誕生日プレゼント
3月7日――僕の誕生日になります。早いもので54歳になりました。僕の誕生日プレゼント、ということで昨日は嫁さんが飲みに連れて行ってくれました。お店はホワイティうめだにある天ぷら屋さん。屋号は「天はな」になります。大阪市内で飲むなんて、最近は滅多にありません。お店は梅地下という人が賑わっているど真ん中。晩酌は欠かしませんが、普段は自分でアテを用意する家飲みばかり。久々に外で飲めるということで、もう鼻息が荒い。嫁さんと二人で阪急電車に乗って向かいました。
「天はな」は、まだオープンして間もない店です。なぜこの店に向かったのかというと、長男ダイチのアルバイト先だったからです。以前にもご紹介しましたが、ダイチと僕はコミュニケーションが取れない状態になっていました。僕が話しかけても完全無視。返事すらしてくれない。もう3年以上もこのような状態です。ただ最近は少しだけ変化があって、返事を返してくれたことがありました。そんな小さなことが嬉しかったりします。
嫁さんを通じての話によれば、僕と嫁さんが飲みに行くことを、ダイチは楽しみにしているようです。それには理由がありました。オープニングスタッフとしてアルバイトを始めたものの、客足が伸びていない。そのことに、店長でもないのにダイチは気に病んでいたようです。非番の時に、友達を連れてアルバイト先に飲みに行ったこともあったそうです。そんなこともあり、嫁さんにも飲みに来てほしいと頼んでいました。
阪急電車に嫁さんと並んで座っていると、休憩時間に入ったダイチから嫁さんにラインが届きます。内容は、「天はな」で扱う日本酒のラインナップでした。秋鹿、片野桜、大門、国乃長、呉春。どれも大阪にある地酒になります。このチョイスは非常に珍しい。その中で特に興味を持ったのが「国乃長」になります。高槻市富田にある酒蔵で、若い頃に近所に住んでいました。ただ、飲んだことはありません。どんな味なのか楽しみになりました。
阪急梅田駅を下車した僕と嫁さんは、地下街に向かいます。凄い人の波でした。梅地下はラビリンスという印象がありましたが、店は直ぐに見つかります。僕は店に向かって指をさしました。
「あった」
「どこどこ?」
まるで初めて都会にやってきたお上りさんのような僕と嫁さんは、キョロキョロしながら店の中に入ります。天ぷら屋さんですが、スタイルは立ち飲み。コの字型のカウンターの中心で天ぷらを揚げています。その天ぷらを揚げていたのが、なんとダイチでした。
――あら!
ちょっと吃驚。少し緊張しながら店に入ります。事前に僕たちが店に来ることを店の店長やスタッフに伝えていたようで、店の方々に挨拶をされました。また、「ダイチは仕事が良く出来るんですよ」と仲間のスタッフがダイチを持ち上げてくれます。こちらも嬉しくなってきました。
「とりあえず生」
と注文をしたうえで、適当に天ぷらを注文します。早速、ダイチが天ぷらを揚げはじめました。そんなダイチを温かい目で見つめる僕。なかなか嬉しい展開です。天ぷらが揚がると、ネタの名前を紹介しながら、ダイチが目の前の網皿に載せてくれました。事務的に卒なく天ぷらをのせていくダイチ。どのような心中だったのでしょうか。気になるところです。
木津市場と連携しているようで、魚の仕入れに強い店のようです。穴子の天ぷらがかなり旨い。ハマチのお造りも注文しましたが、とっても美味しい。嫁さんも喜んで食べています。ただ酒に弱いので、ビール一杯だけで顔は真っ赤になっていました。さてビールを飲み切ったので、いよいよ本命です。
「日本酒をください」
「何にしましょうか?」
「国乃長を」
桝の中にグラスを入れた状態で、目の前でお酒を注いでくれます。グラスから溢れたお酒を底にある枡が受け止めました。期待が膨らみます。口にしました。
――旨い!
やや甘口で、柔らかくて丸いお酒でした。フルーティさも感じれてとても旨い。飲んだ後にほんのりとした余韻を楽しむことが出来ました。日本酒の味を例えるとき、尖がっている辛口と、まるい甘口があります。これはどちらが美味しいのか……という指標ではなくて、性格の違いになります。また酸度も重要で、薄いと切れがあり口に残らない。濃いと飲んだ後に余韻が残ります。
嫁さんの話によれば、秋鹿が美味しかった……とダイチが言っていたそうです。試しに秋鹿も飲んでみました。端麗辛口。これはこれで美味しいのですが、僕の気分は国乃長でした。その後もお代わりを頼み続け、飲んで食った二人のお会計は1万円。嫁さんが2千円くらいで、残りが僕だと思います。いくら誕生日とはいえ、はしゃぎすぎました。
今朝、嫁さんからラインがありました。昨晩、ダイチはご機嫌で帰ってきたそうです。僕たちが帰った後、お客の流れが途切れず、オープン以来、最高の売り上げを叩き出したとか。そんな話を聞くと、僕も嬉しい。とても素晴らしい誕生日プレゼントでした。ありがとう。




