒻のぬか漬け


 洋酒と日本酒、どちらも好んで飲みますが両者には決定的な違いがありました。それはストライクゾーンの違い。洋酒はアテを選びます。例えばウィスキーであれば、ナッツやチーズとの相性は良いですが、それ以外はなかなか受け付けません。赤ワインにしても、魚介類とは決定的に合わない。


 対して日本酒は、ストライクゾーンが広い。油ものの天ぷらに合わせることが出来るし、酢の物でも構わない。特に相性が良いのが魚で、煮物でも干物でも刺し身でも、魚の料理は何でも合わせることが出来ます。日本酒は、非常に懐の広いお酒だと思います。


 今回のアテの主役は、しめ鯖とどて焼きになります。しめ鯖は、コストコで購入しました。昆布と酢で締めた商品で、非常にうまい。しめ鯖は当然のごとく酸っぱいわけですが、少し醤油を付けて口に入れます。すると口の中でブワッと酢の香りが広がり、追いかけるようにして昆布や醤油に包まれた鯖のイノシン酸の旨味が、レッドカーペットを歩くアカデミー賞の俳優のごとく、僕の舌を闊歩してくれました。会場では俳優を讃える万雷の拍手が鳴りやまないのですが、この拍手が日本酒だと思うのです。


 日本酒の特徴って、主役も張れるけれど、主役を引き立てる時に最大の魅力を発揮します。日本の礎を作った聖徳太子は十七条憲法の第一条において「和を以て貴しとなす」と宣り給いましたが、この「和」の精神を日本人以上に体現しているのが日本酒じゃないでしょうか。日本料理と大変に仲が良い。


 義弟からは、二種の日本酒は飲み比べてほしいと言われました。最初に「春霞ー原酒」を頂きます。生酒なので酵母が生きています。要冷蔵。度数は高め。どっしりとしたボディーの太い口当たり。甘さの奥に微発砲の小さな爆発を口の中で感じました。


 ――これ、主役やん!


 前言撤回。この日本酒、とても旨いです。これだけで良い。もちろん料理とも合いますが、酒そのものが旨い。世間には水のように澄んだ日本酒もありますが、僕はどちらかというと個性がある方が飲んでいて楽しい。純米吟醸も頂きました。すっきりとした味わいで、背筋を伸ばしたような凛とした美しさがあります。浮世絵に描かれる美人画の様でした。


 さて次に二枚看板の一翼であるどて焼きに箸を伸ばしました。本物のどて焼きはスジ肉を使いますが、今回は豚バラで代用しました。生姜と鷹の爪を油で軽く炒めて、追いかけるようにして豚肉を投入します。全体に火が通ったら、みりんと砂糖を加えて、更に炒めます。この段階で、カラメル化を意識しました。味がグッと深まります。醤油とだし汁を加えたら、予め茹でていた大根と蒟蒻を投入して、グツグツと煮ます。頃合いを見て味噌を投入するのですが、この味噌は一年半ものの自家製の味噌でした。メイラード反応によって赤黒く変色していますが、塩味はそれほど強くない。麹の影響で、どちらかというとほんのりと甘い。味噌を入れてからも更に煮込んで、大根と蒟蒻に旨味を煮含めていきます。そんなどて焼きが、口内に広がりました。


 ――旨い


 味噌の味と日本酒はよく合います。というか、どちらも麹から作られた発酵食品で兄妹の様な間柄です。合わないわけがない。お互いを労わるようにして、僕の口の中で抱き合います。古事記の中で、兄妹である狭穂彦王さほひこのみこ狭穂姫命さほひめのみことが愛し合う悲話がありますが――そんな話は全く思い出しませんが――どて焼き、美味しかったです。


 主役の二枚看板は個性が強かったので、脇役は控えめなものを用意します。だし巻きは、卵の中に紅ショウガと刻みネギを入れました。軽くふんわりと焼き上げます。その上から、大根おろしをのせて、醤油を回しかけました。ところで、大根おろしって美味しいけど、すり下ろすのにかなり疲れます。今回用意した料理の50パーセントの労力は、大根おろしだけで消費されました。でも、この大根に癒される~。


 小松菜は、出汁で煮びたしにはせず、あえて塩ゆでだけで仕上げました。鰹節と醤油であっさりと頂きます。メニューのラインナップは緩急が必要です。シンプルな小松菜が美味しい。で、最後の大御所が、蒟蒻のぬか漬けでした。


 ――蒟蒻のぬか漬け、食べたことありますか?


 僕は初めてでした。いつもはとことん安い蒟蒻ばかりを食していたのですが、今回は生芋から仕上げた少しお高い蒟蒻を使います。以前、おでんに使った時に、この蒟蒻の存在を知りました。まじで美味い。蒟蒻に対するイメージが変わりました。口当たりが柔らかく、とてもなめらか。その蒟蒻を、フォークでグサグサと穴を開けて下茹でします。その後、流水で冷ましたものを、キッチンペーパーで水気をとりぬか床に入れました。これがね、旨いんですよ。マジで。


 ぬか漬けは、ぬか床の良し悪しで美味しさも左右されますが、今後、蒟蒻のぬか漬けは、僕の中の定番に昇格しました。ただ、惜しむらくは、これだけの料理を一人で食べていたことです。嫁さんは帰るのが遅くて……。朝、目が覚めると、全ての料理が平らげられていました。それは嬉しい。

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