膝の違和感が回復した話
一週間後の登山に向けて気持ちが昂っている僕ですが、一抹の不安がありました。何度も吐露しているように、膝の不調になります。故障まではしていないのですが、膝裏の筋が張ったような違和感を抱えていました。ランニングをした後、筋トレをした後、妙に具合が悪い。無理を控えるようになっていました。でもこのままの状態で登山を行うのも心配です。体調を万全にしたい。そんなわけでチャクラ研究に行きました。
――チャクラ研究所?
チャクラとは、サンスクリット語で「車輪」や「回転」を意味しています。このチャクラを整えることで、身体を健康な状態に戻していきます。雰囲気的には整体に似ていて、源流はヨガに通じています。先生は同世代で、若い頃からの友達になります。時々一緒に酒を飲むこともあります。僕の身体は度重なる事故によって、膝、腰、頚椎を損傷していました。季節の変わり目になると、どこかの部位の調子が悪くなる。ギックリ腰も結構な頻度で発症していました。そんな僕が調子が悪くなると駆け込むのが、チャクラ研究所なのです。
お世話になるのは調子が悪くなった時だけではありません。40代の頃は毎年マラソン大会に参加していましたが、大会の前になるとチャクラ研究所に行きます。100kmマラソンに挑戦した時も、昨年の大杉谷から大台ヶ原まで往復した時も、お世話になりました。今回の登山は過去一に困難な登山になるので、やっぱりチャクラ研究所に行ってきました。
医療という観点で、西洋的なものと東洋的なものを比較した時、ミクロとマクロの違いがあると思います。西洋医学は身体を分解して考えます。とても科学的な手法で、それぞれの部位の特徴だけでなく顕微鏡を使って細部にわたって解明していきます。ただ欠点として、治療が対処療法になりがちなのが気になります。まー、僕は専門家ではないのでこれ以上のことは言えませんが……。
東洋的な医学は、治癒能力という人間が本来持っている力を生かすために環境を整えようとします。季節や食事と言った環境的な要因もそうですが、人間の体そのものも関係性で作られています。その関係性を、チャクラと表現しているようです。イメージとしては、この世界と人間の関係も、身体と心の関係もネットワークで考えているようで、仏教的な依正不二や色心不二といった世界観と通じているように思えました。施術を受けている時、先生は特徴的なキーワードを発します。
――バランス。
――繋がる。
バランスという観点では、身体の左右のバランスや内臓の位置を気にされます。先生の表現では、人間の身体はヤジロベーのようなものらしいです。地球の磁場に対して垂直で、頭の天辺から糸で吊り下げられている様な身体が伸びた状態がとても自然で、身体に負荷がかからない。
ところが季節の境目や暴飲暴食の影響で、そのバランスが崩れるときがあります。内臓が元気なうちは張りがあるのですが、疲れ等で張りがなくなると伸びてしまい、体の下の方に落ち込んでいきます。すると、姿勢が俯きになり背中が丸まります。このような姿勢のままだと、肩こりや頭痛、ギックリ腰や腰痛になりやすい。このようなバランスが崩れた状態は、体中のネットワークが切れた状態になります。先生は、この切れたネットワークをチャクラを整えることで繋いでいきます。
施術の前に、先ず僕のバランスの悪さを確認しました。今回は寝そべった時に、身体の歪みによって左右の両足の長さが違うことを知らされます。先生は言いました。
「バランスが崩れた状態で、トレーニングを続けると更に悪くするよ」
なるほど、納得です。バランスの崩れ方を確認すると、実際の施術がはじまります。説明が難しいのですが、先生と助手と僕の「三人がかりでの強制的なヨガ」といった感じになります。萎縮した体を伸ばしていくのですが、整い始めると身体がスーッと楽になっていくのが分かります。気が巡り始めたのか体温の上昇も感じました。ズレていた左右の足の長さも整います。膝の違和感が無くなりました。先生は言います。
「膝が悪いんじゃなくて、バランスが崩れたことによって膝に負担がかかっていたんや。それなのに無理に膝を治療したら、更に悪くなるで」
あー、なるほど。自分の身体を通しての説明は説得力があります。家に帰ってからスクワットをしてみましたが、違和感は感じません。これなら山に登れにそうです。
GWに入り、ネットでは大雪渓から白馬岳に登ってきたレポートがアップされ始めました。とても参考になります。その中で、白馬村で自転車をレンタルして通行止めの山道を走って登山口に向かっている方が複数おられました。検索してみると、白馬村で自転車をレンタルしているお店が次々とヒットします。中には、マウンテンバイクが良いよ、と宣伝されている方もいました。
――マジで?
僕のスーパーカブは50ccの原動機付き「自転車」なのですが……、もしかすると乗り入れが出来るかもしれません。それなら余計な往復12kmの山道を歩かずに、大雪渓のアタックだけに集中することが出来ます。少し見通しが明るくなりました。
山登りも含めて、旅は出発前の妄想段階が一番楽しい。あれやこれやと考えている段階は、とてもウキウキします。旅が始まってしまうと案外と修行だったりします。僕の場合なら、大阪から白馬まで450kmの道のりを12時間もかけて走ります。更に、山登りは5時間もかけて3,000mの山の頂に登るのです。ずっと無心のまま黙々と作業を続けます。正に修行。登頂した時も、多分、「やっと登った」という安堵感しかないかもしれません。でもね、それが良い。僕はその過程が好きです。
以前にも語ったことがありますが、旅には二種類あります。過程を楽しむのか、目的地を楽しむのか。一般的な旅は、目的地を楽しみます。新幹線を使ったり飛行機を使ったりと、移動過程はなるべく省略する傾向があります。対して、ツーリングや登山といったアクティビティな旅は、過程こそを楽しみます。僕も、過程を楽しみたい。膝の調子が整ったことで、気分がかなり昂っています。




